合格の資格
一年ぶり、とうとうこの日がやって来た。僕は家を出た。
「今度こそ合格してやる」
僕は自己暗示をかけながら歩いていく。
「ふふん、その顔は自信満々ってところかしら」
途中、ユミカに出会う。同じ場所に向かう僕たちは並んで歩き出した。
「まあね。そういうユミカは?」
「愚問ね。目をつぶってでも合格できるわ」
「……ああうん」
とにかく自信は伝わってきた。僕らは一緒に並んで歩く。
「そういえばあなたは何回目なの?」
今年初めての試験を受けるユミカは、僕にそう尋ねてきた。
「五回目かな」
「ごかっ……! すごいわね」
「全然すごくないよ」
いいかげん合格しなければ、もう精神的に耐えられそうにない。そう考えると、ぐっとプレッシャーがのしかかってきた。
「……そんなに難しいの?」
それはユミカも同じだった。ユミカはさっきまでの自信たっぷりな顔から不安そうな顔に変わりだした。
「いや、問題そのものは簡単だよ。全三問だからね」
「逆に難しいでしょ、それって……最終定理でも解かせるつもりなのかしら……」
「はは、違うよ」
もしもそうならどれだけ楽だっただろう……。そうこう話している内に、僕たちは目的地にたどり着いた。
「……」
何度も受けているはずなのに、やはり緊張する。僕は入り口に足を中々踏み入れられなかった。
「ほら、行くわよ」
彼女は僕の手を握ったまま、無理やり中に連れて行く。
「どうも……」
この場にぴったりな陰気な受付の元へ行く。
「……こりないですね」
「ははは……!」
何度も言われているのでさすがに慣れた。僕は名前を記入し、提出する。
「じゃ、女子はこっちみたいだから」
「うん。お互い頑張ろう……えっと」
もしかしたらこれで終わりかもしれない……。僕はユミカになにか声をかけようとした。
「……また会おう」
「え? うん……」
不思議そうにしながらも、ユミカは手を振って右側の通路を歩いていった。
「……さてと」
緊張は消える。僕は左側の通路に向かって歩き出した。
「ほー、また来たのか」
部屋に着くと、いつもの試験官が皮肉を叩く。僕はにこりと笑って席に着く。
「それでは始める。全問正解で合格だ」
試験官の声で、テストが始まった。問題は十二問の中から常にランダムで選ばれる。
そして五回も試験に挑んでいるということもあり、今回の三問はすべて見たものだった。
どれも不正解になった問題ばかり。つまり、あの時とは真逆に答えればいいだけだ。
これで合格間違いなし。僕はペンを握って正解を書いていった。
だけど、気づいたときには僕はあの時と同じ答えを書いていた。
「試験終了」
あっという間に時間が来た。試験官が答案用紙を持っていく。そしてすぐに採点を終了し、
「不合格」
淡々と六度目の烙印を押された。
「あの……」
「なんだ?」
「この試験……ってなんなんですか?」
ずっと疑問だったことを、ついに僕は尋ねた。
「……あってないようなものだ」
「どういうことです……か?」
「……それが分からない内は、お前はずっとここでの生活だよ」
――いつの間にか外に出ていた。僕はユミカを待つ。だけどユミカは現れなかった。
「もう行っちゃいましたよ」
受付に訊くと、予想通りの答えが返ってきた。
「……」
けっきょく、僕はまた一人になった。
僕は返された答案用紙に目を向ける。改めて見ると、なんでこんなことを書いたのかよく分からない。
『第一問 人に出会ったらどうしますか?』
『答え 気絶させる』
『第二問 お金が無い時はどうしますか?』
『答え 奪う』
『第三問 お腹が空いた。どうしますか?』
『答え 万引き』
理屈じゃダメだとは分かっている。でも結果的に僕はこう書いた。
「……一生、無理かもな」
今回で僕は、自分には資格がないとようやく分かり始めた。僕は達観したような顔で、元の場所へ帰る。
そして、再び、地獄の日々が始まった――。




