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恋ゾンデェトる  作者: がらんどう
8/26

ダブルデート



     8   ダブルデート

  


「冬休みに、私達四人はダブルデートをします。」

 と、彩がポンと手を叩いて言った。僕は、あまりにも唐突なことだったので、箸で掴んでいた唐揚げをポロリと落とした。いきなりどうした、彩。彩は続ける。

「いやー、あんた達の初デートは散々だったじゃない?まあ、仲直りデートはよかったみたいだけども。」

 そう言って、胡子と僕を交互に見た。うん、まあ、あの時間はとても幸せな時間だった。お互いがお互いのことをどう思って付き合っていたか話したし、これまで話していなかった個人的なことも色々話してみたし、お互いに心を開けた気がする。

「まあ、だけども、なんかあんた達を見てると、歯がゆいというかなんというか世話を焼きたくなるのよね。こう………あまりにも進展が遅いっていうかなんというか。」

 まあ確かに、彩の言うとおりである。あの旧校舎での仲直りデート(デートだったんだと思う多分)から、僕たちは、前よりはたくさん話すようになったし、メールのやり取りも頻繁にするようになった。

 けれども、かと言って、恋人同士らしい〈何か〉をしているかといえば微妙なところだ。いや、お互いに、心を開きあって色々話をするだけでも十分かとは思うんだけど。

「なんというかアグレッシブさがないのよ。ココも告白時点ではかなりアグレッシブさがあったってのに、今はないし。あのアグレッシブさはどこにいったのさー!」

 そう言って、彩は胡子の肩を掴み、揺さぶった。胡子は、

「そんなこといってもさあー。やっぱりアレ以上の勇気はなかなかだしにくいんだようー。」

 と、揺さぶられ、ぐわんぐわん体を揺らしながら揺れた声でふわふわと答えた。………可愛い。

「というか、トウヤ。あんたも男のくせに色々アグレッシブさが足りないっての!普通は男のほうからリードするもんでしょ。」

 うっ、確かに。いや、僕だって男である。色々と胡子としたいことも勿論ある。口に出しては言えないが。男児ですし。健常な思春期どまんなかの男児なら色々と妄想することは沢山あるし、実際、実行したいところではあるけれども。ことに及ぶには。タイミングというか雰囲気というかそういうのが大切だし………。現状だと………難しいな………雰囲気作りがなかなか………無理にせっついて、胡子に嫌われるのも嫌だし………。うむむ、と頭をひねりながら僕は答える。

「いや、そのですね、なかなかタイミングといいますか、チャンス的なものがはかりかねていましてね、その、はい………。」

「あれ?オマエ、初デートの時にウヅキさんを押し倒したんじゃあなかったっけ?」

 と、良太が言った。

「押し倒してなんかねーし!」

「押し倒されてなんか無いし!」

 と、僕と胡子が同時に言った。僕と胡子はお互いを見つめた。胡子は赤面している。僕たちは、なんだか恥ずかしくなって、俯いた。僕も胡子も顔が真っ赤だったと思う。

「まあ、それは冗談だ。落ち着け。部屋の外から内部を伺ってたが、そんな様子はなかったしな。」

 あ、良太。ついにちゃんと僕と胡子の初デートを盗み聞きしてたって認めやがった。まあ、彩もだよな。そう思って、僕は彩を見た。彩は、腕を組んで、口を尖らせながら言う。

「むう………あの時のことは謝るっての。………ごめん。でもあんた達二人のことが気になって仕方なくてさ。その辺りは汲んでよねっ。結果としてあの時飛び出していったココをあたしがフォローしたんだからいいじゃない。はいおしまい。」

 か………勝手だ。まあ、でも、正直あの時、胡子が飛び出していった後、彩がフォローをしてくれたのは本当のことだし、それで翌日早々、僕と胡子は仲直りのためのデートが出来たっていう実績があるのは事実だ。そのあたりのことは胡子から聞いていた。だから、まあ、許せなくもないが………。良太は別だ。あれは興味本位だったろう。まあ、今さらどうこう言うのもなんなので、もういいや。

「で、だ。そんな押し倒し事案すら起こせない勇気のないトウヤをなんとかするために、あたしは考えました。それがダブルデートってわけ。」

「じゃじゃーん!」

 と、良太が何かを僕達に差し出した。遊園地のチケットだった。

「盗み聞きの件はコレで勘弁な!な!」

 と、良太がスマンといった感じで、手刀を作り、顔の前に差し出して言った。………まあ今さらいいさ。てか、それなりに罪悪感があったのかと、そのあたりにびっくりだよ、良太。

「遊園地でダブルデートかあ………。」

 僕と胡子はチケットを受け取りじっと眺めた。県外の大きな遊園地のチケットだった。ああ、中等部の時に遠足で行ったなあこの遊園地。

「ま、遊園地デートなら、皆楽しめるし、いいでしょ。どう?」

「どうって………僕はいいけども………ココは………」

 僕は胡子の体が心配だった。修学旅行にも病弱だからと言う理由で、行けなかったわけだし。それに、旧校舎で色々話した際には、急激に感情が高ぶったりして、心臓に負荷がかかると体に異変が怒るって言う話を聞いたし。遊園地なんて、まさに感情の高ぶりを楽しむ場所だし、それによって心臓に負担がかかる場所じゃあないか。もっと静かに楽しめるところのほうがいいんじゃあないかなあ………。

「んー………そうなのよねえ………。ココの体調についてはね、事前にココには話したのよ。ダブルデートをしようと思っているんだけど、何処がいい?ってね。」

 え、既に胡子にはダブルデートの話が行ってたのか。そして、良太もそのことを知っていて遊園地のチケットを用意したってことか。なんだ、知らなかったのは僕だけか。

 ってか、胡子と彩は本当に仲がいいんだなあ。もしかしたら僕と胡子の関係より深いような気もする。ちょっと妬けるね。僕はちょっと拗ねた顔で胡子を見た。胡子は、あはは………と困った顔で笑った。

「で、あたしもそりゃあココの体のことはわかってるから、水族館とかがいいんじゃあないかなあって言ったんだけど、ココがどうしても遊園地がいいっていうのよ。」

 そう言って、彩は胡子を見た。胡子は言う。

「うん、まあ、皆がアタシの体のことを考えてくれているのはわかってて………。それはとてもうれしいんだけど、皆がアタシに気を使いすぎて楽しめないのもなんだかなあって思ってて。」

「水族館とか動物園でも、ショッピングで楽しめるから、あたしはそっちでもぜんぜん大丈夫だけど。」

「うーん………それもそうなんだけど………」

 胡子は少し、言いよどみながら続ける。

「折角、ミキくんが、遊園地のチケットを取ってきてくれたわけだし、それを無駄にするのも悪いかなあって。」

 ん?良太。がチケットを取ってきたのって、彩と共謀してのことじゃあなかったのか?僕がそのことについて尋ねると、良太は、

「あー、このチケットはマジでお前らのデートを盗み聞きしちまった件に関してのお返しのつもりで取ったんだ。まあそんときゃ、すっかりウヅキさんの体のことを忘れててさ………すまぬ。」

「まったく、大事なところで気が利かないのよね、コイツは。」

 そう言って、彩は良太を小突いた。そして続ける。

「まあ、ダブルデートの発案はリョウタなのよ。でもコイツは気が利かないってか、回ってなかったから、ココに負担がかかる遊園地なんて選んじゃってて………。まあ、でも、ダブルデートってのは、なかなかいい案だと思ったから採用したってわけ。」

「いやー、スマン。俺の気が利かないばっかりに。」

「まったくよ。」

「ううん、気にしないで。アタシ、遊園地に行きたかったし。それに、あそこ、ショッピングモールもあるし。色々楽しめると思うんだ。あと、アタシの体の調子も最近はそんなに悪くないし。割りと楽しんじゃえると思うし!」

 そう言って、胡子は両手で拳を作って、グッと正面に掲げた。ガッツポーズも可愛い。

「それにね」

 と、胡子は続ける。

「万が一の事も考えて、今回のデートには、アタシの主治医の一人が付き添ってくれる事になったの。だから大丈夫!」

 主治医の方が来るのかあ。というか主治医が出張ってくるって言うのはかなり異例というか………逆に心配になるけども。

 僕が不安そうな顔をしていると、胡子がポンと僕の肩を叩いて、

「大丈夫、大丈夫!一緒にいい想い出、つくろ。ね?」

 そう言って笑った。………胡子本人がそう言うなら………大丈夫なのかな?自分の体調のことは自分が一番わかっているだろうし。それに、主治医の方が同伴してくれるって話だし。というか既にもう話が決まっているみたいだし。………なんだか、こういう、いつの間にか周りに外堀を既に埋められているってパターンが多いな、僕。

「そうだね、ココが大丈夫だって言うんなら僕が止める理由はないしね。うん、皆で遊園地デートをしよう。」

 僕はそう言って胡子に笑いかけた。胡子は、

「………うん。ありがとう。」

 と答えた。 

 こうして僕たちは、遊園地でダブルデートをすることになった。昼食が終わり、それぞれが自分の席に戻る際、彩が、「ちょっといい?」と、小声で僕に囁いた。

「あの………ココは大丈夫とは言ったけど………結構無理は承知の上で、あたし達に気を使ってああ言ってると思うのよ。だから、あまり無理をしないようにココのことを見ていて欲しいの。勿論、あたしもリョウタも気をつけるけど………」

「うん。わかってる。ココの体のことに関しては、常に気を払うよ。今までもそうしてきたし。」

「なによ?奥手の言い訳かな?トウヤ?」

「そんなんじゃねーし。」 

「あはは。まあ、冗談よ。だけど半分は本気。」

 そう言って、彩は真面目な調子で言う。

「あの子、やっぱり体が弱いから、色々諦めてる面がある感じなのよね。だけど、あの子はあんたに告白するっていう大きなことをしたのよ。その意味はちゃんと理解してあげてね。ココがあれだけの勇気と決断をしたんだから、あんたも奥手だからっつって、あんまりモタモタズルズルしてんじゃあないわよ。女の子はみんな、好きな男の子からの積極的で、劇的なアプローチってのを待ってるんだから。」

 ううむ。そういうものなのか。積極的で、劇的なアプローチかあ………確かに今の僕にはないというか実行したことのないことだなあ。僕は、今の程よくぬるい関係に浸かりきって閉まっているのかもしれない。今の空気感と距離感、とても好きなんだけども。

 ここらで、一つ、次のステップに進むというかそういう劇的な何かをこちらからしていくの事が求められていることなのだなあ。よし、気合を入れないと。僕は、パン、と両頬を叩いて気合を入れた。

「よし。僕もここらで男として気合を入れてデートに望まないとな!」

「まあ、あんまり、気合を入れられても困るってのもあるんだけどね。リョウタなんて………ってああっ!なんでもない!忘れて。」

 そう言って、彩はあたふたしながら自分の席に戻っていった。

 ………なんか、良太は、僕と違って色々アクティブだったんだろうなあ………。その割には僕には彩と付き合っている素振りなんて見せなかったけれども。

 人それぞれ、長く付き合ってても、見せる面と見せない面があるってことかな。僕だって、両親の不和のことは、寮生活になった理由を聞かれるまでは話さなかったし。なんか皆そういうものを沢山持っているんだろう。

 ふと、僕はどれだけ胡子のことをわかっているんだろうと思い始めた。胡子と付き合いたての頃は、なんとなく、その場の流れでOKしてしまった部分もあって、付き合って一ヶ月経っても、お互いのことをよく知らないままだった。それが、原因で、初デートの時は僕がデリカシーのない話をしてしまって、胡子の機嫌を損ねてしまったわけだし。

 その後、僕と胡子は、仲直りデートということで、旧校舎で色々、これまでしてこなかった話をして、確実に距離は近づいたけれども。それでも、まだまだ、僕の知らない胡子がいるんだろうなあとふと思った。

 勿論、僕自身についてもそうだけど。もっと、色々話さなきゃな。自分のことを。そして胡子からも話を聞いて、未来に繋げないとな。そう、思った。

 


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