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広異世界の小さな話  作者: 元田 幸介
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私にも届いた

「歌をうたってほしい」


 次の誕生日プレゼントはなにがいいかと尋ねた結果、娘は私にお願いをした。


 あまりに意外すぎるお願いに戸惑うも、私はどんな歌をうたえばいいのかと聞き返した。


「みんなが明るくなれるような歌」

 

 娘はにこっと笑ってそう言った。


 一年に一度のわがままだ。私は分かったと言って、娘に歌をプレゼントすることを誓った。まずはネットで明るい歌を調べた。曖昧な言葉であるので、候補はいっぱい見つかった。


 その中の一つに、私も歌ったことがあるものがあった。私はこれを娘へのプレゼントにすることにした。


 誕生日までまだ時間はたくさんある。私は一切の妥協を許さず、本家を越えるくらいのつもりで歌の練習を行うことにした。


「あーあー」


 だが長いこと歌ったことがなかったので、まともに声が出なかった。私は知り合いの先生とともに、発声練習から始めることにした。


「うん、すごく綺麗」


 その結果、先生は私の声を褒めてくれた。先生が言ってくれるなら間違いないだろう。私はいよいよ歌の練習に入ることにした。


「お腹から声を出して」


 私は言われた通りに腹に力を込める。


「上手い下手は関係ない。とにかく気持ちを込めるの!」


 最終的に先生は精神論を持ち出した。だけど私にはそっちの方が性に合っていた。


 そして娘の誕生日当日。娘は家に友達を呼んで誕生日パーティーを始めた。


 ぬいぐるみやキラキラしたカード、アニメの鉛筆などをプレゼントされていた。


「おかあさんは?」


 目を輝かせ、娘は私に「歌」を求める。みんなが帰ったあと、歌うつもりだったがこうなっては仕方ない。私はゆっくりと立ち上がった。


「……」


 私は事前に子どもたちに、聞き苦しいかもしれないけどごめんねと伝えた。


「そんなことないよ!」


 だが娘はすぐに首を横に振った。他の子供たちもそれに続いて首を横に振る。みんな、とてもいい子だった。


「……行くわよ」


 隅っこの方にいた先生がラジカセのボタンを入れて、手拍子を始める。


 小学校の頃にあった発表会以来の歌。あの時は私を一生懸命育ててくれた両親のために、懸命に歌った。


 そして今日は我が愛する娘のため……。私はたとえ音程がずれ、聞き苦しいものになったとしても、二分三十六秒、最後まで歌うことを決意する。


 そして、十三回目の手拍子が終わるとともに、私は口と手だけでなく、全身を使って歌い始めた。



 ――そして歌い終わった()()()は……先生の、子どもたちの、そして娘からの拍手と歓声をたしかに聞いていた。


「……」


 私は右手の甲に、左手を直角に乗せ、その状態から上げることで、みんなに「ありがとう」を伝えた。



 






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