第四章 監視対象 (6)
二〇六五年七月八日 みちびき標準時 十時
みちびき航宙自衛軍管理施設内
いまだ区画内の工事が完全に終わっていない航宙自衛軍管理施設内は、壁などに配線が剥き出しとなっている箇所がある。しかし予算の大部分が新造艦や改修艦に割り当てられており、施設内までは事実上予算がないという事で放置されたままだ。
無論現状でも設備としては問題がないが、やはり配線や配管が剥き出しなのは、どこで事故を誘発するか分からない。一応最も主要な部分については守られているが、だからといって安心出来る材料にはならないのが現実である。
そんな状態だからこそ、所々に『安全第一 歩行のみ』などといった看板があるが、今は誰もそれを気にしていないかのように通路を走ったりしている。しかもそれを咎める者ですら、同じように走っているのだから質が悪い。
これが重力区画ではなく、無重力区画ならまだ良かったかもしれない。なぜなら物理的に無重力区画では走る事など出来ないからだ。
そんな通路を走る彼らは、主に二つの場所を往復していた。一つは観測所。もう一つは解析室。どちらにも大勢の人間が集まっており、時々怒号さえ飛び交っている。
「それは間違いないんだな!?」
「はい、間違いありません。金星公転軌道上にあるVSN―08と22、29から一切の応答がなくなりました。現在も確認中ではありますが、少なくとも信号は一切確認されておりません。VSN―10に搭載されているカメラから、08の物と思われる残骸が確認されておりますが、確定はしておりません」
解析室長の飯山はその報告を聞き、思わず唸る。
「艦隊に確認を取らせますか?」
隣にいた次長が聞くが、彼は首を横に振った。
「いや、まだだ。もっと情報が欲しい。不確定な情報で、向こうを混乱させる訳にはいかない。しかし、幕僚長には一応伝えてくれ。それから分かっていると思うが、この件はまだ誰にも漏らすなよ? これは全員に徹底しろ」
飯山はそう言いながら自身の拳を机に強く押さえつける。
「どんな些細な事でも構わん。データを全て洗い直せ。絶対に何か分かるはずだ」
何かが起きている事は分かっていても、それが何か分からない事に、彼はただただ苦虫を噛み潰したような顔しか出来なかった。
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