それから
6 それから
その日の夜、良太から電話が来た。僕が電話を取ると、開口一番、
『オマエ、ウヅキさんを押し倒したりとかしたんじゃねーの?それでウヅキさん泣いて出てったんじゃね?』
と言った。僕が電話にでるなりなんつー濡れ衣をかぶせるんだコイツは。まったく。僕は言う。
「んなわけねーだろ。アホ。ってか人の初デートを盗み聞きしやがってコノヤロウ。」
『ま、だよなー、オマエにそんな度胸があるとは思わないし、あとそんな物音もしなかったしな。まあ、今のは冗談だ。流せ。ってか頭の怪我は大丈夫か?』
「ん、ああ、まあ、ちょっと切っただけだから、無駄に血が出るんだよな、頭の怪我って。」
そう言って僕は頭を擦った。既にかさぶたができ始めている。さして大きな怪我というわけではない。胡子が動揺していたほうが心配だ。
「僕のこととお前らの盗み聞きの件は置いておいて、ココはどうしてる?あれから何か、アヤから話、きてるか?」
『あー、それなー。アヤからそれを伝えるように言われて、電話したんだわ、俺。』
「なんでリョウタに?」
『んー、緩衝材?なんか直接オマエに電話すると、色々問い詰めたくなるからとかなんとか言ってて、まあ簡潔に内容だけ伝えといてくれって言われたんだわ。』
む、彩、相当怒ってるのを抑えている感じか。後が怖いな………。やれやれ困ったなあ、胡子だけでなく、彩の事も色々考えないと………。いや、彩は盗み聞きしてたんだから、それと相殺か。
問題は、胡子だ。僕は、彼女の機嫌を損ねる発言をしてしまった。おそらくそうに違いない。だって、胡子とは会話しかしてないし。体に手を触れても居ないし、良太が冗談で言ったように押し倒すなんて真似はしてないし。失言があったに違いない。それが何かわからないんだけども………。
『あー、もしもし?トウヤ?いいか?』
「あ、悪い、考え事してた。なんでココがいきなり帰っちゃったか考えてて………。」
『それについては、アヤが俺に託した言葉が答えになるだろうな。うむ。オマエ、デリカシーってのがないからなあ………。』
「デリカシー………かあ………。」
なんだろう?まあ自分で気づかない内に失礼なことを言っていたということなんだろうけども。と、良太が、
『んじゃ、言うぞ。アヤからの伝言だ。〈初デートで他の女、しかも恋してたかもなんていう女の話なんてしたらそら怒るわ!乙女心が傷つくわ!反省しろ!このバーカバーカ!〉だそうだ。』
そ、それかー!確かに、僕はあの時、他の女の子の話をした。でも過去のことだし。いや、でもそれでも胡子は初めてのデートという状況で、他の女の子の話をされたのがとてもショックだったってことか。なるほど………ううむ………確かにデリカシーがなかったか、僕。
『現場からは以上です。ってことで用件終わったから切るわ―。じゃあの。』
と、良太はさっさと電話を切ってしまった。
ううむ、盗み聞きの件に関して問い詰めたいところだったんだけども、逃げられた………。いや、それはこの際どうでもいい。問題は胡子のことだ。あんなに泣いてたしなあ………。かなり傷つけちゃったんだろうなあきっと。
ううむ、自分が嫌になる。好きな子のことを、自分が付き合っている子のことを、全くわかってない。付き合って一ヶ月間、僕は何をしてたんだ?趣味の一つでも聞けなかったのか?どういう事が好きで、どういうことが嫌いで、どんなことをしてたのかとか聞くべきだったんだ。初デート云々より、僕の彼女に対する恋人としての姿勢が、態度が良くなかったんだ。
結局、僕は、胡子に声優の宇佐美佳苗の影を重ねて満足していただけなんだ。自分の理想の女性像にそっくりな子に惹かれただけだったんだ………。そして、そんな子が僕のことを好きになってくれて舞い上がってただけだったんだ………。最低だな、僕。
胡子に謝らないと。そして、ちゃんと卯月胡子という女の子に向き合わないと。
僕は、胡子にメールを送ることにした。電話だと、ちょっと緊張してしまうというか、なんというかまた余計なことを言ってしまうような気がして。向こうもメールなら電話より重くないし、気分が乗らなければ、返信しなければいいだけの話だし。………メールを送信した。内容はこうだ。
《今日はごめん。折角の初デートなのに、僕にデリカシーがなかったせいで、胡子を悲しませてしまい、駄目にしてしまった。明日、直接会って謝りたいんだけど………だめかな?返信、待ってる。》
手前勝手なメールだということはわかっている。でも筋は通さないと。返信してくれるかな?胡子………。
しばらくすると、メールの着信音が鳴った。僕は急いで確認する。 胡子からだ。胡子からのメールにはこう書いてあった。
《メール。ありがとう。こちらこそ、今日はごめんね。私、ちょっと情緒不安定になっちゃって………。私も、トウヤくんに直接謝りたい。で、待ち合わせの場所なんだけど………旧校舎がいいな。見て回りたいの。今日話してくれた昔の話を詳しく聞きながら。駄目かな?》
びっくりした。まさか旧校舎を指定してくるとは。僕のデリカシーのない話に出てきたあの場所なのに。しかも、僕が胡子の機嫌を損ねてしまったあの話をまた聞きたいという。胡子は何を考えているんだろうか………。僕にはよくわからないけど………僕には反対する理由というか、拒否する権利なんてない。だから、
《うん、わかった。それじゃあ明日。十二時に旧校舎で待ち合わせでいいかな?》
と、返信した。すると、
《わかった。それと、できるなら、話の中に出てきた教室の中も観たいんだけど、むずかしいかな?》
と、返ってきたので、
《大丈夫。鍵は何とかするよ。》
と、返信した。鍵はなんとかなる。あの図書準備室の作業で校務員のおじさんとはだいぶ仲が良くなっていた。「また、ちょっと先生に頼まれた」と言って、マスターキーを借りれば問題ないだろう。
こうして僕たちは、明日、日曜日に旧校舎で再び会うことになった。




