第一章 他人(ヒト)の造りしモノ(4)
二〇二二年九月十九日 種子島宇宙センター
「打ち上げ一分前」
種子島宇宙センターの発射台には、H―Ⅲロケットが鎮座している。秒読みが次第に時間がなくなるのを伝えていた。
発射台の近くにある見学場には、多くの人が集まっている。
今回のH―Ⅲロケット三号機は日本初の有人ロケットだ。そのためいつもよりも数倍多くの見学者が集まっていた。
「ゼロ」
カウントが終わると同時に、H―Ⅲロケット三号機が上昇を始める。その勢いは力強く、かつ繊細だ。
観客からは大きな拍手や歓声が上がる。しかしその歓声はロケットの轟音にかき消されている。
H―Ⅲロケットは基本性能で国際宇宙ステーションの軌道までなら二十二トン、静止軌道で十五トンの積載能力が有る。補助ロケットを取り付ければ、最大で静止軌道に三十トンもの物資を輸送可能だ。補助エンジンのシステムはイプシロンロケットの技術を応用し小型化したもの。それを最初の一段で最大で八本まで取り付けることが出来る。二段目以降は四本まで。
機密情報では最大で静止軌道に五十トンの物資を載せることが出来るが、これはまだ計算値で実際の打ち上げは行っていない。二段目以降に補助ロケットを取り付けた場合のシミュレーションが終わっていないからだ。
「四人乗りH―Ⅲロケット三号機は無事大気圏を離脱しました。以後は国際宇宙ステーションへ向かいます」
放送で見学者に伝えられる。日本が有人宇宙飛行を初成功させた瞬間であった。