創意工夫で楽しむ彼女
「住めば都ださあ住もう」
父親の転勤で、都会暮らしのぼくは田舎で暮らすことになった。
「はあ~」
山と田んぼばかりに囲まれた借家。本屋もコンビニもなにもない。僕は田舎暮らしに耐えられそうになかった。
「一緒に山に行かん?」
そんな時、隣に住む家の女の子が現れた。
女の子は僕と同じく、都会から引っ越してきたけれど、アウトドアな遊びにかなり精通していた。
女の子は僕をしきりに山や川に誘っては昆虫採集や魚釣りを教えてくれた。
最初は何が楽しいんだろうと思っていたが、彼女と一緒にいるからか、どんどんそういった遊びが面白くなってきた。
田舎暮らしも悪くないな……僕はそう思い始めていた。
「面白いね」
「うん。ずっとこんな風に遊べたらいいのにね」
山の中にある、彼女が作った秘密基地で、僕たちは語り合う。鳥のさえずりや木々のざわめきが、とても心地よかった。
だけど、楽しい時というのはいつまでも続かない。一年経った頃だった。父は再び本社のある都会で働けることになった。
「来月には新しい人が入るからな」
前までは嬉しくてたまらなかった言葉が、今では死刑宣告のように聞こえる。僕は都会に、彼女と離れることが嫌だった。
「今日はどこで遊ぶ?」
そして出発前日。僕は彼女に引っ越すことを告げられなかった。
といっても、彼女はとっくに気づいているのかもしれない。でも何も言わなかった。
「えっと……」
言わなければならない。僕は声に出して、彼女に別れを告げようとした。
「――今日は帰るよ」
だけど、けっきょく言えなかった。そしてそのまま、出発の日を迎えた。
彼女は見送りには来なかった。僕はそのまま、都会へ戻った。
久しぶりの都会にはなんでもあった。どこへでも行けた。なんでも買えた。でも、心が満たされることはなかった。
もう一度彼女に会いたい。僕は夏休みを利用して、田舎に、彼女に会いに行った。
だけどそこに、僕の知っている彼女はいなかった。
「今日はどこで遊ぶ?」
「おう、どこで遊ぶ?」
借家に住み始めた新しい遊び相手と、彼女は仲良く遊んでいた。
そこに「僕」がいた形跡は、一欠片もなかった。
田舎暮らしにうんざりしていたのは、彼女も同じ。
彼女は、マンネリな日常を少しでも面白くしたかっただけだった。




