五日目 成仏しない霊
その次の日、なぜか成仏したはずのシンは、まだ橋の上にいた。
恭一は呆れを込めて溜め息をついた。
「成仏するんじゃなかったのかよ」
「うん。実は一個だけ、心残りが出来ちゃってさ」
困ったように笑って、シンは自分の頬を掻いた。
「心残り? なにが?」
すでに知らぬ仲ではないし、その心残りとやらを解消するために、手伝ってやらないでもない。
シンは眉を寄せて、窺うように恭一を見た。
「僕にはさ、兄ちゃんがいるって言ったじゃん」
「半分以上は兄貴の話だったな」
「あはは。うん、それで、その兄ちゃんのことなんだけど……」
恭一は顔をしかめた。
頭の奥がちりちりと痛む。内側からなにかがカリカリと頭蓋骨を引っ掻いて、出てこようとしているようだ。
「十歳年上なんだけど、実は兄ちゃん十八の時に死んじゃったんだ」
眉間を押さえて、恭一はきつく目を瞑った。
シンの声がめった打ちされた鐘のように頭の中で響く。
「僕、いつの間にか兄ちゃんの年を追い越してるってこと、ぜんぜん気づいてなかった」
「……ちょっと待て」
制止をかける恭一をじっと見つめたまま、シンは言葉を止めない。
「兄ちゃんは、吃驚するくらい寒い日に、凍ったこの橋の上で、スリップした車から僕を庇って死んだんだ」
甲高いブレーキ音が頭の中で弾けた。