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太陽系戦争 (The Battle of Solar)  作者: 古加海 孝文
第三章 艦と人と組織
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第三章 艦と人と組織 (1)

3月18日(水) 修正

        一


    二〇六五年五月二十九日

        宇宙ステーションみちびき 航宙自衛軍係留港


「結論から申し上げて、練度不足があまりに目立ちます」

 目の前の石原航宙幕僚長に進言する。係留港にある特別士官会議室で、私と石原航宙幕僚長二人だけで、先の訓練結果を報告した。

 先のアメリカ艦隊との訓練で、兵器そのものの有効性は分かった。

 実際荷電粒子砲は想像以上の実力で、普通の装甲であれば簡単に貫通してしまう。アメリカの装甲板を五枚簡単に貫いた。

 しかし練度不足のせいで実戦の対処があまりに遅い。実戦なら我々は何隻も失っていただろう。

 現実に、撃沈判定された我が方は一五隻。アメリカ側は二隻。まさに我が方は全滅といった方が良い。

 ただ、これはコンピューターの補佐を最小限にした時の物だから、本来の性能ではないと思いたいが。しかも、アメリカ側はエンタープライズを大破判定しただけ。それに比べ、我々は旗艦のやましろが撃沈判定だ。

 定格出力の三十パーセントで試射した主砲は、アメリカの用意した装甲を一撃で打ち抜いた。また、こちらの六三型宇宙装甲は、アメリカ艦のレーザ砲を二十七秒耐え抜いた。

 しかし、実戦を想定した艦隊行動は全く駄目。話にもならない有様だ。

「そう言われると思っていたよ。私も危惧していた事だ」

 石原航宙幕僚長は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「では、なぜ合同訓練など……」

「これは私の一存ではない。阿部統合幕僚長の判断ですらない。政府からの指示だ。反対は出来なかったさ」

「現場を無視しすぎです。訓練だから良いようなものを、もしこれが実戦ならと悪寒が走ります」

 もし実戦なら、我々は文字通り全滅していただろう。通常は三分の一の艦が戦闘不能で全滅だが、この場合は文字通りの全滅だ。

「私からも再度それは言っておく。君が一番大変だとは思う。訓練期間をもっと設けてもらうしかないが」

「今の状態では焼け石に水です。出来れば地上から人が欲しいくらいです」

「それなら良いニュースがあるよ。空自の入間基地第一高射群、ペトリオットマークⅡPAC2の人員、E―818のAWACSまるまる一機分のレーダー要員、海自第二護衛艦群の人員半数が、明日にもこちらに到着するはずだ」

 正直驚きを隠せない。地上の反発がかなりあったはず。

「まあ、これも政府筋の決定なんだけどね。相変わらず私も蚊帳の外だよ」

 幕僚長ですら蚊帳の外など、一体政府は何を考えているのか。

「それぞれどこに配属するかは君に任せるよ。そこまで口出しはされていないからね。それに、君なら現場のどこに不足しているのか、今回の事で一番良く知っていると思う」

 そうは言われても、全般的に不足している。

 確かに人員の補充はありがたいが、すぐさま宇宙で使える訳ではない。学校を出たばかりの新人よりはマシというレベルに過ぎない。

 宇宙は地上とは違いすぎる。レーダー員程度ならまだ何とかなるだろうが、それ以外は地上と違いがありすぎて、今も混乱しているくらいだ。

「これはまだ未確認情報だが、海上自衛軍のうち第二護衛艦隊と第四護衛艦隊、第二潜水隊の要員を宇宙(ここ)に配備するという噂がある」

「本気ですか? 横須賀に呉、佐世保の艦隊要員を引き上げるようなことをすれば、地上(した)の防衛が疎かに……」

「私も噂でしか知らないよ。どうも外務省を通じて、アメリカはもとよりロシア、中国とも内密の何かを結んだという噂もある」

 地球を守るために、可能な限りの人員を宇宙(そら)に上げるつもりなのか? 確かに全くの新人よりは良いと思うが、信頼して良いと思えない。

「私は……」

「私だって辛いのだ。このような状況下で、君に色々押しつけてしまっている。それくらいは分かっているつもりだ。だから、許して欲しいなどとは思っていない。君から嫌われても仕方がないと思っているよ」

「そこまでは思っておりませんが……」

「しかし、無茶な命令だとは思っているのだろう」

 思わず頷いてしまった。そうしてから、しまったと思う。

「上には、下から不平が多いと伝えておくよ。特定の個人の名前が出るような事はしない。私だって、そこまで愚かではないさ。このままでは、航宙自衛軍全体の士気に関わる。せっかく人員が補充されても、士気が下がっては意味が無い」

「分かりました。出来るだけ全員が早く慣れるよう、こちらとしても最善を尽くします」

 とは言ってみたものの、正直自信はない。かといって、出来るだけの事はするつもりだ。補充人員の教育の事だってある。忙しくはなるが、弱音を言っている場合ではない。

「そう緊張するな。まあ、気持ちは分からないでもないがね。私が同じ立場なら、重圧で倒れるかも知れない」

「ご冗談を……」

「真実さ。今の立場だからこそ、何とかやっていられる。もしかしたら私は、軍人向きではないのかも知れないな」

 台湾海峡沖紛争で、影の立役者の一人とも言われる石原航宙幕僚長がこんな事を言うとは。

 表向きは、自衛軍はさして何もしていないとされている。しかし、現実は違う。これを知るものはごく一部。今でもそれを語る者はいない。もちろん、口止めされているというのもあるが、それ以上の事もある。今の状況では、国際問題に必ずなる。

「君だって元は潜水艦乗りだが、極めて優秀だったじゃないか。だからこそ私は君を選んだ。そして私はそれが間違いだったと思った事はないよ」

 確かに、私を引き抜いたのは石原航宙幕僚長だ。

 航宙自衛軍設立の際、陸海空からそれぞれエリートを選んだ。さらにそのエリートが、エリートの部下を集めて作ったのが今の航宙自衛軍だ。その意味では、他の自衛軍とは元々からして違う。最初は反発もあったが、今はそれもほとんど無い。

 もちろん、それ相応の実績もあるからだが、ただ残念なのは、それが国民に知らされる事はないという事。

 影という意味では、潜水艦時代と同じだと思える。なにより、宇宙旅行も出来る時代になったのに、観艦式は一度も行われていない。確かに費用対コストを考えれば、そこまでする理由はないのだが。

 ただ、国民にその実態も活動内容も知らされていないのは、正直歯がゆい。他と違い、航宙自衛軍が直接災害で活躍する事もないので、それは余計に思ってしまう。せいぜい公開されている情報では、宇宙からの情報収集しかできず、当然それがどれほど役に立つかは、一般の国民は知らない。

 それ以上の事をやっているのだが、全て非公開だ。宇宙ステーションみちびきの建造にも、航宙自衛軍は多くの面で協力している。皆が分かっている事とは言え、やはりこの点は辛いものがある気がする。

「ところで、悪いニュースもある」

「何でしょうか」

「二週間後に、改あまぎ型八隻が引き渡される事になった。予定よりも早い」

「ちょっと待って下さい。いくら何でも早すぎます」

「私だって、つい先ほど聞いたのだ。政府の方針らしい。あまぎ型に移した乗員を、改あまぎ型に移してもらえるか。現在のあまぎ型は、それが済み次第改装するらしい」

「話が急すぎます。もう少し情報をこちらに頂かないと、訓練もまともに出来ませんよ」

「分かっているよ。どのみち、あまぎ型の改装に一ヶ月はかかると思う。その間に、乗員を習熟させてくれると嬉しい。成績優秀者を、改装が終わったあまぎ型に乗せてもらいたい」

 一ヶ月で改装……普通ならあり得ない速度だが、モジュールを交換するだけなので可能という、私から言わせればある意味弊害だ。

「猶予は一ヶ月半ですか……」

 あまりに急すぎる。何かあったのかと疑ってしまう。

「私も、もう少し猶予がもらえないか話はしてみるが、一応その事は頭に入れておいて欲しい」

「分かりました。その様子ですと、全て政府(うえ)の指示でしょうからね」

 一体、政府は何を考えている。現場を混乱させる事しか考えていないのか。

「改あまぎ型の件は話してもらって構わない。その方が習熟にも良いと思う。人員については、さらに地上から引き抜けるか頑張ってみるよ」

「改あまぎ型の諸元表は頂けるのですか?」

「ああ、それは用意してある。技術部と補給部に問い合わせてくれ。主要メンバーに配布してもらいたい」

「了解しました。他に悪い話はないでしょうね?」

「ああ、今のところはね。しかし、現状どの様な話が突然来るか分からない。ドックの連中は、今でも地上に帰してもらえないらしい。あまぎ型の改装が終わるまで、突貫工事かもしれないな」

「ドックの大半は民間人だと思うのですが、大丈夫なのですか?」

 軍の人間ならまだしも、民間人も多数いる。当然問題が出るはずだ。

「かなりの金額が動いているとは聞いている。しかし、さすがにそろそろ限界だろう。むしろ、この事でドックの士気が落ちる方が怖い」

「そうですね。ミスは困ります」

「なんとか乗員だけでも統率して欲しい。今言えるのはそれくらいだ」

「了解しました。泣き言を言ってはいられないようですし」

 幕僚長が立ち上がろうとして、再度椅子に腰掛けた。

「もう一つ悪い話があった。例の人員の件だが、かなり不味いらしい。しかも排除も出来ない状況のようだ。私も詳しくはまだ知らないが、十分注意して欲しい」

 吉村達のことか。

「具体的にはまだ?」

「私も詳細は分からないが、現行の法律では手が打てないと聞いている。まあ、そういう事だ」

 きな臭い臭いしかしない。

「では、先に失礼させてもらうよ。地上の方も忙しいからね」

「すぐに地上(した)ですか?」

 席を立ちながら、渡された書類をかき集める。

「ああ。まったく人使いが荒くて困るよ。近いうちに、出来るだけ連絡はするようにする。後は頼んだ」

 そう言って、石原航宙幕僚長が先に部屋を出る。

 それにしても、色々とまた面倒な事になった。たまには地上に行きたいが、とてもではないけどもそれは無理だろう。

 大体、一体どこまで話せばよいのか。ほとんどの書類は今でも特特防で、上級士官に話せる特防秘は限られている。

 防衛秘密を意味する防秘はさらに少ない。一般兵が見る事の出来る書類など、ほとんど無いのが現状だ。

 主砲の性能自体が特防秘である以上、話せるのは各艦の艦長と副長、そして砲術士官程度。何故か、戦闘に直接関わるCIC関係者には秘密だ。しかも、公開されている情報も全てではない。これでは、いざという時に役立たない可能性の方が高い。

 それに先ほど渡された、新型のレーザー防御用装備もどこまで信頼出来るのか。

 レーザー妨害素材を塗布した、高張力鋼のワイヤーで出来た網を射出し、その網でレーザーの威力を軽減させるという代物らしい。

 一つの射出ポットで、五層の網を形成するので、それだけでもかなりの軽減を期待出来るらしいが、当然こちらのレーザーも妨害されてしまう。なので、使い方は注意が必要だ。

 さらにその網に対して蒸気を散布する事で、レーザーの威力を相当数軽減させる事が可能と書いてはあるが、実際見てみない事には分からない。蒸気散布はネット展開ポットに組み込まれているので、展開と同時に蒸気も展開される仕組み。まあ、この点は余計な事を考えずに済むので、楽と言えば楽だ。

「とりあえず、艦長と副長には伝えなければならないな」

 考えても仕方がないと思いながら、どう説明するか迷う。

 全く、厄介事ばかりだ。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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