幸せは柔らかい
串木さんに会ったのは、二年ぶりだった。
「なにやってたの?」
「それはこっちのセリフだよ」
「こっちのって……ああ、そういうことかあ」
僕の言葉に彼女はうんうんと納得する。
「……何ヶ月なの?」
「うーん、三ヶ月……って違う違う!」
串木さんはノリツッコミをする。
「違うって……そのお腹……」
「ぜい肉だよ! 言わせないでよ恥ずかしいな」
「信じられないな、いったい何をどうすればそんなに太れるの?」
「うっ……そりゃあまあ……食べたから」
「それはそうだけど……その理由はなんなの? 串木さん、あれだけスタイルを気にしていたのに」
僕は二年前のことを思い出す。彼女は病的にまで、「食」にストイックだった。
「あの頃のあたしは若かったなあ……」
「今も十分若いよ。……もしかして、まだ引きずっているの?」
「ないない。でも、キッカケかな」
「そうなんだ……ちなみに、今はどうなっているの?」
「どうもこうも……見れば分かるでしょ」
彼女はお腹をパンと叩く。ブルンと腹の肉が波をうった。
「気にする必要がなくなったってこと?」
「うん。このお腹の肉は、幸せの表れでもあるんだ!」
「そっか……良かったね」
色々とツッコミどころはあったが、彼女の幸せそうにふくれた顔を見ていると、そんな気持ちは失せた。
「そういう君はどうしたの?」
「僕? どうかしたの?」
「どうかしたのって……君の体」
「体……うん、串木さんと違って、僕は少し痩せたけど」
「くっ、嫌味を……! じゃなくて、分かるでしょ?」
「……ああ、そういうことか」
僕は彼女の言わんとすることを理解する。
「串木さんの言葉を借りるわけじゃないけれど……」
僕は胸を叩き、
「これが、僕なりの」
ぷるんと震わせ、
「幸せのかたちなんだ」
元彼女に、そう告げた。