勇気を出して
怒られるかもしれないが、言うしかなかった。
「君ってさ、ひょっとして……好きなの?」
「はあ?」
開口一番、彼女は明らかに不機嫌な顔になった。
「どういうことよ!」
彼女は噛みつかんばかりに、僕に距離を詰める。
「えっと、そのままの意味だけど」
恐い、怖い……でも僕は勇気を振り絞り尋ねた。
「…………はあ」
怒りから呆れた表情へと変わる。彼女は大きくため息をついた。
「そんなわけないでしょ。いったいどういう思考回路を持っていたら、そんなことを考えつくのよ」
「いやだって、君ってけっこうな頻度で……僕のことを見てくるじゃないか」
「……っ! 勘違いはやめてよ。気持ち悪い」
彼女の表情筋がぴくっと動いたのを、僕は見逃さなかった。
「あと、僕にけっこう話しかけてくるよね。しかも恋バナを中心に」
「ほんと、やめてくれる?」
「それに、一緒にお風呂に入ったことだって――」
「いいかげんにしてよ!」
彼女は思い切り叫ぶ。僕は言葉を失ってしまった。
「ふざけないでよ……なんで……急にそんなことを言い出すのよ……!」
目に涙を浮かべ、彼女はとても悲しい声を出す。
「せっかく……友達だと思っていたのに……そんな……」
「え? 友達じゃないの?」
「……え?」
僕と彼女は互いにきょとんとする。あれ?
「ちょっと……待って……。好きって……そういう意味?」
「そういう意味って……うん、君のことは友達だと思っているよ……違うの?」
逆に今度は僕が不安になった。彼女はしばらく経ってから、
「ぷっ……あはははっ!」
大きく吹き出した。
「どうしたの?」
「ごめんごめん! あたし、勘違いしてたわ! うん、あたしもあんたのこと、好きよ」
はっきりと、彼女の口から望んでいた言葉を聞けた。
「ありがとう。僕も君のこと、大好きだよ」
僕は右手を伸ばし、彼女に握手を求める。
「これからもよろしくね」
彼女と僕は互いに認め合い、そして更衣室を一緒に出た。




