はーみっとくらぶ
ある朝のことだった。目を覚ますと俺の横に女がいた。
「…………」
女は下着姿で、死んだように眠っている。見たことないが、えらい美少女だった。
「もしもし~、部屋間違えてますよ~?」
俺は女の体を揺すって起こそうとする。だが女はまったく起きる気配を見せない。
「……死んでんのか?」
不安になった俺は女の首筋に手を当てる。ドクドク、ドクドク……脈はあった。
「……よし」
色々と考えた末、俺がたどり着いたのは、「この部屋から出る」だった。
「あぶねえあぶねえ……」
あんな状態を誰かに見られたら、十中八九俺が悪いことになる。最悪、死ぬ。
「さてと……」
幸いにも、まだ誰にも見られていない。俺はなるだけ早く、アパートから離れることにした。
「あ、おはようございます」
だが運の悪いことに、アパートを降りてすぐ、知り合いの男に出会った。
「…………」
「どうかしましたか?」
「ん、ああいや……昨日どこ行ってたの?」
「何言っているんですか? ライブですよ声優の! 先日教えたでしょ?」
「……ん、ああそうだったな」
戸惑っていたせいもあり、失言してしまった。俺はあははと笑い誤魔化した。
「もう、最高でしたよっ!」
眼鏡の奥の男の目がギラッと光る。男は熱心にヲタトークを繰り広げる。
「――ああすいません! つい夢中になって……」
「いやいいよ。それじゃ」
「はい、それじゃっ!」
男はルンルン気分で俺が出てきたアパートへ向かっていく。
「……」
俺は男の後ろ姿をじーっと男を見る。
眼鏡をかけたボサボサ髪。典型的なオタク青年……とてもじゃないが信じられない。
「――って、俺よりマシか」
男は自分で働いた金で生活している。その時点で俺の何倍、何十倍も立派だ。
「……しばらくはやめとくかあ」
万一にでも邪魔をしちゃならない。
俺は当分の間「ヤドカリ」はやめ、「ホームレス」に戻ることにした。




