二日目 昼
人通りのある昼日中、昨夜の青年は同じように欄干の上にいた。
今度は内側を向いてしゃがみ込み、橋の歩道で川を覗き込む親子を微笑ましそうに見ている。
ぜったいに無視できる距離ではないのに、親子は危なっかしいことをしている青年にまったく気づく様子はない。
彼は恭一に気づくと嬉しそうに手を振ってきた。
恭一は少しの間逡巡して、青年に近づく。
「幽霊って、マジか」
「マジです。信じてくれた?」
「半分な」
「半分かぁー」
自分に幽霊が見えるとは思わなかった。出来れば見なかったことにしてしまいたい。
彼らが話す横で、親子も会話を弾ませる。
「ねえ、お母さん。いまお魚さん跳んだよ!」
「本当だねぇ」
「あたしもお水はいりたい!!」
「そうね。今日も暑いし、お水の出る公園に行こっか」
「やったぁ」
子供がはしゃいだ声を上げて駆け出そうとした。
慌てて捕まえた母親と、手を繋いで歩いて行く。
「いいなぁ。僕も水に入りたーい」
「幽霊も暑さって感じんの?」
「え? 感じないけどー」
語尾を伸ばす癖でもあるのか、欄干に腰を下ろして足をぶらぶらさせる仕草も相まって、とても年上には見えない。
「あ、僕のことはシンちゃんって呼んでね」
「呼ばねーよ」
聞いてもいないのに名乗って、シンはにこにこと笑う。
恭一はなんとなくその場を去る機を逸して、手摺りに肘を乗せて欄干にもたれた。
「僕はなんて呼んでいい?」
「は?」
「名前、なんて言うの?」
「……恭一」
「じゃあ恭ちゃんだ!」
「…………マジかよ」
名乗られた手前、聞かれたら名乗らざるをえないだろう。
そう思って告げた名は、間髪入れずなんとも言えないあだ名にされた。
川面を桜の葉が流されていく。先ほど跳ねたという魚は、すでに影も形もない。
「あんた、なんで成仏してねえの?」
「うわっ、直球」
大袈裟に驚いた振りをするシンを、ほぼ反射で睨む。
シンは降参のポーズのように両手を上げ、肩を竦めた。
「僕が死んだのが一週間前くらいなんだけど。あ、死因は風邪ね。こじらせちゃってさ」
「……ノリが軽いな」
「あはは。恭ちゃんはさ、明後日の土曜日に近くで花火が上がるの知ってる?」
「夏祭りのか。確か、ふたつば公園で上げるんだったか」
「そう、それ! ここ何年も見る機会がなくてさ。せっかくだから今年は最後だし、見ていこうかなって」
「そんな理由かよ」
「えー、けっこう重要だと思うけどなぁ」
頰を膨らませる仕草は本当に幼い。
恭一は体を起こすと、学ランの肘についた埃を払って歩き出した。
「恭ちゃん、もう行っちゃうの?」
「悪いか」
「もっとお話ししようよ。ねえ、夜もまたここに来てよ!」
無邪気な幽霊に溜め息をついて、恭一は背中越しにひらひらと手を振った。
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