第四章 監視対象 (13)
二〇六五年七月十六日 みちびき標準時十時
宇宙ステーションみちびき航宙自衛軍特別会議室
大村義男航宙自衛軍作戦本部人事部長は、部下から緊急の用件があるとの事で、通常は使用されない特別会議室を訪れていた。
ちなみに特別会議室はあらゆる防諜設備が備わっており、専用の空気清浄機を用いる事で外部に音声が漏れる事は一切無い。
「お呼び立てして申し訳ございません」
人事部の部下がそう言いながら、数十枚に及ぶ書類とネットワークには直接接続不能な電子タブレット端末を見せる。
タブレット端末は特殊な記録媒体のみ記録、読み込みが出来る物で、視野角も正面から見る以外には見る事が不可能。電子的な信号は端末の位置を知らせる物だけで、それもタブレット端末側で任意に切る事が出来、その場合に所定の起動方法をとらなければ即タブレット端末が物理的にその場で破壊される念の入りようだ。
「最悪の事態です。例の身元が怪しい者を全て調べましたが、明らかに人為的な方法で身元の確認がされていないとしか考えられません。しかも複数の人間が絡んでいるとしか考えられません」
それは文字通り最悪の報告であった。本来そんな事があるはずがない。
「その、身元を確認していない者は特定出来たのか?」
「それが、許可をした者の名前はありますし、その人物等の経歴も調べ、さらに書類等の通過時期を調べたのですが、明らかに他の者が行っているとしか。どの担当官も該当時に書類等の確認をしていない……いえ、そのような事が出来るはずが無いのです。例えばある者は忌引きで休暇申請を行っており、ある者は急性胃腸炎で手術、他にも基地の中にいない事が明白な者ばかりでした。明らかにこれは偽装した書類で、実際に書類を通したのは別にいるとしか考えられません」
「まさか……」
「事実です。他にも本来であればコンピュータにより事前チェックを行うのですが、その処理すら偽造データで誤魔化していたとしか考えられません」
「バカな。そんな事は出来ないはずだ」
「否定されたいお気持ちは分かりますが、こちらで何度も確認をとりました。これについては間違いないと断言せざるを得ません」
「因みにだが、該当する怪しい者は何名いるか分かったのか?」
「現状で把握しているだけでも、少なく見積もって全軍で一万人を超えています。しかも将校クラスすらいます。私では何とも出来ない状況です。軍から排除するとなると、今度は深刻な人員不足に陥ります。適切な対応手段を考えましたが、私には考えつきませんでした」
「そうか……分かった。名簿はこちらの書類と端末に入っているのだな?」
「はい。書類に関しても、こちらのケースに入れる事で、適切な開封手段を行わなければ書類が自動で破棄されるようになっております」
「分かった。調査感謝する」
「いえ。それにまだ個人的に気になる事があり、もう少し調査を行います。勿論周囲には気づかれないように細心の注意はしております」
「分かった。引き続き調査を頼む。何かあればすぐに連絡して欲しい」
「それではこれにて失礼します。くれぐれも書類やデータに関してはご注意願います」
彼はそう言ってから部屋を後にした。
私は彼が部屋から出て、自動で施錠されるのを確認してから書類に目を通す。記載されている内容を見るうちに、あまりの人数と所属部隊、階級に寒気を覚えた。
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