第四章 監視対象 (7)
二〇六五年七月十日 みちびき航宙自衛軍係留港エリア
やましろ艦内
「もっと本格的な訓練ですか?」
吉村と先ほど帰港した太田を呼び、会議室にて今後の方針を伝える。
「渡辺司令。失礼ながら既に航海中の訓練だけでも、乗員にはかなりの負担となっております。私としてはこれ以上の訓練は危険が伴うだけでは無く、士気すら崩壊しかねません。すでに今回の航海でも、一部に士気の低下が見られています」
「言いたい事は分かるのだが、こればかりは決定事項だ。それに、昨日だが石原幕僚長経由で敵艦が消えたとの情報が来た。詳しい事はまだ不明だが、どうやら事実らしい。現在も捜索を行っているそうだが、発見は難しいと幕僚長の意見だ」
「消えたですか? 工学及び電波などの望遠鏡で監視していたのでは?」
「確かに吉村の言う通りなのだが、詳細はまだ不明だ。幕僚長は折を見て、警戒態勢を一段階上げると仰っていた」
「具体的にはどの程度でしょうか?」
「艦隊は常に第二種警戒態勢となる予定だ」
質問をしてきた太田の顔に陰りが出る。まあ、確かに普通では無い。
「現状でも事実上半舷休息ですが、それをさらに引き上げると? 隊員の疲労がこれ以上蓄積するのは、現場管轄として容認しかねます」
「それについては、地上からさらに人員の補充を行う事で解決を行うそうだ。海自は難色を示しているらしいが、優先的に海自から人員を引き上げると言われている。それとレーダー関係で陸自と空自もだな。これは個人的な意見だが、まるで全盛期の国家総動員だよ。正直私も好ましいとは思っていない」
「ならば!」
太田が声を上げたが、私は首を振るしかなかった。
「現実は現実として受け止めてくれ。吉村、次の出航は君だったな? 私も艦に乗艦する。少し現場を確認せねばなるまい」
「分かりました。しかし、ここみちびきの方はどうなさるおつもりで?」
「通信規制はまだ行われていない。レーザー通信などもある。今のところは、ここにいなければならない理由も無いと、幕僚長から言われている。むしろ幕僚長としては、艦隊の状況を確認して欲しいそうだ」
正直、今の段階でどの程度の事が出来るのだろう? 少なくとも相手を見つける事が出来なければ、我々は何も出来ない。
「以上だ。太田はゆっくりと休んでくれ。これからはその休みすら保証できなくなる可能性すらある」
自分で言っていて何だとは思うが、褒められた事では無いな。
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