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太陽系戦争 (The Battle of Solar)  作者: 古加海 孝文
第四章 監視対象
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第四章 監視対象 (11)

手術等で更新が遅れました。

現在は復活しましたが、もうしばらく更新が停滞するかも……

    二〇六五年七月十五日 日本時間 一一時

        警察庁長官官房特殊生物対策課


「課長、新しい書類が届きました」


 課長と呼ばれた彼は、差し出された資料を受け取りながら時間を確認した。


 北海道で見つかり、阿蘇に運ばれた謎の生物群の状況が、その資料の中には記載されている。当然内容は極秘事項であり、その書類は厳重なビニールパックに包まれている。正規の手順で開封しないと、内蔵された薬品で書類は一瞬にて薬品漬けとなり、空気に触れた瞬間に発火する。しかしそれだけの対策をするだけの理由がある。


 当然資料の表紙には生物群の事が分かる表記はない。あるのは記号群と作成された日付、解除に必要な電子キーとなる一枚の紙カードが見えるだけ。極めて重要な種類である事こそ分かるが、その中身は外側から見る事など出来ない。


 そもそもこの「官房特殊生物対策課」は、その詳しい組織について一切が非公開である。課長である新田徹を含め、全ての人員は他の課に所属している事になっており、それは家族にも秘密だ。それどころか、階級までもが偽装されている徹底ぶり。ある意味公安並みに厳重な管理体制が敷かれている。何人かは、そもそも警察庁どころか、警察関連に勤めている事にすらなっていない。


 ただこの「官房特殊生物対策課」は極めて新しい組織でもある。発足してからまだ半年足らず。それは、この課が極めて特殊な物を扱っているからに他ならない。そしてそれが、以前に北海道で見つかった物と関係している事を知る者は、課の中でも限られている。


 課の発足には、極めて慎重な「身体検査」が行われた。


 国会議員などで聞く「身体検査」など、この課の「身体検査」に比べれば、赤子のような物でしかない。


 本人のそれまでの経歴はもちろん、交友関係などは当然。親族どころか、その親族の「身体検査」まで行われている。それは最も短い物で明治初期にまで遡り、課長の新田徹の経歴については、事実一般で言う所の江戸時代初期にまで及んでいる。さすがにここまでは異例ずくめであり、それを知られないために警察庁では一人の経歴を調べるだけでも、複数の部署をまたがらせ、何を調べているのか詳細が分からないようにしている程だ。


 新田は受け取った書類を確認し、その包みに異常がないかを確認する。様々な対策がなされているとは言え、完璧な物など存在しない。最後に新田が持つ専用の解除キーとなる電子カードを取り出して、袋の電子キーにかざす。同時に新田の持つカードの表面が変化し、アルファベットと数字が表示され、毎週更新されている暗号をそこへ入力して、初めて袋が中から開封される。


 書類を取り出すと、入れられていた袋を脇に退け、内容を一枚一枚確認しだした。


 書かれている内容は、阿蘇で秘密裏に保管研究されている謎の生命体の資料。大きな変化がない限りは、週に一度来るこの書類で報告される。当然それが分かっているからこそ、大きな変化がなかったであろう事は分かっているが、小さな事柄が大きな事柄の前兆であるのも可能性としては捨てきれない。なので新田を含め、多数の者がチェックを行う必要があるのだ。今もどこかで、同じ物をチェックしているだろう。


「まあ、今のところは変わり無さそうだな……」


 周囲に聞こえない程の小声で、書類の確認を進める。


 そもそも、何か問題があってはならない。ここで言う問題とは、現場で対処可能なレベルを超える『何か』であり、それが起ってしまった場合は、『物理的焼却』も視野に入れなければならない。その場合には、『阿蘇生物化学研究所』に例え『生存者』がいたとしても、『いないもの』として対処する事になる。恐らくは陸上自衛軍が持つ最大級の破壊兵器が使用される事になるだろう。


 もちろん課長という立場から、阿蘇生物化学研究所の地下には様々な安全対策が行われている。しかし、安全対策に百パーセントという言葉はない。


 再び部屋の扉がノックされた。急ぎ書類を見えない所へ隠す。慎重にかつ、格下と思われないように。そして返事をすると、予期しない人物が入ってきた。官房長その人だ。


「お話しがあれば、すぐに伺いましたが。何かありましたか?」


「まあ、そんな所だな。事後報告になるのと、先ほど書類が届いたのではないか? 君の所から持って来るよりも、一緒に見た方が良いと思ってな。その方が時間も短縮出来る」


「それは構いませんが……事後報告とは?」


「ああ、それを先に伝えなければな。これは覚えているか?」


 官房長が写真を取り出す。そこに映っていたのは俗称ではモノリスと呼ばれ、正式名称は『Tunguska(ツングースカ)Unknown(アンノウン)・Lithographyタラガフィー』、日本語では『ツングースカ正体不明石版』などとも言われ、略称はTULとされる物。以前にも日本で調査が行われたと聞いているが、詳細までは知らない。


「これの輸送を警察が行う事になった。使用する機体はV―22JANを使用する」


 V―22JANとは、日本国内での警察仕様に改造されたV―22JAN――日本版警察仕様オスプレイで、Jは日本を、Aは日本版改良のA型、Nは警察庁の略号の頭文字から来ている。自衛軍に配備された同型の機種とは若干異なり、静寂性を高めた代わりに積載量が減っている機体だ。本来ある機内搭載重量の九トンを五トンまで減らし、エンジンに独自の改良を加え、各機動隊――特に機動捜査隊などが現場に急行する際などに使用する事を目的としているが、当然それ以外にも使われる。現在は警察庁、警視庁を含め十二機が運用されている機体だ。


「今回は警視庁の一機を含め、二機での輸送となる。まあ、一機は予備扱いだが、どちらに搭載するかは機密情報だな」


 つまり、官房長ですらどちらに搭載されるかは分からないという事だ。こういった時には、本来輸送する物の他に、よく似せた物を予備機にも載せ、どちらが本物を運んでいるかはパイロットですら分からない。


「途中の空港二箇所で給油予定となっているが、そこまで秘密にされたよ」


 そう言って官房長は苦笑いをした。まあ、確かに私もその気持ちは分かる。


「ですが、こんな物をどこから?」


「内閣府からの依頼……というより、命令だな。国際便で届けられたとは思うが、どこからかは不明だ。それよりも私は、これを阿蘇に運んで良いのか心配になっている」


「何か良くない事が怒る可能性があると?」


「単に私の勘だがな。確証は無い。しかし阿蘇生物化学研究所に運び入れる物ではないと、私は思う」


 確かに官房長の言う事にも納得出来る。何せこの『モノリス』は不明な点が多いと聞いている。それを不明な点がまだまだ多い阿蘇生物化学研究所に運び入れるのは、リスクが多すぎると思えてならない。


「既に出発しているらしいので、私からは何とも言えない。まあ、それよりも最新の情報を確認しようじゃないか」


 官房長もそうだが、私もどこか不安を払拭しきれなかった。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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