夢の終わり
いつからかは分からないが、僕は好きな女の子の夢を見るようになった。
初めの内は彼女と一緒に登校したり、一緒に昼ごはんを食べるという、ささいなものだった。
「大好き」
夢を見続けていく中で、彼女は僕に告白してきた。僕はすぐにそれを受け入れた。
「――は、はは……」
夢を見ている間は幸せな気持ちになる。けれど目を覚ますと一気にやるせない気持ちになる。
彼女に告白されるなんてありえない。同じクラスという以外はまったく接点はないのだ。
「おはよう」
重い足取りで学校に向かう途中で、彼女に会った。彼女はごく普通に、誰にでもするような挨拶をして通り過ぎていく。夢を見る前はそんなことでも嬉しかった。でも、今はただただ辛かった。
そんな気持ちを慰めるかのように、僕はほとんど毎日、彼女が現れる夢を見るようになった。その中には彼女とキスをすることもあった。
それからも、僕は何度も彼女の夢を見た。最初の内は覚めるたびに落ち込んでいたが、今では明晰夢のように、夢を夢だと自覚した上で、あらゆるシチェーションで彼女とイチャコラする夢を見られるようになった。
早い話が自分に都合のいい物語……その中には一線を越えるものもあった。
キリの良いところで夢を終わらせることができるようになり、僕は目覚めが良くなった。
「おはよう」
「うん、おはよう」
だから僕は、現実においても、彼女に普通に接することができた。以前までは緊張で、ろくに挨拶もできなかったが、休み時間に談笑できるほどの仲になっていた。
――でも、それだけだった。
彼女には彼氏がいた。僕なんか色んな意味でとうてい太刀打ちできない、僕たちと同じクラス男子だ。
彼女と彼は幼なじみ同士だった。
彼女たちはそのままずっと付き合って、大学を卒業とともに結婚した。
その結婚式に僕も出た。とても幸せそうだった。
それから彼女たちの間に子供ができ、マイホームも建てた。
色々とあっただろう。それでも彼女たちは別れることなく、それから何十年も一緒に過ごした。
僕と特別な関係になることは、一切なかった。
好きな女の子の幸せを願わない者はいない。僕は彼女を祝福した。……でも、それはあくまで表向きだ。
そうじゃなきゃ、ずっと彼女が夢に出続けるなんて、ありえない。
「……今まで、ありがとう。……大好きだよ」
そして七十三年後。僕は夢の中の、ずっと変わらぬ姿の彼女に、告白の言葉を送った。
「…………ごめんなさい」
だけど彼女は、最後の最期に本音をぶつけてきた。
この日をもって、彼女が夢に現れることはなくなった――。




