一生に一度の願い
一度は言ってみたいセリフというものが、誰にでも一つはあるだろう。
俺もその一人で、ガキの頃から言ってみたいセリフがある。
だが俺はそれを言えた試しがない。俺が言ってみたいセリフというのは、人に対して簡単に言えるようなものじゃない。時間も、言う相手もいなかった。
おそらく、使えるのはたった一度。俺はその時を待っている状況だった。
「それで、話ってなんですか?」
そしてついに、その時がやって来た。
「ああ、とても大事な話だ」
いきなり言うわけにはいかない。俺はいつも以上にゆっくりとした声で、切り込んでいく。
「……それは分かりましたけど、あなた大丈夫? ずいぶん顔色が悪いようですけど……」
「大丈夫、ずっと前からこんなのだ」
強がってはみたが、けっこう限界が近い。俺は本題に切り込むことにした。
「へへっ、会いたかったぜえ……!」
まずは心の底から湧き出た言葉を放った。だが、あまりにテンションが上がったせいで、気持ち悪い言い方になってしまった。
「……なんだ、あなたもそっちの人か」
彼女は悲しみと呆れが混ざりあったような顔をした。
「それで、どうするの?」
「どうするって?」
「今すぐこの場からいなくなるか、少し寿命を早くするか」
物騒なことを言い出した。まずいな、勘違いしている……。
「あの、べつに変な意味じゃないんだが……」
「はっ、よく言うわね。こっちは今まで何度もこんなことがあったのよ。そして、何度も命を狙われたっていうのに……!」
ギリッと歯ぎしりをさせ、彼女は俺をにらみつける。その目だけで、彼女が今までどんな苦労をしてきたのかが分かった。
「好きでこんな体質じゃないのに……どいつもこいつも私なんかの血を――!」
「……久しぶりだな、『サヤ』」
最初からこう言っておけばよかった。俺の言葉に、「サヤ」はわなわなと体を震わせた。
「な、なんでその名前……」
「おいおい、幼なじみの名前を忘れるわけがないだろ」
「……信じられない……だって……そんな……!」
「ギネスを、目指しているからな」
嘘だ。俺はただ一つの目的のために、生きてきた。
長い、長い道のりだった。俺は「一生に一度は言ってみたいセリフ」を、もう二度と会えないと思っていた者に、ありったけの気持ちを、残りの命すべてを込めるかのようにして放った。
「ここで会ったが、百年目だな」




