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太陽系戦争 (The Battle of Solar)  作者: 古加海 孝文
第四章 監視対象
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第四章 監視対象 (3)

二〇六五年七月二日 みちびき標準時 〇八時

係留中のやましろ艦内


「吉村、訓練の状況は?」

 石原幕僚長と地上とのやり取りもあり、やましろには一週間以上乗艦していない。

 二度の哨戒任務を終えて現在は訓練を指示はしていたが、どの程度のものか。流石に気になり乗艦する事にした。

 CIC――戦闘指揮所のランプは赤い。訓練中なのだろう。

「当初よりは良くなってきました。目的が以前よりもはっきりしただけの事はあります。確実に敵だと分かれば、訓練もしやすいですから」

 まあ、そうでないと困る。

「それで、今はどのような訓練をしているんだ?」

「デブリ帯を挟んで、相手との交戦を想定しています。その方が、目標を捉える事が困難ですし」

 なるほど、面白そうな訓練だ。デブリ帯を挟んでの交戦なら、十分に可能性もある。

「敵の性能は、どのような想定だ? 前回の記録も一応あるはずだが」

「レーザーに関しては無効にしています。ミサイルもです。荷電粒子砲はさすがに有効ですが。しかし最大出力で砲撃しても、相手へのダメージは十パーセントとしています。まあ、正直あまり考えられませんがね」

 確かに荷電粒子砲のダメージが、規定の十パーセントでは辛いだろう。しかし、あらゆる場合を想定しなければならない事に変わりはない。

「しかし、正直まだまだですね。すでに『あきづしま』と『うらやす』、そして『もがみ』と『くろべ』を失っています」

 やましろ型二隻と、改あまぎ型二隻を失っているのか。

「それに対してこちらが与えた損害は、相手の大型艦を三隻沈めたほか、中破を四隻、小破七隻です」

「相手の数は」

「大型艦五隻、中型艦十隻、小型艦二十隻です」

 なるほど。観測されたデータから相手に艦隊を組ませている訳だが、こちらが数の上では圧倒的不利という訳か。

「無人の被害担当艦、六〇型無人航宙防御艦と六〇型二式無人航宙防御艦は出していないのか?」

「はい。正直申し上げて、あれがあると訓練になりませんね。すぐにあれの影に隠れようとして、相手の攻撃を防げる事は防げるのですが、こちらも砲撃出来ません。それでは操艦の訓練にもなりませんし」

 うまい事を考えたものだ。しかし、訓練を受ける側にとっては辛いだろう。

「吉村、正直なところどう思う? 相手にレーザーは効かないと思うか?」

「そう考えるしかないですね。前回の事もありますし。それに、訓練ではまだ相手が突然消えて現れるような事はしておりません。もしあれをやられると、こちらは手出し出来ないでしょう」

 確かにそうなのだ。

「それについてだが、確かあれは大型バス程度の大きさだったな。巨大な軍艦があのような動きを出来ると思うか?」

「どうでしょうか? 私には何とも言えません。確かに、あの大きさだったから出来たのかもしれませんが、だとしても驚異には違いありません」

「出来れば、あれにはあまり武装が積めないと思いたいがな。しかし、それは希望的楽観に過ぎないか」

「ですね。私もそれは考えましたが、レーダー照準をしてきた以上、それなりの攻撃も可能と考えるのが自然です」

 あれがレーザー程度の兵器しか積めないなら、まだ何とかなるかもしれない。しかし、それも希望的観測だ。

「それでも、当初よりは大分良くなりましたよ。もっと訓練期間があれば一番なのですが、まあそれを言っても仕方がないですね」

「そうだな。ところで、次の出航まであと二日だが、どうしても必要な物資の希望はあるか?」

 本来はこの事を伝えたかっただけなので、みちびきから艦へ電話を繋いでも良かったのだが、どうせだからと見に来た。その意味はあったと思う。

「物資ですか。時間以外では、とりあえず無いですね。敵がいきなり現れなければの話ですが」

「それについてだが、思ったよりも敵の動きが速いらしい。当初では十月頭頃だと考えていたのだが、どうやら九月になりそうだ。まだ詳細な観測結果は出ていない」

 最新の報告ではそうだが、これもどこまで当てにして良いのか……。

「こちらに向かっているのは間違いないのですね?」

「ああ、残念だがそうらしい。それまでに、ドック入りしているあまぎ型も兵装の交換を行うと聞いた。主砲で可能なものだけだが、改良型荷電粒子砲に積み替えるそうだ」

「よく間に合いますね」

「元々は、予備で制作していたものらしいがな。しかし、兵装が少しでも優れる事には違いない」

 吉村が少し溜息をつく。この男にしては珍しい。

「地上の方はどうなのですか?」

「そっちは大混乱らしい。まあ我々と違って、そうそう兵装を交換出来るように設計されていないからな。何でもブロック建造する訳にはいかないだろうさ」

 航宙自衛軍の艦は、全てブロック建造だ。モジュールごと交換するだけで、多くの物を交換出来る。重力の影響をさほど考えなくて良い事の利点だろう。このやましろ型に至っては、艦橋もそのままブロックモジュールとして交換出来るほどだ。

「そうですね。ああ、それなら、次の航海までに改あまぎ型の『あがの』と『もがみ』ですが、指揮所モジュールをやましろ型と同タイプに出来ませんか?」

 いきなり凄い提案をするな……。

「おいおい、いくらモジュール交換が可能とはいえ、指揮所モジュールとなると大事だぞ」

「分かっております。しかし連携という意味では、出来れば同じタイプのものが都合が良さそうなのです」

 訓練した上での判断なのか。まあ、同じタイプであれば利点もあるのだろう。

「一応言っておくが、あまり期待しないでくれよ」

「無理は承知の上です。最初から期待はしていませんから。ところで、ドック入りしたあまぎ型は、どのような変更が行われるのですか?」

「ああ、それについてだが、一部の装甲を六三型宇宙装甲に変更しているらしい。まあ、宇宙版集中防御方式だな。とは言っても、外側のみとの話だ。それと、完全自動操艦システムを装備する。さすがに被害担当艦のような使い方は出来ないだろうが、無人で艦が扱えるなら、こちらの戦力も増す」

 通信装置が乗っ取られなければの話だが。一応コンピュータで判別させるとの話だが、完全な物など世の中に存在しない。

「使い物になると良いですね。でも結局、動きとしては被害担当艦と同じくらいしか使い道が分かりませんが」

 被害担当艦の武装はかなり限られている。せいぜい個艦防御が関の山だ。その影に入れば防壁となるが、そのような使い方をすれば被害担当艦は使い捨てのようなもの。多少の装甲はあるとはいえ、これだってかなり勿体ない使い方になる。しかし数だけはある被害担当艦を、出来るだけ有効利用したい。

「そうだな。出来ればもっと他の選択肢があればいいが、人間は限られている。それに、集中防御した箇所については、主要兵装の大幅変更も行うそうだ。被害担当艦がレーザー兵器のみなのだから、それに比べれば戦力にはなるだろう」

 とはいえ、あまり期待しない方が良い。有人が優れているとは限らないが、無人だから出来ない事もある。

「受領はいつ頃になりそうですか?」

「遅くとも五週間後だな。予定より少し遅れているらしい。まあ、こんな事になっているのだから仕方ないだろう」

「相手は、それまで待ってくれますかね?」

「どういう事だ?」

「もし大型艦をそのまま瞬間移動出来るのであれば、五週間後は無いかもしれないという事です」

「それは考えたくないな」

 それが実現出来るなら、我々に勝ち目などない。

「ですね。あ、そうそう、物資の点で許可頂けるなら、もう少し生鮮食料品をお願いしたいのですが。その方が士気も上がります」

「そうだな、それは良い考えかもしれない。保存食ばかりでは飽きるしな。他に無ければ、とりあえずそれだけ伝えておくが」

「次の航海中に、乗員にアンケートを採ってみますよ。私の一存だけで決められない事もありますし」

「うむ、分かった。その辺は任せる」

「演習はご覧にならないのですか?」

 そう言われて、ここに来たもう一つの理由を忘れていた。思わず苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。

「すっかり忘れていたよ。どうも忙しくていけない」

「司令がいらっしゃらなくても、充分戦えるようにしておきますよ。それが我々の役目ですから」

「そう言ってもらえると、助かるよ」

 全く、問題が次々と出てくるのでは、それに対処するだけで精一杯だ。完全に場当たり的な対処しか出来ていない。

「まあ、せっかく来たのだし、見て行かなくては損だろうな」

 正直、もう少し息抜きしたいところだが……。

「司令、お電話です。十二番をお取り下さい」

 艦橋の方から声がする。通信担当の当直だろう。

「渡辺だ。何かあったのか?」

『人事部の木村です。大村中将が、直にお話があるとのことです。おいでいただけませんか?』

「分かった。すぐに行くと伝えてくれ。場所は?」

『重力ブロックの第二会議室でお願いします』

「了解した。すぐに行く」

 電話を切る。何かあったのだろうか?

「司令、何かありましたか?」

 吉村がこちらを見ていた。人事部からの呼び出し。まさかな……。

「いや、何でもない。悪いが急用が出来た。後は任せる」

 CICを出ると、すぐに後ろのハッチを閉めた。

 嫌な予感がする。こんな胸騒ぎは久しぶりだ。早く確かめなくては。

 いくつものハッチを通り抜けながら、今の状態での『最悪』を考えてみる。しかし、人事部を通したワケは? そこが一番の疑問だ。

 人事部で考えられるのは、吉村たちのことだろう。問題は、どのタイプの問題であるかだ。単にスパイというのであれば拘束すれば良い。しかし、それ以上なのではないか? どうしてもそんな予感がしてならない。

 いくつものハッチを抜け、やっと重力ブロックに近づいてきた。すると、奥のハッチの所に人影がある。

「大村中将がお待ちです。石原幕僚長も、まもなく来られます」

 階級章は大尉。たかが迎えに大尉をよこすとは、余程だと考えるべきだ。

「内容は、今は言えないのか?」

「申し訳ございません。私は何も知らされておりません」

 大尉でも知らされていないのだから、かなりの事だろう。なにより、出迎えの者が誰もいないこの通路で話が出来ないのだから。

「それと、中将にはこれをお渡しするようにと……」

 取り出したのはホルスターと拳銃。しかも、実弾が入っているように思える。

「君は無重力で実弾を撃ったことはあるか?」

「いえ、ありませんが」

 そうだろうとは思っていた。

「無重力では反動で扱いづらい。それでも渡すのだから、余程なのだろうな……」

 大尉は訳が分からないといった顔をしている。仕方ないだろう。実際に使ってみれば、怪我をするだろうからな。それで覚えるのが人間だ。案外人間も物覚えは悪い。

 すぐに拳銃をホルスターに入れてから、腰に付ける。まさか宇宙で使うことがあるとは思いたくない。それに拳銃は、宇宙では反動があまりに大きすぎる。いちいち体を固定する必要があるからだ。実際にそんな時間があるとは限らないのだ。

「ここだけの話ですが、その拳銃は特注の弾丸だそうです。無重力を想定していて、反動が無いそうですよ。仕組みは私は知りませんが」

「なぜ君がそんな事を?」

「私も持っています。撃ったことはありません。しかし、何人かの要注意人物については、何かあった際には躊躇せず撃つように言われております。ですが、躊躇せずに人を撃つ事など出来るのでしょうか? 私には疑問です」

「私も疑問だな。特に拳銃なら相手の顔が見える。それで躊躇せずと言われても、簡単では無いだろう」

 そんな会話をしながら通路を進む。不思議なことに、通路には人影が無い。

「理由は知りませんが、この通路は特定のIDが無いと通ることが出来ません。後で中将もIDカードを渡されるはずです」

 そういえば先ほどから、彼がハッチにIDカードを通している。急にセキュリティが強固になった理由を考えてみたが、すぐに思いつく物でもない。

「こちらです」

 そう言うと彼はIDキーを通して、扉を開けた。

「私は他にやることがありますので、失礼いたします」

 私が中に入るのを確認すると、背後で彼が言う。中には石原幕僚長と大村中将。そしてなぜか太田少将がいる。三人とも椅子に座っていた。彼女は警戒任務中だったはずだが……。

「彼女は私が呼び寄せた。これから話す事は、自衛軍発足以来の重大事だ。いや、自衛隊発足以来と言えるかもしれない。私と大村中将、君以外に信頼できる者は彼女だけなのが悲しいが」

「幕僚長、一体何事でしょうか? それに、彼女は警戒任務が……」

「それよりも本件が優先する。警戒任務には他のふねに当たらせているから安心して欲しい」

 警戒任務のことくらいは一言通知が欲しかったが、その余裕すらないということか?

「本題だ。我々の中にスパイと疑わしき者たちがいる」

 大村中将が切り出す。者たちということは、複数ということか。

「我々も迂闊だった。一応入隊時には身辺調査を行っているが、経歴に矛盾がある者がかなりいる」

「かなりとはどの程度でしょうか、幕僚長」

「航宙自衛軍だけで全体の一割だ。現在再調査しているが、今のところ悪い知らせしか聞いていない」

「具体的には?」

「一部の者が出身地が同じだというのを君が指摘したな。それがかなりの数いる。上手くごまかしているつもりだが、我々が把握しただけでも五地域にまとまっている。そして、どれも架空の経歴だった。具体的に言えば吉村だが、出身の小学校は両津市立加茂小学校河内冬季分校となっている。しかし、そこは一九六四年に廃校となっている。百年も前に廃校になっているのに、そこの出身とはあり得ない」

「では、他の該当者もでありますか?」

「その通りだ。多少の食い違いはあるものの、そういった所で矛盾がある者がいる。なぜ今まで気がつかなかったのかも疑問だ」

「人事部の方で、この件については詳細に調べているが、君の乗艦しているやましろでも、艦長の吉村と戦闘指揮長の佐々木が該当者だ。他にも今調べているが、まだ調査が終わっていない。とりあえずこれが今のリストだ」

 そう言って大村中将が一枚の紙を差し出した。そこには二十人ほどの名前と部署が記載されている。

「そのリストはやましろ単艦での話だ。太田君のふねについては、すでに彼女に知らせてある。しかしそれでもまだ半分も調査が終わっていない」

 驚愕するしか無い。まさかこれ程とは……

「まだある。地上したでも調査を行っているが、どうも自衛軍だけの問題では無いらしい。政府にも何人かいると報告を受けている。当然そうなれば……」

「政府からの指示も、必ずしも信頼できないと?」

「思いたくは無いのだがな。しかし事実は変えられない。政府はおろか、当然官僚の中にも該当者がいるようだ。そして困ったことに、敵は待ってくれそうも無い」

「どういう事でしょうか?」

「私から説明します。この写真は、昨日例の惑星を撮影した物です。大型艦の艦影が確認できます。そして、これが今日の写真です」

 渡された写真を見ると、昨日の写真よりも今日の写真の方が光の数が多い。

「光はエンジンの噴射だと思われます。移動しています。目的地はまだ不明ですが、先の小型及び中型艦の状況を考える限り、目的地は地球と考えられます」

「現状から判断して、こちらに到着するまでの猶予は?」

「まだ分かりません。どうも軌道上に集結しているとも考えられます。監視は続けているので、はっきりとした動きがあればすぐに報告が来ると思われます」

 結局相手は待ってくれないという訳か。

「分かっている事は、まだ少ないという事だ。現場の君にたちには本当に申し訳ないと思うが、私もまさかこんな事になっているとは思ってもいなかった。しかし、君の指摘があったからこそ、この事が明るみに出た。もしなかったらと思うと、正直恐怖しか感じられない」

「幕僚長、私はそんな……」

「君は実力以上の働きをしているよ、実際に。海自にいたときは単に潜水艦の艦長でしかなかったが、今では航宙自衛軍になくてはならない存在だ。あの時とは違う」

 そんな数年で、人は変わるのだろうか?

「乗員の識別は、我々人事部の方で何とか考える。渡辺中将は艦隊運営に専念して欲しい。幕僚長もそれでよろしいですね?」

「ああ、その方が良いだろう。これ以上渡辺中将に負担をかけさせたくない。君らは今まで通りの態度で彼らと接して欲しい。先ほど銃を渡したと思うが、危険を感じたら躊躇無く使ってくれ。使わずに済めば一番だが、状況的に備えは必要だ」

 成る程。その為の備えなら仕方がないのかもしれない。しかし出来れば使いたくないものだ。相手がスパイだったとしても、もう何年も同じ釜の飯を食う仲。やはり簡単では無い。

「太田少将もいいな? 対策は出来るだけ早く考える」

「了解です。ところで、先ほどの説明にあった潜宙艦とは何でしょうか?」

 急に聞き慣れない言葉が出てきた。センチュウカン? 恐らくふねだとは思うが、ただでさえ慢性的人員不足なのに、また何か配備されるのか?

「潜宙艦とは、簡単に言えばレーダーに察知されにくく、肉眼でも見つけることを難しくした特殊艦だ。乗員数は十名を予定している。エンジンは一つだけだが、エンジンの噴射熱にもシールドを行っているので、多少は判別が難しい。そして、ほぼ同じ外観の物をアメリカも使用することになった。船体とエンジンは日本製。搭載兵器は日米で違う事になるだろう」

「我が国での兵装はどうなるのでしょうか?」

 それが一番問題だ。それに、目にも見えにくいというのも仕組みが気になる。

「我が国は垂直発射管二十機を後部に、水平発射管六機を艦前方に備えた形になる。装填する弾薬はいずれも、五九式改対艦ミサイルのステルス仕様だ」

 幕僚長が数枚の紙を私と太田少将に渡した。見ると、透明ステルス塗料に、艦の外壁がモニターとなって、反対側の景色を投影するようだ。

「完全に見えないわけでは無いが、上手く使えば戦力にはなるはずだ。水平ミサイル発射管には、最大で二十四発のミサイルを用意できる。装填はいずれも全自動。垂直発射管は再装填は無い。再装填するには、一度港に戻る必要がある」

「ミサイル潜水艦と考えればよろしいのでしょうか?」

 形状もセイルが無い葉巻型に近い。唯一潜水艦と違うのは、スクリューではなく噴射エンジンだろう。

「テストはまだだが、リモートでの運用も可能なように設計されている。また、船体はロケットの外壁をそのまま流用しているので、装甲は無いに等しい。だからこそ運用に注意は必要だ」

「全て既存の寄せ集めといった形ですね。外壁はまさかHⅣCの二段目ではないですか?」

「ああ、その通りだ。敵の数があまりに多い以上、こちらとしても数を揃えたい。その為の処置だ。出来れば無人で運用できれば一番だが、今はそう言っていられる余裕も無くなりつつある。もちろん我々の人員不足は承知している。以前に話した地上したからの人員補給を、出来るだけ早く使えるように訓練して欲しい。今週中にも最初の人員が到着するはずだ」

「我々に猶予は無いということですね……」

「幸いなことに、我々は敵艦を優先的に狙えるという強みがある。何せ、まだ宇宙開発は始まったばかりだ。民間人の行き来も少ない。それに、事が始まれば出来るだけ民間人は地上したに降ろす計画だ」

「昔の大戦のように、通商破壊作戦に怯える必要は無いと?」

「ゼロでは無いがな。一応先に伝えておくが、この艦の名前は数字で決定済みだ。一番艦は伊1となっている。アメリカ側は、今は使われなくなった旧ロサンゼルス級の名前を使用すると連絡があった。さすがにガトー級の名前は使わないらしい」

 幕僚長に少し笑みが見える。まあ、名前など国によって違って当然だ。

「それと、テスト艦に荷電粒子砲を艦の正面に備える案もある。まあ、これは間に合うか分からない」

「今は現状の装備で何とかします。むしろ、この潜宙艦の信頼度を出来るだけ高めて下さい。それからでも正式配備は遅くないかと」

 むしろ、今の装備を確実に使いこなせることの方が重要だ。現状、まだまだ扱いに問題がある。

「しかし、話は戻しますが、吉村や他のメンバーの目的は一体何なのでしょうか? 単なるスパイとは思えない規模ですし、何より我々に深く浸透しています。その意図が分かりません」

「それについては、人事部の方でも調べてみるつもりだ。看過できない問題だからな」

「分かりました。木村中将にお任せします」

「敵の様相が変化したら、できる限り早く連絡は入れる。今の件も同様だ。しかし、彼らには悟られないように気をつけてくれ」

「分かっております、幕僚長」

「では以上だ。三人には色々負担をかけるが、何とか乗り切って欲しい」

「了解です。厄介ごとだらけですが、何とかしてみせますよ」

 我々は立ち上がると、幕僚長に敬礼する。

「頼んだぞ」

 これからの事を考えると気が重いが、仕方がない。

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