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広異世界の小さな話  作者: 元田 幸介
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つらい痛みにさようなら

 彼女と食事のことでトラブルになった帰り。不運は続くもので、俺は車に轢かれた。 


 目を覚ますと病室だった。俺は奇跡的に生還することができた。


 が、後遺症が残ってしまった。


 それは腕が失くなるとか眼が見えなくなるなど、四肢が欠損するほどのものではない。


 脳の一部がバグを起こしたのか、俺は痛みを感じない体質になってしまった。


 入院中はそれに気づかず、気づいたのは退院してから一ヶ月以上経ってからだった。


 きっかけはささいなもので、俺は足を滑らせ、こけてしまった。


 膝から落ちたにお関わらず、俺に痛みはおとずれなかった。


 カッターで指を切った時も、舌を噛んでしまった時も、小指を角にぶつけた時も、爪と肉の間に針が刺さった時も……ありとあらゆる痛みを感じなかった。


 医者には言わなかった。言ったところでどうにかなるわけじゃないと思ったからだ。


 むしろ痛みが無いほうが楽なので、俺はこのことは誰にも言わず、生活を送ることにした。


 それから俺はごく普通に生活を送ることができた。彼女とも仲直りし、事故のことも後遺症のことも忘れかけていた。


 けれど、その慢心が俺に人生二度目の交通事故に遭わせた。しかし不幸中の幸いで、この前に比べれば意識はあるし、全然大丈夫そうだった。


「肋骨と左手の人差し指と、右足首が折れているね」


 けれどそれは俺の思いすごし。俺の体は前と同じかそれ以上に「ぐちゃぐちゃ」になっていた。


「なんでずっと放っておいたんだい?」


 しかもそれは、今回の事故だけではなく、今までの「積み重ね」から来るものだった。


「先生、実は……」


 痛みは苦しいものだけじゃない。自分の身に起きた「エラー」を教えてくれる重要不可欠のものだった。俺は医者に痛みを失くしたことをカミングアウトした。


 ――だが、やはりそれはもう手術や薬でどうにかできる問題ではなかった。


「とにかく視る。そして触って確認してみなさい」


 医者はシンプルかつ一番効果的なやり方を俺にアドバイスした。それ以来、俺は痛みを「視覚」と「触覚」で感じることになった。


 一転して不便に思えてきた。俺はこれから怪我や病気に気づかないまま生きていくことに不安になった。


 しかし、そんな最悪な状況でも、一つだけ「良かったな」と思えることがあった。


「おいしい?」


「うん、おいしい」


「よかった。いっぱい食べてね」


 以前まではひたすら我慢して食べていた彼女の手料理。


 それを俺は、()()()()()()に食べられるようになっていた。



 

 

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