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恋ゾンデェトる  作者: がらんどう
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アプローチと包囲網と



     3    アプローチと包囲網と



 卯月胡子からの告白の翌日、僕は、友人の三木良太と城戸彩にこの事について、相談する予定だった。とりあえず、良太に相談して、後から彩にも相談に乗ってもらおうと思っていた。昼休みあたりにでも飯を食いながらと思ったのだけど………。

 昼休みのチャイムが鳴る。と、同時に卯月胡子が、

「お昼ごはん、一緒に食べよ♪」

 と、極上スマイルと共にそう言ってやってきたのだ。それも、チャイムが鳴ったと同時に、間髪入れず、だ。

「え、ええっ。まあ、そりゃあいいけど………。」

 僕は口ごもった。いや、突然でびっくりしたのと、すごく笑顔が可愛かったので………。

 いやまあ、今までも、僕達は一緒に昼食を食べたりはしていた。僕と良太が一緒に購買に惣菜パンを買いに行って、だらだらと教室に戻って来がてら、城戸彩と卯月胡子が弁当を食べているところにおじゃまして、良太が、

「どうかこの毎度購買で飯を済ませないといけない哀れな僕らに何かおかずのお恵みを〜。なにとぞなにとぞ〜。」

 と、言って、城戸彩から弁当のおかずをなんとか恵んでもらい、その流れで、一緒に昼食をとるというのはたまにあった。が、決して、向こうから一緒に昼食を食べようなどと誘ってくることはなかった。

 まあ、城戸彩が三木良太を昼食に誘うのはわかる。だって、城戸彩と三木良太は小学生の頃からの幼なじみだし、とっても仲が良い。それ故に良太は、彩の弁当のおかずをねだって獲得することに成功しているわけだし。

 でも、決して友達としての期間が長くない僕に対して、卯月胡子がこうも積極的に一緒に昼食をしようと誘ってくるのは珍しいというか、そんな発想はなかった。というか、友達としての期間はさておいても(実際、卯月胡子と城戸彩は仲がとても良いし)女子から男子に「一緒にお昼ごはんを食べよう♪」と誘うというのはなんというかハーレム系ゲームや漫画やアニメの中の男主人公にしか起き得ないシチュエーションだろう。例えば、声優の宇佐美佳苗さんが出演している作品とか。

 それはともかく、なんて積極的なアプローチなんだ。………アプローチ?そう言えば………。

 ………そうだ、心当たりはある。昨日の告白だ。昨日、卯月胡子は、去り際に、

「返事を待っている間も色々アプローチするから覚悟してね!」

 と、言っていた。つまりこれもそれなのか?僕は訪ねてみた。

「ねえ?これって、昨日言ってた〈アプローチ〉ってやつなのかな?」

「うん!昨日の今日だけど、ハタノ君から良い返事が聞けるように色々頑張らなくっちゃあて思って。早速、誘ってみたんだけど………迷惑だったかな?」

 そう言って、卯月胡子は僕の顔を覗きこんで、上目遣いで言った。………可愛い。

「いっ、いや、そんなことはないよ!」

 僕は思わず机をバンと叩きながら立ち上がり、大きな声でそう答えた。僕の声が教室中に響き渡り、クラスメイトの視線が僕と卯月胡子に集まる。

 ううっ、恥ずかしいな。いや、だって、焦ってしまったのだから仕方がないというか自業自得なのであるけれども。

 クラスメイトの視線に、卯月胡子は余裕の笑顔で返した。僕は「あはははは………」と、照れ笑いで返した。クラスメイトは、「まったく、何やってんだか?あの二人は」といった感じで、視線をしばらく投げた後、それぞれの行動に戻っていった。

 と、三木良太が話しかけてきた。

「おう、トウヤ。購買に飯買いに行こうぜ。」

「ん、ああそうだな。」

 卯月胡子と昼食をとりたいのは山々だが、とりあえず、僕らは購買に惣菜パンを買いに行かないと行けないのだ。早く行かないと目当てのパンが無くなってしまうし。

 と、卯月胡子が、

「あ、購買には行かなくても大丈夫。アタシ、ハタノくんの分のお弁当を作ってきたから。」

「ええっ!?」

 僕と良太はびっくりして顔を見合わせた。えっ、手作り弁当って!それも好きな娘からの!というか告白後、返事を聞くまでに色々アプローチするとは言ってはいたけど、色々とアグレッシブすぎないか?

「女子の手作り弁当って………オマエ………いつのまに………。」

「いや、そのまあ、なんというか僕にもよくわかってないんだけども………。」

 いや、ホントに。付き合ってもいないのにすごい展開だよ。

「はあ………。トウヤはもう俺と購買には行ってくれねえんだな。ヨヨヨ………」

 良太はそう言って、ガックシと肩を落としながら回れ右して僕に背を向けた。と、そこに城戸彩がやってきて、

「何やってんのよ、まったく。」

 と、言い、良太の頭をペシッと叩いた。

「ってー!加減しろよ、加減!」」

「してるじゃない。いつも。」

 この二人は本当に仲がいい。さすが小学生のころからの幼なじみだ。夫婦漫才を見ている気分だ。

「つってもよー、俺、購買に行かにゃ―ならんし。でもトウヤはウヅキさんの手作り弁当があるわけでさ………どう考えてもお呼びでないじゃない?ブロークンハートだよ?」

「ブロークンハートって………お前らホモだったんかい!………まあそれはともかく、ほら。」 

 そう言って、彩は包みを持った手を良太の前に突き出した。

「ほ、ほら。あんたの分。あたしがわざわざ作ってきたんだから感謝しなさいよね。」

「ま、マジで!………ありがたや………ありがたや………」

 そう言って、良太はとっても嬉しそうな顔をして、彩を拝み始めた。

「べっ、別にあんたのためだけにってわけじゃあ無いんだからね。ココがトウヤにお弁当を作りたいって言うから一緒に作っただけで………」

「このお弁当、二人で作ったの?」

 僕が二人に聞いた。

「うん。昨日の夕方、ココから急にメールが来てね。『急なんだけど、ハタノくんにお弁当を作ってあげたいんだけど、アタシ、料理に自信がなくって………。急なお願いなんだけど、一緒に作ってくれない?』ってメールが………」

「わーっ!アヤ!それは言わないでいいって!もう!」

 そう言うと、卯月胡子は顔を真赤にして、両の手を頬にあてがって、俯いた。………可愛い。

 その様子をチラと見て、彩が、

「まあ、別にいいじゃない?本当のことだし。今さらじゃない。」

 と言って、両の手をひらひらとさせた。

 そうなのか。卯月胡子は料理が苦手なのか。やっぱり僕は卯月胡子のことを殆ど知らないに等しい。こんな状態で付き合うなんて果たして良いものやら………うーん………。返事は慎重にすべきだなあやっぱり。とは言え、僕は卯月胡子のことが好きなんだけども。難しいな………。

 などと、僕がウンウン考えていると、良太が、

「まあ、何か知らんけど、アヤとウヅキさんが折角俺達のために、弁当を作ってくれたんだからごちそうになろうぜ。」

 と言った。それもそうだ。折角の女子手作りのお弁当という素晴らしい青春アイテムが目の前に有るのだ。ありがたく頂こう。

 僕たちは机を寄せ合い、大きな机を作って座った。僕の隣には良太が。良太の対面には彩。そして僕の対面には卯月胡子が座った。お弁当を広げる。おお、とても美味しそうだ。そして、とても可愛らしい飾り付けがされている。さすが女の子謹製のお弁当だ。いやはや幸せなり幸せなり………。

「んじゃあ、いっただっきまーす。」

 良太はそう言って弁当にパクついた。僕も頂こう。僕は、卯月胡子の顔を見て、いただきます。と言い、弁当を食べ始めた。うん美味しい。

 と、視線を感じた。卯月胡子の視線だ。僕の感想を心待ちにしている顔だった。僕は、

「とっても美味しいよ、ありがとう。」

 と言った。卯月胡子はそれを聞くと嬉しそうに笑った。

「まあ、ほとんどアヤちゃんが作ったんだけどもね。アタシはほとんど見てただけだったかも。本当にありがとう、アヤちゃん。」

「いいのよ別に。まあ急でびっくりしたけど、彼氏候補の告白待ちだっていうんなら仕方ないって。友人としてサポートするのは当然よ。」

 その言葉を聞いて僕はびっくりした。え、卯月胡子が僕に告白したことを知ってるのか? 

 僕のびっくりした顔を見て、彩はニヤニヤ笑いながら、

「ふふふふ。あたし、昨日の告白のことは、ずっと前からココから相談されてたの。んで、いつ実行するか?とか色々計画を立ててたんだけど………」

 と言い、卯月胡子を見た。卯月胡子は、あはは………。と申し訳無さそうな顔をして笑っている。

「まっさか、昨日相談もなしに実行するとは思わなかったってーの。急でびっくりしたってーの。予定じゃ、十二月のクリスマスくらいがいいって計画練ってたのにっつー。恋心が暴走したかこのこの~!」

 そう言って、彩は卯月胡子を肘で何度かつついた。

「いやーその、まあ、そのことについてはまた申し開きを………。」

「もういいわよ。でもびっくりしたってーの。いきなり夕方になってから、『告白しちゃった』だの『お弁当作りたいから手伝って』だの、急いでくるもんだから………そんな女が寄ってくるような男じゃあないし、急がなくても大丈夫だってーのに。」

「女が寄ってこないだなんて失礼な!」

 僕はもふもふとご飯を口にかきこみながら言った。

「じゃあ、あんた、今までの十七年間の人生の中で、女子に告白されたことってあるわけ?」

「うっ………。それを言われると………」

「ないなー、トウヤくん。中等部ん時の陸上部時代ですら浮いた話はなかったな―。ってかあんときゃストイックすぎて誰も近寄れなかった感が………。」

「うるせーや。オマエだって女子に告白されたことなんて無いくせに。」

 僕は、ハッと笑いながら言った。と、意外な答えが返ってきた。

「あるぜ、告白。一年前に。」

 衝撃だった。知らなかった。まさかこのお調子者でおっちょこちょいで三枚目が似合う我が愛すべき悪友の三木良太に告白する女子がいるとは。いや、さすがに言い過ぎか。でも知らなかったぞ。誰だよ、そんな好きものは。

「あー………あれね、トウヤってーか、皆にはなんとなく言わなくてもいいかなあって思ってたんだけど、告白した相手。あたしだから。」

 二度目の衝撃だった。

「えっ!?アヤとリョウタ?いや、二人共仲がいいのは知ってるけど、なんつーか、そんな恋人みたいな素振りまったくみせてなかったじゃんか!?」

「うーん、まあ、付き合ったからといって、あたし達くらいの付き合いになると、特に変化もないっていうか………長い付き合いだしね。いきなり恋する乙女モードになるってのも変だし、まあ。あたし達はこういうペースでいいかなって?思ってて。別に秘密にしてたわけじゃあないんだけど、まあなんか隠してたみたいな形になっちゃってごめんね!」

「いや、それは別に構わんのだけど………そうか、二人共付き合ってたのか………。」

 まじまじと彩と良太を見る。彩も良太も改めて、付き合っていると僕に告白したせいか照れているようだ。

「や、やだ、そんなまじまじと見ないでよ。はっ、恥ずかしいじゃない!」

 そう言って、彩は続ける。

「あたし達のことはどうでもいいの!それより、トウヤ、ココ、あんた達のことがこれからあるじゃないの!ねえ?ココ?」

「僕達のことって言われても………。」

 卯月胡子に告白されたとはいえ、昨日の今日だし、そんな急かされてもなんというか心の準備というものがあるしっていう………。卯月胡子の方を見る。卯月胡子は僕のことをじっと見ていた。一刻も早く、告白の返事を聞きたいという感じがする。

「………うーん、アタシは、早く、ハタノ君の返事を聞きたいな。我儘でかなり押しかけてるのはわかってるけど………。」

 そう言って、僕から視線を外さない。僕も、卯月胡子から視線が外せなかった。他にも視線を感じる。良太と彩の視線だ。なんというかこう………外堀から埋められている気がしないでもない。ここで、僕が卯月胡子からの告白に対して、なにかネガティブなことを言ったら、ものすごく空気が悪くなる気がする。

 しかし、このまま流されて、卯月胡子の告白を受け止めてイエスと言っていいのか?そうそう簡単に、しかもこんな普段見慣れた教室と見慣れたメンツの前で告白の返事をするってのもなんというか………ロマンティックの欠片もない。

 でも………僕は卯月胡子のことが大好きだし、その気持ちは早々変わることも無いだろうし………うーん………。

「あーもー!何考えてんだよ!オマエは色々考え過ぎなんだよ!考えるより行動!そのほうがいいっての!」

 良太はそう言って立ち上がり、僕の背中をぐいと押した。僕は前のめりになり、卯月胡子との距離が近くなった。と、彩が、

「そうそう、深いことは考えなくてとりあえず付き合えばなんとかなるって!ココは勿論だけど、トウヤ。あんただってココのこと気になってるでしょ?てか好きでしょ?昨日そう言ったらしおじゃない。わかってるんだからね。」

 そう言って、卯月胡子の背中をぐいと押した。

 僕と卯月胡子の顔の距離が極端に近づく。

 卯月胡子の顔は真っ赤に染まっている。僕も恐らくはそうだろう。耳が熱くて仕方ない。

 ううう、恥ずかしい。しかし、ここまでお膳立てされて引くわけにもいかない………。

 僕は意を決して言った。

「ええと、卯月胡子さん。」

「………はい。」

「告白の返事なんですが………。」

「………はい。」

「告白、お受けします。僕で良ければ付き合って下さい。」

「………はい!こちらこそ不束者ですがよろしくお願いいたします!」

 クラス中がざわめいた。そりゃあそうである。昼飯を食べている目の前で、愛の告白がなされたのだから。


 こうして僕らは恋人として付き合うようになったのだった。………もうちょっと、ロマンティックな状況が良かったけれども………。なんともはや………。



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