表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
広異世界の小さな話  作者: 元田 幸介
45/100

最高のベッド

 普段通らない道を通り、家に帰っている途中のことだった。地面に倒れるように眠っている女を見つけた。


「……すーすー」


 無視して行こうかと思ったが、俺は女を起こしてみることにした。


「もう、なに~?」


 怒りはしないが不機嫌そうな声を出し、女は起きる。


「危ないぞ、こんなところで」


 俺はかつてのことを思い出しながら、女に移動するよう促した。


「いいじゃん。ここは人はめったに通らないし、車は絶対来ないんだから」


「自転車があるだろ……」


「そこそこ広くて見晴らしのいい道だから、どけてくれるよ。ということでお休み」


 めちゃくちゃな理論だった。女は自分の家のベッドで眠るかのように、心地よい寝息を立て始めた。


「……」


 放っておこう。俺は女の言うとおり、無視して通り過ぎることにした。


 けど、気になって仕方なかった。


 次の日。俺は再び女の寝ていた場所へ向かう。女の言うとおりその道に人が通る気配はなく、女は無防備な体勢でずっと眠っていた。どうやらあれからずっと眠っていたようだ。


 しばらくその様子を眺めていると、自転車に乗った学生が通路に入ってきた。


「起きろ!」


 俺は女に叫ぶ。自転車は女に気づき、ギリギリのところでハンドルを右にかわした。


「おはよう~」


 そしてのんきに、女が目を覚ました。


「このバカが。あぶねえだろ」


 俺は女をにらみつける。だが女はまったく気にした様子は見せず、顔を何度もかく。


「なんでこんなところで寝てるんだ。公園に行け公園に」


 というより眼の前にあるのに、なぜ行かないのかが分からない。

「うーん、口で説明するのは難しいなあ……」


 女性は困ったように頭をかき、悩んだ末にこう言った。


「一回、寝てみよっか」


「は?」


「寝れば分かるよ。ほらほら」


 女は俺にそう促す。馬鹿らしい……と思いつつ、俺は女のいた位置と同じ場所に、体を寝かせてみた。


「どう?」


「どうって……べつに……あれ?」


 公園のベンチの方がマシだと思っていた俺だが、信じられないことに、俺の体はそこから動かなかった。動かせなかった。


 様々な要因が重なっているのだろう。その位置は俺たちにとって絶妙な「温かさ」だった。


「私の気持ち分かった? 気持ちいよねえー」


「……」


 女が何か言ってるが、もう俺の耳には届かない。俺はご飯のことも仲間のことも、何もかもを忘れ、目を閉じた。






「可愛いー!」


 そして目を覚ます。可愛い可愛いと連呼しながら、俺はバカみたい写真を撮られた。


『……ニャアアア』


 女が起きたくない理由が、ようやく分かった。俺はくぐもった鳴き声を出し、安眠を邪魔する人間の女どもを追い払い、女と同じくらい眠りにつきたかった。


「か、かわいいい!」


 だが、それはできなかった――。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ