巡る恋の終わり
イチロウは勇気を出して勇気を振り絞り、好きな女の子、ミナコに告白した。
「ごめんなさい」
女の子はイチロウの告白を断った。イチロウは死にたいほど落ち込んだ。
「どうした? ……若いのぉ」
ふと、突然どこからともなく声がした。前を見るとひげをはやした男が立っていた。
「……失恋したんです」
イチロウは見ず知らずの男に関わらず、自分の身に起きたことを説明した。
「……そうだったのぉ」
男は涙目になる。不思議とイチロウ、気持ち悪さを感じなかった。
「よし分かった。わしがお前さんの恋を叶えてやろう」
男はイチロウの肩に手を回し、そう言った。
「……ありがとうございます」
元気づけるための気休めのような言葉だろう。それでも今のイチロウにはそれでもありがたかった。
「まずは一応確認じゃが、ミナコ……その女の子のことは、まだ好きか?」
「え、ええ……まあ」
フラれたからすぐに気持ちが変わるものでもない。イチロウの「恋愛脳」は、まだ彼女で埋め尽くされていた。
「……そうじゃろうな。ならば話は簡単じゃ。もう一度、告白してみろ」
男はとんでもないことを言い出した。
「無理ですよ、はっきりと『他に好きな人がいるから』って言われたんですよ」
思い出すだけで胸が張り裂けそうだ。イチロウは男の前からすぐに立ち去りたい気持ちになった。
「一度フラれたくらいでなんじゃ。情けないのぉ」
「この苦しみは分かりませんよ。僕は、彼女のことを……ずっと好きだったんですよ」
幼稚園の頃、入園式で見た時から、イチロウはずっと彼女に特別な感情を抱いてきた。十数年の想いが、たった一言で終わった気持ちが、この男に分かるわけがない。
「分かるさ。わしも同じ経験をしたからの」
「えっ……?」
「わしの場合はお前さんの三倍……三十年じゃ。想い、思い続けた。……じゃが、ダメじゃった」
「……じゃあ、きっと僕もダメですよ」
「最後まで聞かんか。たしかにわしは駄目じゃった。じゃが、全てが終わったわけじゃない」
「どういうことですか?」
「似た……同じ男を救うことはできる」
男の体から怨念に近いものが出ているように感じた。
「…………分かりました。もう一度、告白してみます」
首を縦に振っても横に振っても、「何が起きるかわからない」。イチロウはそんな気がした。それに、諦めきれていない自分がいることにも気づいた。
「そうじゃ、その意気じゃ」
男はイチロウの両手を握りしめる。血管が浮き出て、今にも折れそうな手。でも、男の「熱」はたしかに伝わってきた。
「ほら、行って来い」
男はミナコの家の方を指差す。
「……行ってきます」
イチロウは男に頭を下げ、彼女の家に向かっていった。
「……これから、頑張れよ」
あの時諦めた自分はもういない。徐々に透けていく肉体に満足し、男は自分を見送った。