二日目 夜
「僕にはね、十歳年上の兄ちゃんがいたんだよ。それがもう、すんごく格好良かったんだから。ぱっと見、冷たそうだし素っ気ないんだけど、面倒見が良くて、優しくて、僕が泣いてると必ず助けに来てくれたんだ。僕のヒーロー!」
死んでるくせになにが楽しいのか、シンはにこにこと笑って恭一に話しかけてくる。
けっきょく恭一は、夜になってまた橋に来ていた。
マシンガンのように出てくるシンの話を、川を眺めながら適当に聞き流す。
「聞いてる、恭ちゃん?」
「あー、はいはい」
「わー、おざなりだぁ」
ライトを点けた車が車道を走っていく。
行く先を照らす明かりは、シンを掠めても彼の影を生み出さなかった。
恭一はむくれたシンの横顔を眺めた。
シャツから出た腕は彼の軽い印象とは違って、存外たくましい。
死ぬ前に海にでも行ったのか、襟から覗いた首筋の皮が剥けかけているのを見て、ここまで幽霊は生前を再現するのかと密かに感心した。
「あんた、いくつだ?」
「うん? 二十二だよー」
「そんなに若くして死んで、他に未練はないのか」
シンは一度目を丸くして、「あはっ」と笑った。
「それが思ったよりもないんだよねー。彼女もいなかったし、怨んで化けて出てやりたいと思うほど嫌いな奴もいなかったし、夢は探してる途中で見つかってないし」
「そうか」
思い返すように宙に視線を投げるシンを見つめて、恭一はただ頷いた。
シンの様子は本当に未練はないようにさっぱりしている。
――だから、さきほど彼が笑ったとき、一瞬泣き出しそうに見えたのは、恭一の気のせいだったのかもしれない。
「いい人生だったか?」
「そうだね。悲しいことも辛いことも多かったけど、楽しいことも嬉しいこともあったし、悪くない人生だったかな。こうして死んだ後は、恭ちゃんにも会えたし」
「言ってろ」
「えー、本当に思ってるんだよぉ」
恭一があしらうと、シンは不満げに唇をとがらせる。
裏表のない彼の好意に照れくささを感じて、恭一はそっと目を閉じた。
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