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広異世界の小さな話  作者: 元田 幸介
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安らかな死は安くはない


「今からいくつか質問する。それによって依頼を受けるかどうかを決める」


 魔法使いは最終テストと言わんばかりに、ススムにそう言った。


「なんだ?」


「質問はいたってシンプルだ。お前は彼女を愛しているか?」


「殺すぞ」



 あまりの愚問に、ススムは怒りのこもった声で、魔法使いをにらみつけた。


「本当に、本当に愛しているんだな?」


「当たり前だ。俺はをこの先ずっと、彼女を愛し続ける。結婚も手淫も一切しない」


 ススムの言葉に嘘偽りはないことを、魔法使いは肌身に感じ取る。


「くだらない話はやめろ。本当にできるのかどうかだけ教えろ」


 すでに前金で百万近く払っている。これでできないなどと言えばただじゃすませない。


「結論から言うとできる」


 魔法使いは即答した。


「やれ、今すぐに」


「待て待て」


 性急なススムを魔法使いは落ち着かせる。だがススムは逸る気持ちを一向に抑えようとはしなかった。


「たしかに私の力を使えばお前の彼女を蘇生することはできる。……だが本当にいいのか?」


 命は平等。その蘇生魔法を使うには、別の、「願った者」の「魂」を捧げなければならない。さらに言うならそれでも確実というわけではない。「想い」が強ければ強いほど、成功率は高くなる。


 魔法使いは事前に行った説明をもう一度する。


「エリが助かるならこの命、安いものだ」


 それでもススムの覚悟は揺るがなかった。


「…………分かった。お前の気持ちはよーく伝わった」


 これだけ「想い」が強ければ十中八九間違いなく、蘇生は成功するだろう。魔法使いはススムの覚悟を受け取り、準備に入る。


「なんだそれは?」


「魔法陣だ。少し時間はかかるが待っていろ」


 魔法使いは念入りに魔法陣を描き、一時間経ってようやく完成させた。


「中に入ってくれ」


 魔法使いはススムに魔法陣の中心に立つよう促す。ススムはすぐに入った。 


「始めてくれ」


 ススムは眼を閉じて訪れる死と、来るべき復活を待った。 


「分かった」


 魔法使いは詠唱を開始した。


「サジサdjksダhヂアhdカss@@ksokp」


 わけの分からない呪文が一分、二分、五分……十分……。魔法使いは息継ぎすることなく、延々と詠唱していく。


「あはdぱっぱおdpじぇくぃへいうへおあpkpksnKnasa     」


 意識が混濁し始める。ススムの意識はぷつんと途切れた。


「……………………」


 だが、ススムは死んでいなかった。意識を戻したススムはゆっくりと目を開けた。


 魔法使いはそこにいなかった。


「……っ!?」


 代わりに、そこには彼女が立っていた。


「ここは……?」


 生前とまったく変わらない姿。ススムは涙を流した。


「……」


 地に足はちゃんとついている。つまり、彼女は幽体ではない。


 ではなぜ自分が生きているのか? 分からない。


 もしかしたら、男が詠唱をミスして、誤って自分を消してしまったのかもしれない。


 色々と疑問が頭を渦巻く。だが、もうどうでもよかった。ススムは最愛の人を抱きしめようとした。



「……あなた、誰?」



 だが待っていたのは、「『安いもの』である死」ではなく、「安っぽくない現実」だった。




 

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