トイレのハナコは昼限定
トイレは用をたすためだけの場所……ではない。一週間前から、俺は昼休みの間はトイレで過ごしていた。
……ああ、といっても、いわゆる「便所飯」ではない。
いじめられていたわけでも、友達がいなかったからというわけでもない。ではなぜ俺が体育館近くの、お世辞にもきれいとは言えないトイレで過ごしているか?
「遅い!」
それはこのトイレの主のせいに惚れてしまったからである。
「ははっ、悪い悪い。」
いつもの罵倒なので受け流す。さて、今日は何を話そうか……。
「じゃっ、あたし今から漫画読むから」
「え?」
楽しい会話が始まるものかと思ったら、ハナコはそんなことを言い出した。
「一週間に一度の楽しみなのよねえ」
そう言ってハナコはどこからともなく漫画を取り出し、一心不乱に読み始めた。
「何か気になるもん、あるのかー?」
隣の個室に移り、俺はハナコに語りかける。
「…………」
「おーい」
「うっさい」
一蹴された。仕方なく、俺はぼーっとしながら、ハナコが漫画を読み終わるのを待った。
「あー面白かった」
昼休みが終わる五分前に、ハナコが声を上げた。
「やっぱりだらくえ(堕落クエスト)は、最高よねえ」
「そうかー」
読んでいない漫画……というより、「読まない雑誌の漫画」なので分からない。
「ところで話は変わるけど、あんたって友達いなかったの?」
「何でだよ?」
「いっつもこんなとこ来てんじゃん。友達いたら来るわけないでしょ?」
「ははっ、残念だったな。休日に一緒に映画に行って、ゲーセンでコインゲームをするくらい仲の良いダチはいたよ」
「そんな強がらなくていいんだよ? あたしが友達になってあげるから、元気だしなよ」
「いや、お前とは友達になれねえ」
売り言葉に買い言葉。俺はムキになり、ついそう言ってしまった。
「……ごめん」
「別にいいよ。実際、こんなんじゃ一緒に映画にも行けないし」
「……」
そこで、予冷が鳴った。
「あっ、じゃあ行くよ……」
「うん、またな」
俺はハナコに別れを告げる。少ししてハナコの姿は眼の前から消えた。
「中々上手く伝わらないものだな……」
残念がる一方で、俺はこのぐらいの距離感が気に入っていた。
もしも伝わったら消えてしまう……そんな感じがしたからだ。
「さて、と……」
兎にも角にも、ハナコと会えるのは明日になってからだ。
それまでの間、俺はいつもどおり、学校内をふらふらーっと、飛び回ることにした。




