第三章 艦と人と組織 (3)
3月18日(水) 修正
2015/03/24 本文修正
二〇六五年六月一八日
みちびき 航宙自衛軍ドック内
ドックエリアを見ることが出来る窓の一つで、改装作業が行われているあまぎ型の様子を見ていた。
かなり本格的な改装のようで、モジュール化されたあらゆる部分が次々と交換されている。
「渡辺中将、お待たせしました」
現れたのは奈良順次大佐、航宙自衛軍補給部長。
着任してまだ一年ほどだが、以前まで陸自の補給部隊を指揮していたそうだ。主に武器関連だったそうだが、経験があったためかさほど苦労なく慣れてくれている。
「これがあまぎ型の改装で変更になるリストです。とは言え、事実上ほとんど変更されますが」
「ほとんど?」
確かに窓から見える光景は多くを変更している事を窺わせるが、この場合のほとんどとは『別物』と考えるべきだろう。
「ええ。内部のコンピュータはもちろん、エンジン関連から主砲、ミサイルに至るまでほとんど全てです。改あまぎ型と同等もしくはそれ以上にするので、同じモジュールは通路ですとかその類いのみかと。あとは調理室や休憩室などですね」
渡された資料はまさに辞典の厚さだ。確かにこれならほとんど変更されるのも頷ける。
「しかし、元のモジュールはどうするんだ? あれだけでも十分使えるはずだが?」
特にレーダー関係や艦橋設備、CIC設備などは十分にそのまま通用するはずだ。ミサイル関係も発射管その物は流量出来るはずである。
「それに関しては、兵装などは無人艦に搭載します。さすがにエンジン関係はそのまま使えませんが、核融合炉はそのまま使えますし、噴射ノズルの変更で他の用途に使用する予定です。とはいえ、実際まだ何に使用するかは決まっていませんが」
「まあ、そのまま廃棄するのは勿体ないからな。しかしコンピュータはさすがに無理なんじゃないか?」
搭載されているコンピュータはあまぎ型に最適化されている。辞典のような仕様書はまだ見ていなくても、艦橋設備まで交換するとなれば話は別だ。
「いえ、それは問題ないそうです。ソフトを更新して、今まで集中管理していたコンピュータとリンクし、システムの分散化をはかるので。ただ今回は実験的な意味合いがありますね。射撃システムや航行システム専用のソフトに更新しますが、一応単体でも動作可能です。しかし実際のテストがまだ行われていないので、どの艦かまだ決めていませんがテスト艦として一度運用できるよう上に申請しています」
確かに実際のテストとなると問題もあるのだろう。問題は誰がテストを行うかだが。
あまぎ型ややましろ型もそうだったが、本来その艦の初代艦長となる艤装員長が決定されないまま艦の改修が行われている。当然テストするのはドック要員だと思うが、それでは分からない事も多い。
「出来れば改装中の艦全てでテストを行って欲しいな。そうすれば我々の方への受け渡しが延期できる。ただでさえ習熟訓練が確実でない今、新しいシステムのテストはこちらとしても難しい。必要なら以前に使用した試験艦四隻で先に試験しても構わない。上にはそう伝えてくれ。後で私からも伝えておく。実験的に一つだけの艦でテストを行うのであれば、こちらから人員を何とかしてもいい」
素人ではないにしても、戦闘艦としてきちんとした知識がある者が確認した方が確実だ。
「それなら助かります。さすがに今の時点で下手に艦隊にご迷惑をかけるのは、私も本望ではありませんから」
皆が無理をしているのだから、どこかで均衡を保たなければ、全体がおかしくなってしまう。その為の人員配置であれば多少は仕方がない。
「ところで、整備部などは上手く連携を?」
確か少し前に整備部と補給部でいざこざがあったと聞いた。どうも資材の量で双方が対立したらしい。毎回では無かったらしいが、片方に物資が優先される事があると聞いている。
「ええ、問題はないですね。まだ若干補給物資や資材の不足はありますが、以前ほどではありませんよ。少なくとも物資の取り合いにはなっていませんから」
それを聞いて安堵する。資材不足でまたおかしな事になるのは勘弁願いたい。ただでさえ全般的に物資が足りないのだ。余計な事で対立はして欲しくない。
「ただ、ちょっと困った事になってはいるんですよ」
「困った事?」
「はい。打ち上げに使用しているHⅣCロケットの事はご存じだと思いますが、そのうち一段目を除いて二段目以降は全て回収しているんです。そこまでは良いのですが、置き場所に困っているんですよ」
回収しているのは知っているが、さすがに数までは把握出来ていない。こんな話が出る以上、尋常ではなさそうだとは想像が付く。
「私が把握しているだけでも四百を超えています。民間ブロックにも置かれているらしいので、実数は不明ですね」
補給部すら把握出来ていないロケットの残りを、一体何に使用するのだろうか? 何より数が多すぎる。
ロケットの部品を流用する事は前々から行っているが、少なくとも現状ではさほど必要なくなってきているはずだ。使用目的がステーションの中央部と回転部の連結などで目的が限られている。そしてほとんどはもう工事は終わっている。
ステーションを拡張する案は聞いているが、それもまだ当分先になる話だ。今の段階で数百機に及ぶロケットの部品確保はスペースの邪魔にしかならないはず。
「保管もあまり数が多すぎると、みちびきの回転に影響するので問題なんですよ。実際回転するための動力を上げているらしいので」
「そこまでしてか?」
いくらステーションの動力が核融合であったとしても、燃料は無限では無い。当然余計な負荷がかからないようにしているはずだ。
「ええ、間違いないはずですよ。この前みちびきの動力関連に勤めている知り合いから聞いたので。まあ、私が軍関係者という事で話してくれたらしいですけど」
私の所まで情報が来ていないという事は、一応機密保持対象か。簡単にそれを漏らしたその人物も問題があるとは思うが、全てを秘密に出来るほど簡単では無い。
「前に整備部の方からロケットの回収部品で無人の兵装を準備すると聞いたのですが、そちらに回されるよりも早くロケットの方が集まっているんですよ。かといって耐熱処理がされていないので、再突入は出来ないですし。ゴミとして捨てるにしては、大きさ的にも問題が多少ありますからね」
「なるほど。分かった、私の方でも少し調べてみよう。また突然新しい装備が加わっても困るからな。何か分かったら連絡して欲しい」
受け取ったリストをアタッシュケースにしまい、部屋を後にする事にした。
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