へそ
寝落ちして一日空けてしまいました。
雷さまにおへそを取られる。そんなおとぎ話を誰もが聞いたことがあるだろう。
「へそを出せ」
だがそれは比喩ではなかった。現在、俺の目の前にはとてもじゃないが人間とは思えない、雷さまかは分からないが、とにかく鬼の姿をしたものが立っていたからだ。
「へそを出せ」
鬼は何度も俺にそう要求する。直感的に、俺はこれを雷さまだと分かった。
「へそ? どうやって取るんだ?」
子供の頃から気になっていた疑問をぶつける。
「噛みちぎるんだよ」
にやりと鬼は笑う。よく見たら右手の爪は鋭利な刃物のように尖っている。
「へそなんんて取ってどうするんだ?」
「食べるのさ……人間のへそは特においしいからな……」
鬼はジュルリとよだれをこぼす。逃げようなどと考えれば即食べられる、そんな感じだった。
「いただきまー……!」
子供のように辛抱のないやつだった。
「待てっ!」
寸前で俺は鬼から避ける。
「命乞いか?」
「そうじゃない。どうせ食べるならきれいなへそを食べたくないか?」
「どういうことだ?」
「正直言うと、俺は三日風呂に入っていない。そんなやつのへそを食べたいと思うか?」
本当は入ったばかり。だがこう言えば食べようとしないはずだ。
「それは、本当か……?」
「あ、ああ。だから他のやつを狙った方がいい――」
「最高じゃねえか」
「え――?」
「汚い方が美味いんだよなあ」
しまった、ヘンタイの鬼だった。鬼は恍惚の笑みを浮かべている。
「これでしばらく持ちそうだぜ……」
駄目だ、聞く耳持っていない。喰われるまでもう十秒もない。俺はなんとかして鬼の興味を――。
「もっと大きい、一度も洗われていないへそを知っている」
「――なんだと?」
鬼の動きが止まる。俺は続けざまにそれがある場所を教えた。
「……なるほどぉ、それは盲点だったな」
スマホでそれを見た鬼は完全にそっちに興味を持った。
「教えてくれてありがとよ。さっそく行ってみるぜ」
鬼は礼を言って、立ち去った。
「……ふう」
助かったことにほっとするが、一抹の不安も残った。もしもアレを喰われてしまえば、俺の責任になる……。
「……まあ、無理だろ」
喰えるわけがない。俺は自分にそう言い聞かせ、さっさと眠ることにした。
一週間後。
「……マジかよ」
テレビから流れるニュースに、俺は度肝を抜かれた。
「地球のへそ」はなくなった――。




