名探偵は長引かす
タイトルは忘れましたが、昔読んだ小説で出てきた探偵の「発言」をネタに書きました
かつては「名探偵」と呼ばれた俺も、死ぬときはあっけなく死んだ。
だが、後悔はなかった。俺は今まで多くの難事件を解決してきたからだ。
「ここは、天国か……?」
気づけば俺は謎の洋館の前に立っていた。ドアを開け中に入ると、そこにはすでに何人も人がいた。
「……」
俺は全員の顔を見回してみる。どこかで会ったような気がしたが、はっきりとは思い出せない。
「こんにちは」
しばらくして部屋の真ん中にいきなり光る輪っかを頭に浮かせた男が現れた。
「ようやく全員そろったようですね。あ、私は数多くいる神の一人です」
男はそれを証明するかのように、その場で宙に浮く。
「いったいなんなのよ!」
「俺は何もしてないぞ!」
だが、男が神だろうがなんだろうが関係なく、みんな疑心暗鬼になり始めた。
「落ち着いてください。まず状況確認をしておきますと、あなた方は全員死んでいます。はっきり言うなら幽霊です」
その言葉に、全員しんとなった。
「そして全員、この世に激しい恨みを持って死んだ、いわば『仲間』です」
なるほど、怨霊というやつか。俺はそんなこともなく死んだが、たしかに他の者たちからはふつふつと重苦しい空気が流れ出している。
「恨みを持ったままでは、あの世にはいけません。だからこうして、恨みを晴らすためにお集まりいただきました」
「そんなの、どうやってだよ! 僕を殺した犯人、『死出の旅人』はこの中にいないぞ!」
「そうよ! 私を殺した『刃害卿』もいないわ。はっきりと顔をみたもの」
みんな次々と面白おかしい固有名詞を出していく。そのどれもが、俺は聞き覚えがあった。
「安心してください。あなた方を殺した犯人は、名探偵に正体を突き詰められ、そのどれもが自殺しましたから。それに犯人たちは、問答無用で地獄行きです。今頃は『死んだ方がマシ』な苦しみを味わっています」
にこにこした顔で、男は言う。
「じゃあなんで俺たちのこの『思い』は消えないんだ?」
「あなた方は死ぬ必要が無かったからです」
「は?」「え?」「ん?」
男が何を言っているのかよく分からない。全員、首を傾げた。
「口で説明するよりも、見てもらった方がいいでしょう。どうぞ」
でかでかとしたスクリーンが現れる。そこに映し出されたのは、一人の男だった。
「あれ、これって……?」
「うん、どこかで見たことあると思ったけど……」
みんなの顔が俺に向けられる。もう今から二十年以上前、忘れるのは無理もない。
その男は、若かりし頃の、俺だった。
「彼は今まで多くの事件を解決してきました。ただ、その中の事件……あなた方が殺された事件において、彼は罪を犯しました」
ギロリと男は俺をにらみつける。俺はムキになって反論した。
「ふざけるな! さっきも言ったが俺が事件を解決し、それこそ犯人たちを地獄送りにしたんだぞ! むしろ感謝されるべきだろ!」
二十年以上前のことだ、はっきりとは覚えていないが、頭がキレキレだった俺は、殺人事件に巻き込まれる度に、すぐさま事件を解決した。それこそ――。
「あ……」
「思い出したようですね。彼は――」
男の言葉に、被害者たちは呆然とする。だが、すぐにじりじりと、俺に詰め寄ってきた。
「ま、待て! あれは証拠がなく、確証を持てなかったからで……!」
俺はみんなを落ち着けようとする。だが、もはや聞く耳を持っていない。全員、俺に対し同じ感情を持っていた。
――スクリーンに映し出される俺は、自信満々な顔で、どの事件においても、解決前に必ずこう言っていた。
そして、それが俺が最後に聞いた言葉でもあった。
それは犯人を動揺させるためとかではない。カッコつけて言っただけの、最低最悪、クズな言動だった。
『僕には初めから犯人が分かっていましたよ』