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恋ゾンデェトる  作者: がらんどう
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おかしな告白


     ●第一部:Lent et douloureux




     1   おかしな告白



「アタシと付き合って下さいっ!ただし、三ヶ月更新だけど………」

 高校二年の九月だった。人生で初めて、告白された。時間は放課後、場所は学園の屋上。九月の空は、まだ夏模様だった。学園生活最高のシチュエーション。僕の青春の輝かしい一ページになるのは間違いないだろう。

 なにせ、〈気になっていた女子からの告白〉である。

 これを最高と言わずになんと言えばいいのだろうか?

 とりあえず、落ち着こう。僕に告白をしてきた彼女の名前は卯月胡子と言う。ついこの間、六月に僕のクラスに編入してきたばかりだ。


 話は六月に遡る。彼女が編入してくる日の朝。僕は、友人の三木良太と話をしていた。昨日聴いたラジオについてだ。そのラジオは、僕の好きな声優である〈宇佐美佳苗〉がパーソナリティを務めている。動画付きのインターネットラジオだ。

 僕は、兎に角、僕は声優の宇佐美佳苗さんのファンだ。彼女は基本的にはアニメのアフレコで活躍をしている人気女性声優さんで、容姿も可愛く美しい。声優雑誌にグラビアやインタビューが載ったりもしている。そして、しゃべりも達者なので、いくつかのラジオのパーソナリティを担当している。兎に角、人気声優さんなのだ。

 僕は中学の頃から宇佐美佳苗さんのファンだった。いや、むしろ恋をしていた。いや今もしているといっても過言ではない。

 初めて宇佐美佳苗さんの存在と声を知ったのは、中学の時のテスト勉強の時だった。僕は、一夜漬けタイプなので、夜遅くまで起きてひたすら暗記なりなんなりをしていた。その時、なんとなくラジオをつけた。暇つぶしというか、勉強のお供は昔からラジオと決っている。

 家に昔からある古い(カセットデッキ付きの!)ラジオを僕は親から拝借していて、チューニングダイヤルをグリグリと回して、何か面白そうな番組がやっていないかと電波を探していた。

 と、ノイズ混じりの中、とても澄んだよく通る声が聞こえてきた。ラジオのノイズに負けないその声はとても魅力的で、興味を惹かれた。どうやら、僕の住んでいる地域のラジオ局ではないらしく、チューニングをしてもノイズは取れなかった。

 でも、その声はノイズに負けず、僕の耳に、心に届いた。思えばこの時、既に恋をしていたのかもしれない。声に恋するなんて変かもしれないけど、運命的な出会いは感じたのだ。

 よくよく、そのラジオを聴いてみると、彼女の名前はウサミカナエであり、声優をやっているということがわかった。初めて彼女の声に遭遇した時は、番組の後半部分とエンディングでのタイトルコールと締めの言葉しかわからなかったけれども、僕はすぐさまノートパソコンを起ち上げ、検索した。

 〈ウサミカナエ 声優 ラジオ〉で検索。

 直ぐにヒットした。漢字で書くと〈宇佐美佳苗〉やはり声優さんだった。そして憶測通り、地方局でのラジオだった。道理で、ノイズが酷かったわけだ。でも彼女の声はとてもよく通り、ラジオのノイズには負けていなかった。

「声優かあ………。すごいな………。」

 僕は思わず声に出して呟いた。テスト勉強はそっちのけで色々検索する。彼女がやっているブログやツイッターも見つけた。ブログのヘッダーを見る。………可愛い。しかも綺麗だ。可愛さのある美人さんだった。そしてあの声か………。僕の胸は高鳴った。

    正直、好みドストライクだったのだ。

 それから、色々検索もしてみて、彼女が他にやっているラジオ番組や、出演アニメなどを知ることとなった。そして、その後、彼女の出演しているラジオを色々聴き、アニメ出演作を見てみたりしていった。

 僕はどんどん彼女   宇佐美佳苗   に惹かれていった。

 さて、〈声優の宇佐美佳苗〉に惹かれたそんな僕だが、僕がオタクか?と問われると難しい。正直、僕はそこまでアニメを観ないし、ラノベもさほど読まない。漫画は読むけども。

 勿論、僕のクラスにはオタクグループがいるけれども、その話はハタから盗み聞きしている限りでも、とても深くニッチで、正直ついていけないレベルだ。僕のスタンスはあくまでたまたま好きになったタレントさんが〈声優〉だったということだけなのだ。

 でも、正直、宇佐美佳苗について色々話したい。かといって、オタクグループに入れるほど僕はどっぷりオタク文化に浸っては居ないし。で、僕は考えた。友人である三木良太にとりあえず薦めて、話し相手になってもらうという寸法だ。

 僕の熱烈な宇佐美佳苗推しアピールと説得工作により、三木良太は陥落し、宇佐美佳苗のファンにさせることに成功した。今では、向こうから宇佐美佳苗の話題を出してくるくらいである。

 そんなこんなで、僕と三木良太は、高校二年の六月、卯月胡子が編入してくるその日も朝から宇佐美佳苗の話をしていたのだ。

 僕と良太は、宇佐美佳苗の載っている声優雑誌のグラビアとインタビュー部分広げて、読んでいた。と、ホームルームの時間を告げるチャイムが鳴った。

「おっと、もうセンセーが来るな」

 と、良太は雑誌をしまった。担任の御厨先生はまだ来ない。今日は割りと遅い気がする。

 少し、教室がざわついてきた後、ガラリと引き戸を開けて御厨先生が入ってきた。一緒に、女子生徒を連れ立って。

 思わず眼を丸くした。その女子生徒は僕の好きな声優である〈宇佐美佳苗〉とそっくりだったからだ。

 思わず、さっき見ていた声優雑誌を引き出しから少し出して見比べる。………そっくりだ。さっと隣の席の良太に目をやる。良太もびっくりしているようだ。僕のクラスのオタクグループの男子たちも、眼を丸くしていた。

 僕の心臓は高鳴った。なにせ、大好きな声優さんにそっくりな、同学年の娘である。びっくりしないほうが無理な話だ。しかも、ついさっきまで宇佐美佳苗さんについて〈如何に宇佐美佳苗さんが可愛く、そして尊敬すべき人で、理想の女性像であるか?〉と、良太と話していたばかりだったのだから。

 そんな宇佐美佳苗さんの容姿にそっくりな編入生がやってきたのである。動揺しないほうがおかしいという話だ。

 なんとか平静を装いつつ、彼女をみやる。眼が合った気がする。いや、気のせいか。クラス中を見やっている感じだ。

 御厨先生が、黒板に大きく〈卯月胡子〉と書いた。そして言う。

「えー、今日からこのクラスに編入してきたウヅキ・ココさんだ。ええと………簡単な自己紹介をしてもらってもいいかな?」

 そう言われて、卯月胡子は自己紹介をした。

「えっと、今日から編入してきたウヅキ・ココです。高二の六月からってのも変な話なんですが………ちょっと病気をしてて、色々調整がつかなくてこんな時期に編入って形になりました!えっと、不束者ですがどうぞよろしくお願いします!」

 とても澄んでハキハキした声だった。宇佐美佳苗さんの声とは違ったけども。と、クラスメイトから、茶々が入る。

「〈不束者ですが〉って、お見合いじゃあ無いんだから固い固い!リラックスリラックス!」

 とのツッコミ。 

「ああっ、ごめんなさいっ!ちょっと緊張しちゃって。改めて不束者ですが………ってあれ?」

 それを聞いて皆笑った。卯月胡子もその様子を見て、両手に頬をあてがって、照れ笑いをしていた。………とても可愛かった。

 クラスメイトのツッコミ通り、確かに固い挨拶だった。緊張してたからかなあ。結構ちょっと天然なのかな?と僕は思った。後、根が真面目な娘なのかなあ?とか思った。

 卯月胡子の自己紹介が終わると、御厨先生が、良太に奥の空き教室から机と椅子を持ってくるようにと言って出席をとり始めた。僕は、

「あ、僕も手伝います。」

 と言って、良太と一緒に空き教室まで机と椅子を取りに行った。

 教室を出て僕らは顔を見合わせた。お互い指をさす。そして言う。

「宇佐美佳苗そっくりだよな?」と。

「いや、あれ、似てるってレベルじゃねーよなあ。そりゃあ、宇佐美佳苗とは歳が違うからその分違いがあって当然だけど、他人の空似ってレベルじゃねーよなあ!すげえびっくりしたわ。」

「そりゃ僕もびっくりしたさ。思わず声が出そうだったよ。」

「なあ?ちょっと、宇佐美佳苗のほうが面長かなあってかんじだけど概ねそのまま宇佐美佳苗を俺らの年代に若返らせたって感じだわ。」

「つか、歳の話するなよ。宇佐美佳苗さんに失礼だろ。」

 ちなみに宇佐美佳苗さんは三十路だ。なので、卯月胡子と同一人物でないことは確かなのだ。ってか歳の話するんじゃあねえ。宇佐美佳苗さんは僕の理想の女性なんだから。

「すまんすまん。でもそんな感じやんけガチな話。ちょっとテンション上がってきたわあ。どうするどうするどうするよ?仲良くなりてえなあ!」

 三木良太は、結構な勢いでまくしたててきた。かなり興奮している。でもそれ以上に僕は

興奮していた。ちょっとサイテーな考え方かも知れないが、自分の理想の女性像を体現している(性格はまだわからないけど)同級生が出来たのだ。声優の宇佐美佳苗さんは手の届かない存在だけど、卯月胡子は手の届く存在だ。何とか仲良くなれないものか。

 僕の考えを察したのか、良太はニヤリと笑い、ポンと、僕の肩を叩いた。

「頑張れ、悪友よ。その最初の手伝いをしてやろう。恩に着るが良い。」

 そう言い、机と椅子を運んできた後、御厨先生に、

「あー、センセー。席はどこでもいいっすよね。てか俺、後ろの席がいいんすよ。なのでウヅキココさんには今の俺の席を使ってもらうってことで。人数も奇数だし、教科書を見せてもらう奴が必要だろうし。イイッスよね?」

 なんと!思わず僕は手を滑らせ、運んでいた机を落とした。斜めになった机から椅子がずり落ち、椅子の足が頭にゴンと当たった。

「っつー!」

 クラス中が大笑いが起こった。ああ、かっこわりい。いや、だって、卯月胡子が隣の席になるなんて思っても見なかったから。ってか予め言っといてくれよ、良太!

 三木良太の申し出を御厨先生は了承した。

「ま、いいだろ。オマエの言うとおり教科書も誰かに見せてもらわにゃならんしな。気が利くなミキ。」

「へへっ、それほどでもないっすよ!」

 そう言って僕を見る三木良太。うむ。恩に着るぜ、悪友。

 僕たちは三木良太の机と卯月胡子の机を入れ替え終わり、ようやく、卯月胡子が座れるようになった。

「じゃあ、ウヅキはハタノの横な。」

 御厨先生がそういうと、卯月胡子が近づいてきた。うわ、ドキドキする。ああ、でも平静を装わなければ………。第一印象が大事だ。ってあれか、僕の第一印象って、さっきの椅子に頭をぶつけたアレじゃあないか………。

 などと考えていると、卯月胡子が隣の席に座った。そして、僕の顔を覗き込むようにして、

「頭。大丈夫?結構大きな音がしたけど。」

 と言った。僕は、大丈夫大丈夫と精一杯笑ってみせた。あ、やっぱり可愛いな、卯月胡子。ちょっと僕はニヤついてしまったかもしれないな。うーん。兎に角僕は自己紹介をした。

「ハタノ・トウヤです。よろしく。」

「改めまして、ウヅキ・ココです。よろしくお願いします。」

 そう言って卯月胡子は笑った。その笑顔は、やはり宇佐美佳苗さんに似ていて、いや、ソレ以上に魅力的で、僕はニヤつきそうな顔をどうにか抑えるのに必死だった。

 ホームルームが終わると、女子たちが一斉に卯月胡子の周りに集まってきた。僕は女子の群れに気圧され、席を奪われ、その場を追われた。手持ち無沙汰な僕に、良太が話しかけてきた。

「いやー、女子すげえな。さすがに俺でもあの中にはいづれえわ。仕方ないね。」

 そう言って、良太は僕の肩を叩いた。僕と良太は、女子に囲まれ色々話をしている卯月胡子を遠巻きに見ていた。


 それが卯月胡子との出会いだった。

 その卯月胡子が今、僕に告白をしている。付き合って下さいと。ヤバイ。心臓が爆爆する。そりゃ勿論気分的にはOKなんだけど少し気になる言葉を聞いたような………。そうだ、アレだ。

「あの………君の告白はすごく嬉しいし、良い返事が出来そうなんだけど………その、最期に言った言葉………〈三ヶ月更新〉っていうのは………?」

 そう、〈三ヶ月更新〉という意味不明な条件が気になったのだった。


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