目薬ぐさりとグスリと泣いて
目薬をさせたことのない俺は、必然的に目がかなり悪かった。
顔を洗う時は問題はない。だけど目薬だけはどうしても目を閉じてしまう。
その理由は子供の頃に読んだ漫画の影響だ。
その漫画の中で、主人公は目薬をさしたことで、視力を失っていた。主人公を恨む男によって、目薬に刺激物が混入されていたのだ。
たった一度しか読んでいない。だがその漫画はずっと俺にトラウマを残し続けている。
しょせんは漫画。現実とは違う。頭じゃそんなことは全然分かっている。けれど万が一、億が一にでもと考えてしまうと、やはり俺は目薬をさせなかった。
べつにささなくても死ぬわけじゃない。顔を洗う時に、目も一緒に洗えばいい。
だが、俺はそうは言っていられないほどの事態に陥っていた。
「絶対にさしなさい」
寄生虫、細菌、ばい菌……あらゆるものの影響から、俺の目は水で洗い流せないほど傷ついていた。
なんでも新種の眼病らしく、放っておけば失明はしてしまうらしい。
特効薬は今のところ特殊な成分から作った目薬のみ。使えば九十九パーセント治るらしい。
「刺激は少ないし、一滴垂らすだけでいい」
医者はそう言ってはくれたが、その一滴すら俺には非常に困難だった。
こわいこわいこわい……。目薬をさせないまま、時間だけが過ぎていく。このまま死ぬなんて嫌だ。だけど目薬もさしたくない。
「仕方ない……」
そんな俺を見て、医者は別の方法を考え出した。
「君は過去のトラウマから、目薬の中に『何か』が入っていると思っているんだよね?」
「はい。先生を疑っているわけじゃないんですが、どうしてもこわいんです」
俺は再び先生にトラウマについて話す。先生はふむとうなずき、
「つまり、目薬に関してだけは、他人を信用できないんだね?」
「まあ、極端な話、そうですね……」
「ならば話は簡単だ」
先生は指を一本たて、こう言った。
「自分で目薬を作ってみなさい」
「なるほど!」
逆転の発想だった。
「え、ちょっ……冗談――」
先生がなにか言っているが耳に入らない。俺はネットを使い集めた情報を元に、目薬作りに励んだ。
材料はすぐに揃えられるようなものばかりだったので、三日で作り上げることに成功した。
自分で作ったのだからこわくない。俺は勇気を出してその目薬をさした。
そして俺はもう、目薬を怖がる必要が無くなった。




