第三章 艦と人と組織 (13)
二〇六五年六月二十五日 みちびき標準時 一〇時
みちびき 航宙自衛軍居住区
第二士官会議室
「報告ご苦労だった。それにしても、生存者は四名だけとは」
石原航宙幕僚長は、腕を組みながらこちらを見る。その表情は暗い。
「フライトレコーダーは回収出来たので、専門チームに解析させれば、もっと分かるかと思います」
あの後、再度護衛を付けた回収船で向かわせたが、今度は攻撃を受ける事はなかった。
「そうだな。現在の生存者の様子は?」
「現在事情聴取を行っていますが、偶然船外にいたようで、詳しい事は難しいかと。外的な怪我などは認められません。ただ、若干酸素欠乏症になっている者がおりますので、今しばらくの観察と調査は必須かと」
四人とも命に別状はなかったが、分かった事は少ない。
まあ、船外活動をしていて助かったのだから、運が良いとも言える。あれだけの漂流物の中、船外にいて助かったのは奇跡だ。
「それよりも、今後の対応です。相手は、明らかに敵と判断する以外無いと思われます。それも、我々の監視エリア外から狙撃出来るのですから、高度な技術を持っていると判断すべきでしょう」
会議室が重い。その空気が痛い。
レーダーの解析で分かったが、複数の距離から攻撃されていた。それも、狙撃に近い形だ。最短距離で一五〇万キロ、最長で一億二八〇〇万キロ。最短距離であっても、光の速さで四秒程かかる。最長距離では光の速度をほぼ秒速四〇万キロとして、三二〇秒かかる計算だ。五分二〇秒のズレが出るはずだが、あの時は回避運動もしていた。それすら計算に入れて発砲していたとなると、相手の技術力に恐怖してしまう。
「あの惑星に関連するという攻撃と判断する根拠は何だ?」
「『まいづる』の破片から、レーザー以外の攻撃と考えられます。他艦の装甲にある痕跡も同じ結論です。機関部は直撃していませんでしたが、一度の攻撃により爆沈した事は明らかです。命中箇所は前部格納庫付近と思われます。操舵室および周辺施設には、あれだけの爆発を起こすようなものはありません。レーザーとは考えにくいと思われます。モニターで確認した限り、ミサイルではありませんし、そのような反応もレーダーにはありませんでした。もし他国なら、そのレーザーの痕跡があると思われますが、それでない以上、あの惑星に関連したと考える方が自然です。また、あの攻撃は太陽方向からでした。当時その方角には、他国の艦船及び攻撃兵器はなかったはずですし、そもそも最長距離から考えれば、ほぼ金星の近地点に相当します。その距離にアメリカを含め、他国が艦船等を配備したとは考えられませんし、攻撃が正確すぎます」
「確かに一理あるな。どちらにしろ、再度調査させる。君らは交代で休暇を取って欲しい。色々あっただろう。君らには休暇が必要だ」
思わず安堵の息が漏れる。しかし、安堵していて良いのだろうか?
「この『みちびき』が狙われる可能性はないでしょうか? もちろん『みちびき』だけとは限りませんが、艦隊で周囲を警護する必要があるかと」
「分かっているよ。しかし、君の顔はどうだ? 気が付いていないかもしれないが、まるで死人だぞ。そのような状況では、事故を起こす可能性もある。どちらにしろ、あれから何の動きも確認されていない。君も、一日くらいは休め。ここの防衛は、あれ以来防御衛星を何機か余計に使用している。対レーザー防御システムも多層的に稼働させているから、レーザーなら多少防げるはずだ」
それほど顔色が悪いのか。自分でも気が付かなかった。
「『まいづる』の件以来、地上の方も大騒ぎだ。むしろ、地上の方が騒ぎが大きい。休める時に休んでくれ。これは命令と受け取ってもらって構わない。艦隊その物のダメージも、想定以上だ。現状で乗員を移せる程の余裕は無い。損害を受けていない艦に周回軌道の防衛を与えるが、どちらにしても休息を優先させる。地上には私の方から説得をしておくので、安心したまえ」
「分かりました。そうさせていただきます」
「それから、間違っても英雄になろうとはするな。『まいづる』の件は不幸だったが、今出来る事は少ないのだからな」
石原幕僚長の声は、余計に空気を重くした気がした。
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