第四章 監視対象 (18)
二〇六五年七月二〇日 UTC〇四時
静かの海 アメリカ月面ステーション
NASA 月面観測第一一号室
サミュエル・ソーンは、第三号ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像に困惑していた。そしてそれを見せられた部下のジェレミー・フローリーは、驚愕の目で火星の衛星軌道上で撮影されたその写真を見ていた。
「室長。俺は頭がおかしくなったのかな? 今度、病院の予約を入れた方が良いと思うんだけども、室長はどう思う?」
先ほどからソーンに何度か声をかけていたが、全く反応しないので仕方なくフローリーは頭を掻きながら天井を見てそう呟く。
まあ二人が混乱するのも無理はないだろう。いくつもある写真の中の一つに映っているのは、その昔アメリカなどで一世を風靡した『スタートレック』シリーズの初代に登場したNCC-1701と登録番号が振られた『エンタープライズ号』だったからだ。
その他にも同じ登録番号で船体の形状が異なる『エンタープライズ号』がいくつか撮影されており、有名どころで言えば2001年宇宙の旅シリーズなどに出てきたディスカバリー号やレオーノフ号、猿の惑星リ・イマジネーション版で登場した宇宙探索基地オベロン号、マイナーすぎて二人は気が付いていないが『宇宙からの脱出』で登場した宇宙船アイアンマン1号など、有名な者から無名な物まで数多く撮影されている。
その中でも特に異色を放っていたのがこの『エンタープライズ号』と、かの有名なで登場する宇宙要塞『デス・スター』や『スターデストロイヤー』、『スーパースターデストロイヤー』などであり、実は後で解析すると、帝国軍どころか同盟軍の病院船は当然として、AウイングからXウィング、輸送船タンティヴィIVなどファンが見たら暴動が起きてもおかしくない物まで多量にあるが、それに気が付くのは当分後である。
ちなみに室長であるサミュエル・ソーンは、デス・スターとスターデストロイヤーが映っている写真を見て、上の空状態から復帰していない。
「なあ、フローリー。俺も病院の予約をした方が良さそうだ。ところで、これをどこに報告したら良いと思う?」
月面観測第一一号室などと名前はついているが、そこの職員はこの二人だけであり、数多くある観測室の一つでしかない。実は他の観測室でも似たような事がいくつか起きているが、当然のようにここと同じ事になっているのは、誰もが見た物を信じられなからだろう。
実は日本も似たような光景を目にしたが、アメリカ人の彼らにはさらにショックが大きかったのかもしれない。その辺は著作権に五月蠅い彼らだからとも思われるが、真相は不明だ。
どちらにしても、この報告が上がるのにこれからさらに三ヶ月がかかった結果、アメリカは日本よりも出遅れることとなってしまう。




