第一章 他人(ヒト)の造りしモノ(3)
二〇〇四年三月一四日 鬼首地熱発電所地下
「それでこれがアメリカからの回答か」
鬼首地熱発電所にある地下秘密研究施設では会議が行われていた。発言したのは文部科学省次官。
その研究所の真上にある地熱発電所により、各種偵察衛星などからの確認を難しくしている。
そもそもこの研究所に入るには、五十キロ程離れた、とあるトンネルの隠し通路からしか入る事が出来ない。
地熱発電所側に研究施設から出ることは出来ても、地熱発電所側からは扉が開いていない限り中には入れない設計になっている。
トンネルの中で車を乗り換え、乗っていた人間の数が合うように別人が交代で乗り換えるようにしている程だ。
もちろん車を追跡し続け、乗っている人物を光学カメラなどで確認されれば別だが、常に同じ人物を監視することは人数が多くなればなる程難しくなる。
現在研究所の中にいるのは文部科学省次官と、外務省次官。その他に政府関係者何名か。後は研究所の職員だけだ。ただし政府関係者とはいっても、政権の関係者ではない。あくまで政府を陰で支えている者たちであり、特定の政党には属していない。
「これでもCIAからの情報ですけどね。さすがにアメリカ政府の直接ではありませんが」
文部科学省次官の不平に、外務省次官が答える。
「それは分かっている。彼らだってこの情報を直接政府同士でやり取りは出来ないからな。しかしアメリカの解析では目新しい物がないじゃないか」
手元の書類を見ながら文部科学省次官が答えた。
彼や彼の前にいた次官は、政府には極秘でロシアからもたらされたあの石版の情報を管理している。特に重要な事がない限り、政府や与党、ましてや野党に情報を渡すことはない。
「しかし、我々の試験結果が裏付けられた結果でもあるので、これはこれで良かったのでは?」
「確かにそうだが……」
いつまでたっても文部科学省次官の顔は冴えない。
石版の解析には当時のあらゆる技術を使用した。結果としてある種の紫外線波長と赤外線波長、放射線波長でそれぞれ表面にある文字以外の図形や文字が出てきている。
予算が限られた中、全てを把握するのは困難なので、全体像が分からないようにしながら大学や民間へ調査を依頼もした。そのおかげで低温核融合炉の開発がかなり進んでもいる。他にゲノム解析や新薬の開発にも貢献した。
この秘密研究施設はそういった研究の成果をいくつかキックバックされる資金で運用もされている。いくら各省庁の予算を多少誤魔化した所で、最新の設備を維持するのは金銭的にも難しい。
「どちらにしても、この報告を再確認する必要があります。時間としては二年程度見て頂きたいのですが」
研究施設の責任者が発言した。それに文部科学省次官は頷く。
「所で新型ロケットに使えそうな技術は目処が付いたのかな?」
「ええ。次期固体燃料ロケットに開発は間に合います。M―Vロケットとは違い、予定では十台程度のオフコンの性能があれば打ち上げが可能になるでしょう。パソコンの性能がもっと上がれば、そちらで代用も出来るかと」
文部科学省次官の問いに、研究者の一人が答える。
それぞれ各種専門分野の者がこの研究施設に集っている。この研究施設で行われていることは、少なくとも既存の技術の二十年は先を研究している。
「分かった。また後で資料は送って欲しい。他に質問は?」
誰も発言はない。
「では、次の会合は三ヶ月後に。今日はこれで解散する」
文部科学省次官の言葉で会議は終了した。