第四章 監視対象 (14)
二〇六五年七月十六日 みちびき標準時十二時
宇宙ステーションみちびき航宙自衛軍係留港 やましろ艦内
大村義男航宙自衛軍作戦本部人事部長からの秘匿メールにて、提督室にいた私は頭を抱えるしかなかった。実際に行動で頭を抱えている訳ではないが、支給品のタブレット端末を見ると文字通り頭が痛くなる。
当然この件については大村人事部長と石原智一航宙幕僚長以外はまだ知る由も無いが、いずれは安全が確認出来、信頼出来る者のみ伝える必要がある。
さらに悪い事に、どうやら地上の軍にも、かなりの数が紛れ込んでいる事は確定している。問題はその影響がどこまであるかだ。
すでに航宙幕僚長と人事部長権限で、阿部聡統合幕僚長には連絡が入っているはずだが、地上も大騒ぎになっているのは間違いないだろう。
私は耐熱カップと耐熱ストローで構成されたコーヒーカップを手に取ると、一気に半分程飲む。多少熱いが、そんな事を気にしている余裕すら無い。
「そもそも、彼らは一体何なんだ?」
問題はそこだ。
普通に見た限りにおいて、怪しいとされる者達に我々人間との違いは無い。それは血液もそうであれば、各種レントゲンやCT、MRIなどの調査結果でも明らかだ。つまり普通の検査方法では彼らと我々の違いは分からない事を意味している。
追記には技術本部にて何らかの違いが無いか調査を行うらしいが、恐らくは違いなど出ないのではないかと危惧する。そうなれば文字通りお手上げだ。
いくら過去の経歴を調べる事で多少は判別出来たとしても、それがいつ改竄されるかすら不明である以上、現状のデーターを慎重に保管しつつ、今後の対策を考える必要がある。
ふと、ロッカーの中にある金庫の事を思いついた。私はそれを開けると、そこから機密書類の一つを取り出す。それは前に見つかったという、北海道にあった謎の施設についてだ。
「まさか、彼らは人為的に人を量産出来るのか?」
資料に目を通しながら、そんな事を考えてしまう。しかし手にした資料を見る限り、それが不可能とは言いきれない。もちろん我々には真似の出来ない技術だ。そして、それは絶対に考えたくない事でもある。
タブレット端末を手にすると、秘匿暗号処理をしたメールにて、その件を航宙幕僚長と人事部長へ連絡する事にした。




