くもりのち晴れ
「――ハレさんが好きなんだ」
なんとなく始めた恋バナで、ケイタは照れくさそうに自分の好きな女の子の名前を言った。
「……ああそう」
長年の片思いを、たったひとことで終わらされたセイの頭は真っ白になった。
「あ、それじゃ……」
セイは無表情でそう言って、ケイタの前を立ち去ろうとした。
「え、ちょっ……待ってよ!」
それを、ケイタは慌てて引き止める。セイは振り返らず立ち止まる。
「なに?」
「その、どうして?」
「急用を思い出したのよ」
「もう少し、話をしないか?」
「どの口がそんなことを言うのよ……」
ついさっき別の女の子が好きだと言ったくせに、どういう神経をしているのだろう。セイはケイタをにらみつける。
「……そっか。うん、分かったよ。ごめん」
ケイタはしょぼんとなり、セイに謝る。
「……その娘のどんなところが好きなの?」
可哀想な気持ちになり、セイは心を無にしてケイタに尋ねた。
「あ、うん! まずは優しいところかな。勉強もできて、あとはとても可愛くて……」
胸が張り裂ける思いだった。やはりすぐに立ち去るべきだった。セイはケイタの惚気を聞きながら後悔した。
「……告白しないの?」
これ以上聞いていられない。セイは話題を一気に進めた。
「え? あ……うーん……実はもうしたんだけど……」
「フラれたの? 見る目ないわね」
「そんなことないよ! ハレさんはとても良い人じゃないか! よく知っているだろ?」
「……は?」
よく知っていると、ケイタは言ったが、セイにハレなんていう知り合いはいない。ただ昔、よくその名前を聞いたことがある。
「…………っ!」
そこでセイはある考えに思い至った。
「あの、その娘って……」
セイは恐る恐るとケイタあることを尋ねた。
「うぅ、回りくどいこと聞かないでくれよ。……そうだよ」
「本当に、本当に好きなの?」
「何度も言わせないでくれ。僕は…………が好きなんだ」
「……」
さっきとは別の意味でセイの頭は真っ白になる。
冗談でもなんでもない。ケイタは本気で言っていた。
「……ねえ」
「は、はい!」
突如声色を変えたセイに、ケイタは身構える。セイはにこりと笑って、ケイタの頬を叩いた。
「え……?」
何をされたのかすぐには分からなかった。セイはすうっと息を吸い込み、悲しみと怒り。そして、ほんの少しの嬉しさが混ざった感情で、ケイタに叫んだ。
「わたしの名前は――晴よ!」
そして、ぎゅっと抱きしめることで、晴はケイタの告白に答えた。