電話が運ぶかすかな命
「もしもし?」
『…………』
「もしもーし?」
『…………』
「おい――!」
『……あ、あなたは運命を信じますか?』
腹の底から叫ぼうとした直前、電話越しの相手は泣きそうな声を出して、そんなことを言った。
「……は?」
『運命、デスティニーです……』
「……切るぞ?」
『待ってください、切らないでください』
俺がそう言うと、相手は必死に食い下がってきた。
「冗談だよ。それで質問の答えだけど……信じる信じないは、その時による」
俺はまず、互いの気持ちを落ち着かせるために、相手の話に乗ることにした。
『……というと?』
「占いと同じだ。悪いことが起きたら『これは運命だ』って思うことにしている」
自分にとって良いことはすべて「自分のおかげ」。悪いことが起きれば「神さまが悪い」。俺はずっとそういう風に考えてきた。
『……なるほど、それであなたは今――』
「そういうあんたはどうなんだ?」
被せるようにして、俺はこちらから質問した。
『え、それはもちろん、信じてますよ。それで――』
「はっ、これは運命じゃねえよ。何千何百とやった上での、『自分のおかげ』だ」
運命なんてくだらねえ言葉で片付けてほしくない。
『はい、そうですね……それで、あなたは今どこにいますか?』
女の必死な声が伝わってくる。さすがに無駄話をしすぎた。俺は女の言うとおり、本題に入ることにした。
「俺がいるのは――」
――ぷつっ。
狙ったかのようなタイミングで、電話は切れた。俺はもう一度かけてみる。だが、つながらない。
「……これも、『運命』か」
もっと早く言っておけばよかった……。明らかに俺が悪い……。
だが究極のところ、俺は悪くない。だから俺はこれも「神さまのせい」にした。
「……さて、運命に打ち克ちますか」
落ち込んでばかりもいられない。
俺は砂漠と化した街をバックに、再び電話を片っ端からかけ始めることにした――。




