第四章 監視対象 (15)
二〇六五年七月十九日 みちびき標準時十二時
宇宙ステーションみちびき観測所機密区域
みちびきに設置されている望遠鏡は、大小様々ある。
一般的な物は主鏡の直径五メートルの超大型望遠鏡で、これは主に深宇宙用に設置されている物で”地球からの距離が二百万キロメートル以上である宇宙”の探索に用いられるが、それ以外にも、直径八メートルに及ぶ超深宇宙探査望遠鏡が設置されている。これらを用いた探索で、日本は新たな恒星系を発見し命名する権利も得ており、実際に命名された物もある。
元はハッブル宇宙望遠鏡の日本版として開発された物だったが、技術の発達によりハッブル宇宙望遠鏡を大きく上回る大きさを獲得出来た。
ただアメリカも、超大型の新型のハッブル宇宙望遠鏡二号機や三号機、四号機を衛星軌道上に保有しており、日本だけが有利とはとても言えない。特に最新型は直径十メートルを誇る超大型望遠鏡であり、流石の日本もこのサイズの望遠鏡は保有していない。しかし皮肉な事に、そのレンズを製造したのは日本の企業であったが。
そんなみちびきに搭載された望遠鏡の中でも、いくつか異色を放つ物が存在しており、その望遠鏡を使用する権限はかなり限られた者のみ。今のところ直接使用する権限を持つ者は、総数六人でしかない。
そもそもこの機密区域が設けられたのは、航宙自衛軍発足に伴う物だったが、今はあらゆる日本自衛軍からの直接管轄を離れ、名目上はJAXAになっている。しかし現実にはJAXAの職員はだれもおらず、せいぜい設置時に協力があった程度だ。所属等に関しては、実際には非公開であり、政府要人や一部の官僚のみがその存在を知るだけである。
当然そのスペックは全て非公開であり、六名の機密保持所有者のみが知る所。性能面では八メートル級の宇宙望遠鏡に劣るが、そもそもの役割が深宇宙探査など科学的目的ではないため、その点ではすみ分けが出来ていると言える。
これらの一連の宇宙望遠鏡はみちびきに設置されているため、多少の上下左右角を調整する事は出来るが、根本的にはみちびきの軌道に影響を受ける。しかし予算面や整備面で宇宙望遠鏡単体を静止軌道に保持するのは厳しかった状況もあり、むしろ日本独自に深宇宙探査が出来るようになった事実の方が、遙かに影響は大きいと言えるだろう。
そんな望遠鏡の一つに設置されたコンピュータから、異常を知らせる警告音が鳴り響く。それは当然故障の警告音では無く、何かを発見し、それが地球に脅威となる場合に動作する物。
一人がすぐさま警報を切り、その内容を確認する。方角は火星の太陽周回軌道どころか、火星のすぐ近くであることがレーダーの測定でもすぐに判明した。
「こ、これは……」
その声を聞いた同僚の一人が、すぐさま近寄ってくる。無重力下のため、近くの手すりに掴まり身体の向きを調整する。
「何かあったのか?」
「火星軌道上……フォボスの周辺に例の艦隊が突然出現した。少なくとも二四時間前までは、何一つ異常が無かったはずだ」
「本当か!?」
「これを見てみろ」
慌てて彼もその画像とレーダーの反応を確認する。
「急ぎ、官邸と防衛省に連絡を入れる。他に変化が無いか、とにかく確認を急いでくれ。それと出来れば相手の規模の詳細も頼むぞ」
彼はそう言い残して、その場を急ぎ立ち去っていった。




