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太陽系戦争 (The Battle of Solar)  作者: 古加海 孝文
第四章 監視対象
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第四章 監視対象 (9)

    二〇六五年七月十四日 UTC(協定世界標準時)一二時

        やましろ艦内 第一通信室


 やましろの通信長遠藤肇少佐は、他の通信士が地球やみちびき、かぐやとの通信を行っているなか、一人あるチャンネルに耳を傾けていた。


 きっかけは数週間前に遡るが、最初は単なるノイズだと思っていた。しかし数日前、偶然同じチャンネルで、前回と似たノイズを聞き、そのノイズを調べる事にした。


 この件に関しては遠藤もまだ確信が持てず、渡辺中将には話をしていない。そして艦長である吉村少将に対しては、現在少佐がいる場所からして相談するべきでないと考える。


 その吉村であるが、後部第五通信室にいる事を、遠藤は把握している。だからこそ、彼は吉村に対して不信感を抱いていた。


 ノイズの内容は、かなり注意を払わなければ無視されるような、実に些細な物である。いや、むしろ普通なら単なるノイズとして処理していただろう。前回、彼がそうしたように。


 遠藤は今日このノイズを聞くまで、前回の事すら忘れていた。いや、むしろ思い出す事の方が難しかったかもしれない。それくらいに些細な事だったはずなのだ。


 しかし今日ノイズを聞いた時、前回吉村少将がどこにいたのか偶然調べ、その結果としてノイズの内容を録音しながら耳を傾ける。前回とは場所が違うが、その時も吉村少将は通信室の一室にいたのを確認済みだ。


 遠藤は内心舌打ちをしながら、そのノイズに注意深く耳を傾ける。ノイズはある周波数帯で発生しており、しかも全方位に発せられている。もしそのノイズの発生源が艦内と気がつかなければ、太陽風の影響と勘違いしてもおかしくなかっただろう。実際遠藤は、前回そのように判断した。


 しかし、今回は違う。明らかに何らかのパターンがノイズにある。それに気がついたのは単なる偶然でしかないが、ノイズを再び聞いた時、偶然使用していた周波数調整器の存在。


 そこからすぐにノイズの録音を開始する。一応艦内コンピュータが人類が使用しているあらゆる周波数帯を録音しているが、それとこれとは別である。艦内コンピュータのデータベースから該当のデータを引っ張り出すとなると、それだけで現状では上長、即ち吉村の許可が必要であり、遠藤は吉村が通信室にいる時に発せられているこのノイズの発生源は、彼ではないかと疑った。


 ノイズの発生源となる場所を特定する事は、実は簡単である。しかし、それは同時に送信者にもそれが分かってしまうという欠点がある。こればかりは通信システムを設計した時からの仕様であり、遠藤一人でどうこう出来る話ではない。


 遠藤は一人ヘッドホンを耳に当て、そのノイズを注意深く聞く。使用しているヘッドホンはソニー製の業務用ヘッドホン改良型で、0.01Hzから12MHzまでをカバーする特殊仕様。当然人間の聴音域を超えているが、それは最初から自衛軍が要求した仕様であり、価格も当然一つにつき数千万円する代物だ。その価格故、周囲が特に静寂な場所でのみ採用されており、地上では潜水艦部隊のみが使用している。航宙自衛軍では、艦隊旗艦型とレーダー艦型にのみ配備されており、それ以外となるとみちびき、かぐや双方の観測所に数台ずつあるのみだ。


 さらにそのヘッドホンは、専用のヘッドホンアンプに接続されており、こちらも自衛軍用に特殊仕様として納品された物。仮に民間で販売するなら、それ一台で一億円はすると言われている。流石に遠藤も、そのヘッドホンアンプがいくらで自衛軍に納入されているかは知らない。しかし、今まさにその能力をフルに使い、謎のノイズを遠藤は一人自らの耳と、その近くにある機器で分析を行っていた。


 本来なら同じく通信室にいるメンバーには話すべきなのかもしれないが、事が事だけにどうしても慎重になってしまう。何せ艦の指揮を執る最高責任者に関する事だ。提督に相談する事も出来るが、艦長が不在かつ、怪しまれない時でなければ今後に関わるかもしれない。そう思うと、無闇矢鱈に話す事も難しい。


 ノイズに対して色々なフィルターをかけたりしたが、音声として意味がある信号に放っていない。そもそも音声ならノイズとして認識しないはずだ。考えられるのは一定のパターンで何らかの信号を送っている可能性だが、そのパターンがまだ解読できない。


 艦のコンピュータは最終的に全て中央コンピュータにデータが集約される。それは当然艦長である吉村少佐もアクセスできるので、解析を行うのにあまりコンピュータも使いたくはない。逆に使用できるなら、かなり早い段階でパターンを割り出す事が出来るだろうが、それが出来ないのがもどかしく感じる。


 とにかく今は、情報の収集に努める事が先決だろう。レコーダーの空きは十分にある。可能な限りノイズを録音し、帰港してから提督に何とか接触を図った方が、今は安全に思う。


 後は、他に似たようなノイズが出ていないかだ。特に人為的に出ていると考えられる状況は、可能な限り把握しなくては。当直以外の時間帯も、自動録音できるように設定する必要がありそうだ。誰か安心して録音を任せられる者に話をしたいが、今は難しい。


 しかし、なぜ艦から出ているノイズに今まで気が付かなかったのだろう? 普通であればコンピュータの方で警告が出るはずなのに、それが一切ない。これも可能性だが、特定パターンのノイズについては警告が出ないように細工されている可能性も考慮しなければ。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

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各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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