第二章 それは訓練なのか?(9)
3月18日(水) 修正
二〇六五年五月二十五日 UTC(協定世界時) 二〇時
月軌道上
「左舷よりミサイル多数。USSエンタープライズ及びアイゼンハワーからの物です。現在くなしりが迎撃中」
「数の報告はどうした!」
思わず怒鳴る。CIC要員が悪いわけではないと思いたいが、常に数は正確に報告させたい。
「失礼しました。数十五。うち、くなしりが十を迎撃成功。三つが本艦に向かっています。二つはしきしまへのコース。自動迎撃システム作動中。二……一……迎撃成功。しきしまも迎撃成功しました。さらにミサイル二十を確認。いずれも本艦へのコース。現在しきしまが間に入ってきています。さらにくらまが援護。あまぎが対ミサイル妨害システム起動との事」
初めてにしては良い動きをする。あまぎの太田も隙を見せずにいるようだ。
「エンタープライズに照準。二番砲および四番、発砲開始」
佐々木が報告するが、実際には発砲していない。レーザー照準をしているに過ぎない。実際に発砲したら、エンタープライズを破壊してしまうだろう。大破とはいかなくても、小破程度はしてしまうはずだ。
「エンタープライズの艦尾に命中。エンジン被弾を判定。エンタープライズ、速度落ちます」
渡瀬の観測も問題なさそうだ。むしろ問題は……
「うらやす、こうづしま、あそ、たんざわが戦列を離れます。なお、こうづしまは爆沈判定です」
まだアメリカ側は艦艇を失ってはいない。なのに、こちらは一隻爆沈の三隻大破。数の上で有利なはずなのにだ。
エンタープライズはまもなく撃沈判定だろうが、それにしても彼我兵力差で圧倒的有利なのに、これではやられっぱなしではないか。
「エンタープライズより直撃弾。艦首左舷二番砲大破。続いて、三番砲も損傷。直撃箇所は砲後部。三番砲の出力五十%ダウン。使用不能」
「三番砲へのエネルギー供給をカット。三番砲にダメージコントロール班を向かわせろ。対レーザー防御はどうなっている!」
さすがに吉村もこの状況は不味いと感じるのだろう。
「左舷対空砲に直撃弾。十二から二十二番使用不能。対空迎撃率左舷三十五%ダウンしました。レーザーによる物です。敵ミサイルはなおも健在。くらまが直援にまわっています。あまぎ、艦尾に直撃判定との事。戦列を離れます。撃沈ではありません」
アメリカ側の戦闘機は問題なかったが、ミサイルの波状攻撃とレーザー砲に対処できていない。ソフトの問題もあるだろう。何より、経験値が違いすぎる。
「ダメです、ミサイル防御しきれません! 左舷後部にミサイル直撃。五番砲基部です。使用不能。現在我が艦は攻撃力の四十五%を喪失」
やられっぱなしか。後で幕僚長に報告するのに、どう言い訳するか……。
「直援は何をやっている! 艦隊、隊列を乱すな。きりしま、おきのとり、つしまに直援を回させろ。対空防御、レーザー妨害システムを展開しているのか!」
いくら何でも、旗艦であるこの艦を撃沈判定させる訳にはいかない。
「ルーズベルトに攻撃を集中させろ。一点突破しつつ、隊列を組み直すんだ」
とはいえ、すでにかなりの被害を受けている。この勝負……。
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