いたずら
いたずらだと言っても、さすがにこの歳になると信じてもらえなかった。
純粋だからこそ、子供は許され、不純であるからこそ、大人は許されない。
けど、いちおう言わせてもらうが、私にそういった気持ちは一切なかった。
「笑わせよう」
私がミナコに対して思ったのは、本当にそれだけだった。
そもそもそれはいたずらと呼ぶにはあまりにもちんけなもので、私はただミナコの持ち物を使って、あることをしただけだ。
「どう?」
私は部屋に戻ってきたミナコに、いたずらを見せる。ミナコは呆然と立ち尽くし、笑うどころか涙を浮かべた。
突然のことに、私はいたずらをやめ、ミナコに謝って部屋を出た。
なぜミナコが突然泣き出したのか、私はもう一人の親友、ケイコに尋ねた。
「そんなんで元気になるわけないでしょ」
一部始終説明した私に、ケイコは呆れた声を出した。
「じゃあどの程度のいたずらなら許されたの?」
「そもそもいい歳した大人が、『いたずら』するっていう考え自体間違っているのよ。そもそもなんでいたずらすることを前提に考えたの? もっと他のやり方で慰めればいいじゃない」
至極最もな意見だった。たしかにその通りだ。
「……昔を思い出してほしかったの」
いつの間にか、私はいたずらをした理由をそう答えていた。
「昔やったいたずらと同じことをすれば、楽しかった頃の記憶を、思い出してくれるんじゃないかと考えたの。いわば、いたずらは手段なの」
「……それ、マジで?」
ケイコは眼を丸くして聞き返す。
「ええ。ケイコだって刺激的な記憶は忘れないでしょ? それと同じ――」
「そうじゃなくて……えっと、昔そのいたずらはできた?」
「え、あーいや……失敗だったわ」
苦々しい記憶がよみがえる。今こそミナコとは親友の間柄だが、あのいたずらを互いにやり合った時に、私だけが失敗したのを、ミナコに笑われたことをいまだに覚えている。
「それで、今回は?」
「成功したわ。そしたら急に泣いちゃって……あっ」
そこまで言って、私はなぜミナコが泣き出したのか理解した。
「……私、そんなつもりは――」
「うん、それは分かっているわ。……まあ、いいんじゃない?」
「一応、謝った方が――」
「火に油を注ぐことになるだけだと思うわ。ま、しばらく経てばショックも消えるでしょ。もしくはあんたが前みたいになるか」
「い・や・よ!」
「冗談よ。じゃ、ミナコのところに行ってくるわ。話だけ聞けば、あの娘もスッキリするでしょ」
そう言って、ケイコはミナコの家に向かっていった。
「……まさかこんな風にこじれるなんて」
何気ない、多分私たちの学校でしか流行っていなかった、「友達のスカートを履く」といういたずら。
子供の頃、私がいくらやっても成功しなかったいたずらは、大人になってようやく成功させることができた。
そしてそれは同時に、あの時に比べ少なからず太ったミナコには、大ダメージを与えることになってしまった。