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太陽系戦争 (The Battle of Solar)  作者: 古加海 孝文
第二章 それは訓練なのか?
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第二章 それは訓練なのか?(6)

3月17日(火) 修正

2015/05/10 修正

二〇六五年五月二十日 

宇宙ステーションみちびき


「報告は以上です。まるで想像が出来ません。記録画像は他にもありますが、大体が同じような内容です。全てディスクに収めてあります」

 みちびきの作戦司令室で、石原航宙幕僚長に報告をしていた。事が事なので、通信ではなく直接お会いしての報告だ。

 ちなみに戦闘報告での画像はカートリッジ式のブルーレイDHというディスクを使用している。カートリッジ式なのは中の円盤を保護するため。DHはダブルハニカム構造の略。

 一般のブルーレイディスクとはカートリッジ式なので互換性が低いが、宇宙空間ではデータの保護が優先されるので耐放射線処理が行われている。Dはそれまでのブルーレイが最大で三十二層だったのに対して、その二倍である六十四層。さらにHが示すとおり、データの記録部分はハニカム構造になっている。

 ハニカム構造自体は最近商用化され、最大記憶容量は一層につき二テラバイト。商用は十六層までが市販化されているし、そもそもカートリッジ式ではない。一層につき二テラバイトなので、理論的には三十六テラバイトまで保存可能だが、フォーマットを行うと使用出来る容量は二十九テラバイトまでだ。

 しかし主に軍用の六十四層ディスクは、それぞれの記録層が別々にフォーマット可能で有り、尚且つ専用のフォーマットになるので一層あたりの容量は四テラバイト。フォーマット時で一階層あたりの容量は実質最大容量がそのまま使用出来る。そもそも記録用のトラックピッチは二μmであり、通常の再生装置では当然再生は不可能だ。

 ハニカム構造は通常のビット記録を発展させた物で、一つのハニカムに対して最大で四つのビットを保存出来る。それが一つのハニカムに対して六個あるので、一つのハニカムで二十四ビットの記録を可能にしている。問題は専用の読み取り機と書き込み機必要なことだが。

 この技術でフォーマット後も新技術でほぼディスクの全ての容量を使用出来るようになり、市販されている十六Kハイビジョン画像であっても数千時間の録画が高画質モードで記録も出来る。

 実際はメディアの単価が高額なため、まだあまり普及していないという現実はあるが、医療機関などでは電子化したカルテなどを保管するのに使用しているそうだ。

 各自衛軍にはかなり早い段階でこの新型ブルーレイが導入された。レーダーの記録はもちろん、多種の記録に用いるのにディスクが数枚で終わるのは都合がいい。

 それに開発メーカーの協力もあり、対応再生端末でも暗号化されているので中身を確認するのは難しい。もちろんそれ以外にも暗号化はされているが。

 幕僚長に戦闘経過の報告書を渡すと同時に、私には新しい艦の資料が正式に手渡された。

「信じられないな。レーザーも効かず、ミサイルも効かない。しかも突然消えたか。しかしニュートリノが最後に観測されたのは興味深いな。しかも異常に多い。収束しながら消えたというのも興味深い。もし前後に艦がいなければ、収束していた事は分からなかったかも知れない。それと、重力異常も少しだが確認されているな」

 レーダーなどを解析した結果、ニュートリノと重力の異常が観測された。それが何を意味するかまではさすがに分からなかったが。

「先日お話のあった、あの惑星や物体と何か関連があるのでしょうか?」

 前回渡された資料の中に、黒い石柱の写真があった。異星人の物らしいが、はっきりとはしない。

「さあな。私にも分からないよ。もしかしたら事は急を要するのかも知れないな。あまり嬉しくない話ではあるが」

「何のことでしょうか?」

「私も昨日聞いたばかりなのだが、前回見せた惑星の軌道上に、多数の船と思われる物が確認されたらしい。しかも、どうも軍艦のようだ。数はまだ分かっていないが、それでもかなりの数だとは聞いている」

「にわかに信じられませんが。それに、我々に対抗出来るのでしょうか……」

 思わず寒気がする。もし、こちらの攻撃が何も効かないとしたら、勝敗は火を見るより明らかだ。

「どちらにしろ、こちらも準備を急がねばなるまい。君には正式に辞令が下りた。やましろ型一番艦、CSP―01やましろへの移乗を命ずる。また、やましろを旗艦として、現在八隻のあまぎ型、また新鋭艦二十隻のやましろ型と艦隊を編成し、引き続き艦隊司令を命ずる」

 CSP―01――クルーズ・スペースシップ・ポジトロンの略で、後ろはその一番艦であることを示していると資料にあった。

 それにしても不思議なのは、なぜ航宙自衛軍の場合はCSP―01と艦番号が艦首に記載されているのだろうか?

 海上自衛軍の場合は数字だけだ。確かに海上自衛軍とは違うが、かといって全く違うとも思えない。航海する場所は違えど、同じ(ふね)と呼ぶ以上、余計にそう思う。前に海上(した)の艦船と区別するためとは聞いているが……。

「新型艦に、その艦隊司令ですか。慣れない艦では色々と問題があると思われますが。何より宇宙での艦隊行動には、正直まだ慣れておりません」

 単純な艦を運航するだけなら問題ないが、戦闘能力としての艦隊となると別問題となる。

「ああ、分かっているよ。君には三日後に試験航海を兼ねた地球と月の周回訓練を行って欲しい。人事の件は何とか見直すつもりだ。その間に、あの艦をなんとか扱えるようにしてくれると助かる」

「最善を尽くします。その途中でアメリカ艦隊との合同演習ですね? しかし本気ですか? 艦に不慣れな状況で演習などしても、効果が出ないばかりか、むしろ士気が落ちる原因になるかと」

 むしろこの時期に艦隊演習など何を考えているのか。

「分かっている。しかし時間がないと私も言われているのだ。今はそれしか言えない。私も全ては知らされていない。それでも時間がないことだけは覚悟してくれ」

 それにしても時間がなさ過ぎる。もう少し時間さえあれば……。

「乗員は今のあまぎのをそのまま使うといい。新たな補充人員も続々来ている。多少練度不足はあるかも知れないが、無いよりは良いだろう」

「前回お話ししたとおり太田百合少将は、そのままあまぎに艦長として残します。彼女なら新人も上手くコントロール出来るはずです。慣れた者が一人でも多くいた方が良いですから」

「そうだな。慣れた者が一人でもいれば、だいぶ違うだろう。その辺は君に任せるよ」

 彼女には色々負担をかけてしまうと思うが、この際仕方がないだろう。それに、それだけの力量はあるはず。

「艦の正式な引き渡しは明日になる。他の艦も同様だ。引き渡しの式典などは一切無い。まあ、国民にはこの計画自体が秘密だったからな。そうそう、もう一つある。改あまぎ型八隻が、三週間後には完成する。主砲は六三式荷電粒子砲。ただしレーザー砲は省略されている二型だ。基本的には主砲を置き換え、エンジンもやまぎ型と同一にしただけだ。外見上はほとんど変わらない。こちらは艦長を除いて新人で運行させる。あまぎ型よりもコンピュータ化が進んだ艦だ。正直不安はあるが、数は揃えたい」

 機械に頼りすぎるのもどうかとは思うが、今は人がいないので仕方がないとも言える。

「分かりました。しかし新型艦も民間船にいずれ見つかりますよ。今はドックの中ですから大丈夫でしょうが」

 すでに一部の写真家に、僅かながらその姿は捉えられている。しかし、我々は公式発表を何もしていない。いや、我々だって何も知らないに等しい。

「それは分かっているよ。その時にでも発表すればいい。別に機密情報を公開しないことは、どこも、そして今までも行っていることだ」

 まあ、確かにその通り。

 しかもここは宇宙。地上から見つけ出すのは簡単ではない。少なくとも、衛星軌道からはだいぶ離れている。高性能の望遠鏡でもない限り、直接見る事は難しいだろうし、衛星と違って一定の軌道にいる訳でもない。

 宇宙からの観測はどうしようもないが、それは今に始まったことでもない。

「分かりました。では、私も色々と準備をしなければなりませんね。あの惑星と黒い物体以外は、明日以降公開してもよろしいのですよね。他に何か隠されている事はありませんか」

 出来れば、これ以上の仕事は止めて欲しいくらいだ。

「ここに資料は全て用意した。君の判断で公開してくれ。しかし、自衛軍関係者以外へは厳禁だ。家族への公表も禁ずる。君が行動しやすいようにしてくれれば、私は何も言うつもりはないよ。現場を取り仕切っているのは君で、私ではないからな。そして今は平時とはどうしても思えない。全ての責任は私が負う。そこは心配しないで欲しい」

 立ち上がると、敬礼をする。

「では、失礼いたします。我々で出来ることがあれば、何でもやってみますよ」

「君には期待している。何せ『台湾の守護神』とさえ呼ばれた君だからな。よろしく頼む」

 敬礼を終えると、会議室を後にした。

 『台湾の守護神』か……確かにあの時は色々な事があったが、今もその全貌は明らかにされていない。少なくとも私を含めて関係者が全員死ぬまで明らかにはならないだろう。

 さて、正直どこまでやれるのか。正体不明の相手。当然相手の武器も分からない。

 手元にある黒い鍵付きアタッシュケースには、引き渡し予定の艦の性能諸元や、新しく入ってくる航宙自衛官の資料などが入っている。

 自衛官の資料は部下に任せるとして、新しい艦の詳しい性能を見るのは初めてだ。出来るだけ今日中に目を通しておきたい。もちろん新しい艦への配属は考えなければならないが、人数が少ないのでそう困らないだろう。

 本来は人事部の仕事だが、航宙自衛軍は人事部も不足している。不足してばかりで、揃っているのは艦だけ。

 そんな事を考えながら、長い廊下を歩いて行く。長いと言っても、カーブしているので遠くまでは見通すことは出来ない。まあ、ステーションの構造を考えれば仕方がないだろう。比較的長い廊下と言えば、こことドックや宇宙港を繋ぐ回廊だけだ。ただし、こちらは隔壁が各所にあるので、見通しは悪い。

 元々上級士官用の区画だから人通りはない。ほとんどの上級士官は、自分の艦にいるはず。もっと航宙自衛軍に人が集まれば、ここも賑やかになるのかもしれないが、それは当分無理だろう。

 さすがに新しい艦の事は全員が知っているし、どの艦に割り当てられるのかは興味があるはずだ。

 基本的には今の艦長をそのまま新しい艦の艦長にして、副長を今までの艦の艦長にするしかないだろう。多少経験不足は否めないが、こればかりは贅沢も言えない。

 携帯電話を取り出すと、吉村の番号を表示させる。そういえば彼らの身辺調査はどうなっているのだろうか? そんな事が頭をよぎる。何度目かの呼び出しの後、吉村が出た。

「渡辺だ。人事の件で話がある。各艦の艦長および副長を、士官エリアの第二会議室に来るよう伝えてくれ」

 吉村の返事を聞くと電話を切った。集まるまで二十分はかかるだろう。今度は補給部の番号を探す。

「艦隊司令の渡辺だ。石原航宙幕僚長から聞いている、新型艦の諸元表および関係書類一式十五部を、士官エリアの第二会議室に届けて欲しい」

 素早く通話を済ませて、会議室に急ぐ。面倒な一日になりそうだ。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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