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どーなっつハート!【プロトタイプ】  作者: 空伏空人
元親友と再会の日。
21/23

一緒に死んで、一緒に天国に行って

維月の目がなくなりました。

 長い長い、階段を駆け上がって、屋上に通じるドアを開くと、維月が目を抑えて、天を仰いで、まるで獣のように叫んでいました。

 それを眺める穂村は、胸を抑えて、苦しそうな顔をしているものの、勝ち誇った顔をしてます。


 維月の手の隙間から、赤い鮮血が、流れてます。

 目の近くをケガしたからなんだろうけど、それにしては、血の量が夥しすぎるといいますか、尋常ではないといいますか、手の内からあふれ出るように、まるで噴水のように流れています。

 足下には粉々になった仮面の破片が、血溜まりの上に浮かんでいて、もうとっくに、致死量は越えているようでした。


「ああアアあぁぁァがあああぁぁぁ!!」

 喚きながら維月は、目から手を離しました。

 その手のひらは血でべっとりと濡れていて、手と目の間を糸みたいに繋いでいます。

 その糸の先──本来なら、あの黒く濁った、正気のない目があるはずなのですが──なにもありませんでした。


 空っぽ。

 眉から鼻の根本までがごっそりと、抉られて綺麗さっぱりと、無くなっていました。

 その洞穴の深さは丁度、眼球一つを、抉りだせるぐらいで──。


「だから言っただろうが……」

 せつなが一人、戦々恐々としていると、穂村が胸を抑えて、血反吐を吐き捨てながら、そう言いました。

 口からは一筋の血が流れていますが、特に大きなケガは見受けられません。

 攻めていたはずの維月の方が大ケガとは、一体全体、どういうことなの?


「俺の能力『武器人間ウェポンズ・ラバー』は、武器に愛される能力だって……ピンチになれば武器が助けてくれる。それが例え、既存の武器だろうと──何年も使われずに、潮風にさらされていた大型機関銃だろうがな」

 あ、そうか。さっきの轟音。

 どこかで聞いたことある音だなー。と思ってたけど、大型機関銃がデモンストレーションで銃弾を放った時の、あの轟音だ。

 ということは、維月はあの銃弾──砲弾に近いあの弾に撃たれたと言うことで……。


「それでも、ギリギリで避けた辺り、さすが上位七名様。というべきなのかなっ」

 目を失った痛みでか、叫び続ける維月を、穂村は蹴飛ばします。

 見えないから、避けようがない維月は蹴りに耐えることもなく、なされるがまま、吹っ飛んで床を転がって、落下防止用のフェンスにぶつかりました。


「いって……」

 体中に行き渡る痺れに、維月はそう声を漏らしました。

 穂村はそんな維月をみて、鼻で笑うと、銃を取り出しました。

 銃に詳しくないせつなでも、あれはマシンガンなのだな、と分かる形状のマシンガンです。


「……維月逃げて!!」

「小坂井……?」

 せつなは咄嗟に、声をあげました。それに気づいた維月がむくりと立ち上がったのとほぼ同時に。


「これでお仕舞い。仕事一つ目、完遂だ」

 穂村がマシンガンの引き金を、引いた。

 穂村が狙ったのは、もちろん維月──ではなく、寄りかかっている落下防止用のフェンス。


 撃ち出された銃弾は一つとして外れることなく、フェンスに命中。

 維月を囲うように打ち抜かれたフェンスは円形に切り取られて、その中心で体重を預けていた維月の体は外──つまり、高い高い、二十階以上はあるビルの屋上から外に追い出されて──。


「だめ……っ!!」

 それを見たせつなは、考えるよりも先に、走り出していて、伸びた腕を、ギリギリで掴むことに成功しました。


 もしも、これが映画やドラマといったフィクションならば、せつなは、屋上から必死に手を伸ばして維月の体を支える図が完成しそうなものですが、現実はそう甘くありません。


 維月は目を失ったショック──は、ないから多分痛みで気絶していました。

 そのため、維月の全体重がせつなの右腕にのしかかります。

 せつなの右腕は、維月や穂村みたいに筋力補正なんてされていない、か弱い女子の細腕です。


 包丁以上の重いものをあんまり持ったことがない、たおやかな腕は、維月の重みを支えるという、激しい運動に耐えきれず、肉離れを起こした上で、肘と肩からなんだか変な音がしました。

 脱臼でもしたのかな?

 とにかく、せつなの体も、腕もそんな重みに耐えきれるはずもなく、二人揃って、屋上からの自由落下を刊行したのでした。


「…………!!」

 下からやってくる風というか、空気の壁が襲いかかってきて、髪が、体が空高く舞おうとしているように勘違いしてしまいかねないですけど。

 実際。

 上に飛んでいるわけもなく、重力に沿って落下しているだけなのです。


 ですから維月とせつなは今現在、少し高めのビルから飛び降り中という訳で。

 落下終了。つまり、地面にぐちゃりと叩きつけられるまで、後六秒あったらいい方かな?


 せつなの脳味噌が、今まででないぐらい高速回転。

 体感時間がゆっくりゆっくり、遅く遅くなっていきます。

 まずなにをするべき?

 死ぬまでの準備ではなく、生きるためにはまずなにをするべき?


 まずは維月を復活させる。

 それが最優先事項なのは間違いありません。維月の能力は、 気力の続く限り、意識が保つ限り、痛みに耐える限り、身体能力を強化できる能力です。


 維月がどうして、あんなにボロボロの姿で立てていたのかといえば、きっと能力で、本来立つこともままならない体をムリヤリ立たせていたんだと思います。

 しかし、維月は今意識が途切れてます。保てていません。


 ということは、能力による補助が無くなった──言うなれば、延命処置をしていた機械の電源が切れたようなもので、このまま置いておいても、百害あって一利なしです。


 しかし、いかんせん時間がありません。

 確かに脳味噌が高速回転していて、体感時間がゆっくりになっていても、実際の時間が遅くなったと言うわけでもなく、ぶつかるまでもう五秒もないでしょう。


 時間的に戻せる場所は、一つと考えた方がいいでしょう。

 一つ、一ヶ所。

 戻せるとしたら……!!

 せつなは風圧に圧されながらも両手を伸ばして、維月の頭を挟むように手を添えます。


 一ヶ所だけ戻して治すことが出来るのなら、ここしかない!

 頭を淡い光が包み込む。

 いつもの薄い色ではなく、濃くて、濃密度な光。

 人一人の全ての記憶を戻す量の光を一ヶ所に集めて、維月が目覚めるまで、当て続けます。

 体から力という力が無くなっていくのを感じます。体がさっきまで以上に、空を飛ぼうとしているのを、維月の体にしがみついて防ぎます。


 維月は未だに、目覚めません。

 地面に激突するまで、残り三秒ほど。

「……!!」

 もうダメっ!!

 せつなは目を閉じて、維月に強くしがみつきました。

 維月とせつなは、勢いよく地面に激突して、まるでザクロのように体が弾けて中身がぶちまけられて、きっと無理心中のカップルとして──は流石にムリですかね?

 あそこまで大きく喧嘩していたのだから、負けて突き落とされたと考えられるのが妥当かな。

 ああ、死ぬのは確かに怖いけど維月の一緒に死ねるのなら、それはそれで幸せと言いますか、特に怖いという気持ちも無くなってきました。

 でも維月はどう思うんだろう。一緒に死んで、一緒に天国に行って、維月はなんて言うんだろう。

『助けろよ!!』『まだ頑張れただろ!!』とか言われそう。けど、結局自分の死をあっさり受け入れそうですね。自分の生死には、結構無頓着ですからね。

 結局、維月は自分が死んだのを受け入れて、せつなと一緒に天国で暮らしてくれるはずです。あれ、そう考えたら死んだ方が幸せなんじゃ?

 あの邪魔くさい、委員長様もいない訳ですし。

 ……。

 …………。

 三秒が長い。

 もしかして、もう既に激突していて、まだせつなはせつなの死に気づいていないとか?


 ……。恐る恐る、瞑っていた目を開きます。

 地面が遠くに見えます。

 体には覚えのある浮遊感。

 つまりまだ、せつなは空中にいるということです。


 目測を見誤ったのかと思いましたが、それにしては、全然地面が近づきませんね。

 というか、お腹の辺りが圧迫感に苛まれてます。お腹を見てみると、誰かの腕がせつなの腹に手を通していました。


 まあ、誰か、と言いましたが、今この状態で、せつなの近くにいるのは一人しかいないんですが。

 せつなは首を回して、見上げます。

 維月が腕をぴんと伸ばして、壁に指を食い込ませて壁にしがみついていました。


 ***


「あー死ぬかと思った。起きてみたら絶賛落下中なんて、誰が想像するよ」

「……お、お疲れ……さま」

「どーした? なんか疲れてるっぽいけど」

「の、能力を……つ、使いすぎた、から……負荷リスクで……」

「あー、なるほど。お疲れさん、おかげで助かった」

「……♪」

 手探りでせつなの頭を探して、維月は頭を撫でてくれました。

 その後、壁を蹴破ってビルの中に侵入した維月とせつなは、少し休んでいる所です。


 どうやらここは、テナントビルとかそう言ったものではなく、高層マンションのようで、せつな達は、誰かの部屋の居間に立っています。

 住人は見当たりません。最初の揺れで、さっさと避難したのでしょう。

 そうであって欲しいです。


 部屋の中は、維月と穂村が争った形跡か、散らかりたい放題で、見回すと、天井に大きな穴が空いていたり、銃弾の跡があったり、刀が落っこちていたりと、まるで戦争があったかのような有様です。


「さて、なんとか助かったものの、一体全体、どうしたものかねー」

 維月は目が見えないから困ったような顔──もすることなく、目がない。という所以外はいつも通りの顔をしています。いえ、若干痛みで歪んでいるでしょうか。

 とにかく、いつも通りの顔です。緊張も困った様子もありません。


 こういった時こそ、演技でもいいから目を失ったショックをみせてほしい所なのですが、まあ、大方「小坂井がいるし、治せるからそこまでショックじゃないよな」とでも考えているのでしょう。

 普通、治せるからといっても、ショックは隠せないと思うのですが。

 それがまあ、彼の短所であり、長所でもあるのでいいのですけどね。


「それで今、どこにいるんだ?」

「ビルの何階か……」

「まあ、分かるわけないよなー。高さ的には、十何階辺りだとは思うけど……」

 維月は窓ガラスの破片とか全く気にとめずに、その上に座りました。


「まあとにかく、相手と距離がとれたし、少しは休めるかな……」

「死んだと勘違いされたら……嬉しい、けど」

「下に死体がない時点で、気づくだろうな、大方、上から順々に部屋の中を探し回るだろ」

「かな……」

 相手がどう動くなんて、想像もできないせつなは、維月の意見に素っ気なく返すことしか出来ず、なんとなく、視線を逸らしてこの部屋に入ってきた時に空けた穴を見ます。


 丁度、穂村がこちらに向けて銃口を向けている所でした。

「……え?」

 また別の、素っ頓狂な声。

 いや、まさか。

 てっきり上から階段なり、空いている穴からなりで、降りてくるとばかり思っていたら、穂村も維月とせつなと同じように、飛び降りてきました。

 違う点があるとすれば、腰にはちゃんと命綱がある事。

 それと、その手に銃を持っていることでしょうか。

 二つの筒。

 右手に一つ。

 左手に一つ。

 その大きな銃口を、維月とせつなに向けていました。


「維月ッ!!」

「ん、どした?」

 せつながそう、維月に言った直後、穂村は引き金を引きました。

 その大きなつつのような──事実、つつから飛び出した幾つもの丸い弾。

 それが爆弾だと気づいたのは、その内の一つが爆発したその直後でした。


「──ッ!!」

 音に気づいた維月がせつなの腕を掴んで、体で包み込むようにせつなを包みます。

 直後。

 爆発。

 何個も、何十個もの爆発音が上下前後左右からして、その衝撃だけで危うく気を失いかねます。

 暫くして、もう音が音として認識できまくなったぐらいに、維月はせつなを開放しました。


「──ッッッぷはっ!!」

 どうやら維月は、口を閉じて耳を使えなくしていたらしく、耳が聞こえなくなったりはしていないようです。

「ったく、やりたい放題だなくそが」

 維月はふらりふらりと、体を揺らしながら、返します。

 心底疲れ果てているようでした。


「……来ないね」

「さっきの爆発で視界も悪くなってるだろうからな、見えないのに攻撃するアホがいるか……今の内に目を治せないか?」

「ムリ……疲れた……」

 本来なら、意識の回復には結構な時間と労力を費やすものを、今の一瞬に詰め込んで短縮したので、正直言うと、疲れきっています。床が窓ガラスの破片だらけじゃなかったら、へたり込んで、横になりたいぐらいです。

 維月は「そーか」とあっさりと返して、その背後では手の内に収まらない、服の裾まで埋め尽くす量の刀を両手に備えて、穂村が維月の首めがけて振るっている所で──。

「維月しゃがんでッ!!」

「ッッッ!?」

 横凪ぎに振るわれた大量の刀を、維月はギリギリ、尻餅をつくみたいにしゃがんでかわしたら、穂村は舌打ちして、今度はもう片方の腕を振るって、維月の頭上から、大量の刀のきっさきを振り下ろしてきます。

「上ッ!!」

「りょーかい!」

 大声を張り上げて、維月に危険を伝えます。


 維月は尻餅の勢いを利用して、後ろにぐるりと回って、それを回避します。刀の鋒は床にぶつかって耳に優しくない、かん高い音をならします。

  維月は後転の状態から体勢を立て直そうとすると鋒が丁度、顔に空いている溝の前に──。

「顔の前ッ!!」

「おおおっ!?」

 維月はとっさに、曲げていた脚を一気に伸ばして後ろに跳んでそれをギリギリ回避しました。空中で体を捻って体勢を整えて維月は、せつなの隣に着地します。


「サンキュー、小坂井。助かった」

「どういたしまして……」

「そしてここで作戦を思いついたのだけど、いいか?」

「作戦……?」

 なんでしょう。逃げる? 逃走? 脱兎の如く走る? 敵に背を向けて走る?


「全部逃げるじゃねーか。どんだけ僕は弱虫なんだよ……」

「……?」

 維月はそうボヤきますが、維月は結構逃げているような気も……敵からも、味方からも、人生からも。


「ちょっと上手い事言うなよ。逃げてねーよ……多分」

 そう言う維月の声は、少し自信がなさそうでした。

 せつなは知ってますよ?

 部屋の壁に『越えられない壁を見つけたら、避ければいい。ぶつかっていけ。なんて言う奴は、壁にぶつかり続けてミンチになればいい』とか書かれた紙が貼ってあること。

 逃げてばかりじゃあ、なにも始まりませんよ? まあ、せつなも人のこと言えませんけど。

「そうじゃなくて、つまりだ」

 維月は目があった溝を指さして、いつも通りの口調で言います。


「目の代わりをしてくれ」

「え……?」

「今の感じでいい。聴覚で、相手の位置とかはなんとなく分かるから、相手の攻撃とかを教えてくれ、頼む」


「……」

 それって、メチャクチャ大変な事じゃないですか? タイミングを間違えたら……。

「逃げた方が……いい」

「いや、逃げてもいいんだけどさ──」

 維月は首を曲げて、口をへの字に歪めます。その先では丁度ガチャガチャ、刀の束の調子を確かめている穂村の姿があります。


「──今ぶん殴らないと、気が済まなくて、スッキリしない。モヤモヤする」

「……」

 なんていう理由ですか。

 もっとカッコイい理由を言って欲しかったです。


「だから頼んだ!!」

 そう言うと、維月は穂村さんのいる方へ、跳躍しました。穂村はそれを見て、見ようによっては、鉤爪に見えなくもない刀の束を振るいます。

「維月、しゃがんで……!!」

「はいよ!」

 せつなの声に合わせて、維月はギリギリ、薄皮一枚で束を避けて穂村の鳩尾に一発。『鬼力』によって、極限までに強化された拳が、穂村の鳩尾を捉えます。


「──ぐふっ!?」

「よう、見つけたぞ?」

 下から上へ、抉るようなアッパーカットは、穂村の鳩尾に喰い込み、彼の体をくの字に折り曲げて弾き飛ばそうとしますが、それを押し止めるように、押し返すように、維月は体を大きく捻って、今度は大降りに、上から下へ拳骨を振り下ろします。


「ッらあ!!」

「ぎがっ!?」

 浮き上がっていた穂村の体は地面に逆戻り。地面に叩きつけられた穂村は、うめき声をあげて勢い余って、跳ね上がってきたところを、狙い澄ましたように、まるで見えているかのように、下から上へ、もう一度アッパーカット。

 拳の形に沿って穂村の顔は歪み、辺りに鼻血を円上に撒き散らしながら、彼の体は転がっていきました。


「っく、ミョルニル!!」

 穂村は体を起きあがらせて、立ちくらみする頭を抑えながら、手に持った柄の異常に短い鎚を振るいました。

 ミョルニル……と言えば、北欧神話に登場する神様の武器、でしたね。

 名は「粉砕するもの」を意味し、思う存分に打ちつけても壊れることなく、自在に大きさを変える事も出来たという。

 空想の武器もだせると言っていましたが、神話の武器も出せるとは、想像以上です。


 穂村はそれを、極限まで、維月を覆ってもおつりが出るぐらい大きく、長く伸ばして、それをふりおろしました。

 重力という頼もしい力も加わったウォーハンマーは、轟ッ、と風を切り裂きながら維月に襲いかかります。

「維月、頭……ッ!!」

「分かりましたっと!」

 維月は靴底でブレーキをかけて、ストップ。

 体をぐりんと回転させて、思う存分に打ちつけても壊れることないウォーハンマーを殴って──破壊した。

 バラバラと、元神器現残骸が、地面に落ちていく。


「……は?」

 まさか壊されるとは思っていなかったのか放心状態に近い穂村を前に維月は、体をほぐしてから、もう一度走りだしました。

 ピンチに気づいた穂村はハッとした表情で咄嗟に拳銃を二丁取り出して、構えました──が。


「維月ッ……!」

「分かってるって!」

 構えきるよりも先に、維月は穂村の眼前まで迫り、拳銃を持つ手元を蹴りました。手元から離れた拳銃が、回転しながら四隅まで滑っていきます。


「なっ!?」

「逃げなくていいのか? そこは僕の間合いだぞ?」

 維月は指をわきわきと動かしながら、穂村を見下ろします。

 一方、穂村はといえば、頬に冷や汗を垂らしているものの、どうしてか、その表情から余裕が拭えきれていません。


「お前こそ、逃げなくてもいいのか? まさか、俺の能力、忘れた訳じゃあないよな?」

 そうでした。

 穂村の能力──確か『武器人間ウェポンズ・ラバー』とか言うものは、武器に愛される能力。

 穂村を深く傷つけようものなら、またあの大型機関銃が維月を狙ってきます。

 さっきはギリギリ掠りながらも避けれたけれど、もう一度避けられるとは限りません。

 次こそは、脳味噌をぶちまける羽目になるかも、しれません。

 それに気づいたのでしょう。

 維月は、握っていた拳を──緩めることなく、むしろ力強く握り締めました。


「なっ!? 話を聞いてないのかお前はっ!?」

「もしもだ」

 維月は言います。

 坦々と、端的に言います。

「もしも、自動反撃の能力があるのなら、どうして今の今まで僕は撃たれていない?」

「──っ!」

「どうしてお前を何回も殴っている僕は機関銃に攻撃されなかった? 自動反撃の能力があるとすれば、僕は三回四回、あの銃弾に撃たれてないとおかしいだろ」

 力強い声でした。

 自分の言い分に、間違いはない。と言いたげな声色です。


「だから僕は、自動反撃はないと、勝手に決め付けた」

「……」

 それに対し、穂村は少し黙った後。

「でもお前、目を抉られたときに聞いた轟音はどう言うつもりだ?」

 と、返しました。

 確かにあの音はデモンストレーションのときに街中に響いた、あの轟音で間違いないはずです。


 しかし維月は、それを鼻で笑って。

「あんなもん、覚えてるわけ無いだろ。聞き間違いだろ」

 なんて言いのけました。

 そして最後に。

 締めの一押しと言わんばかりに、維月は言います。


「どーして武器に愛されているはずのお前を、助けようとしたのが、六基ある内の一基だけなんだ?」

「どうしてだろうなぁ!!」

 維月とせつなの間、ほんの少しの隙間に、機関銃が現れました。

 さっきの轟音も納得できる大型の機関銃です。

 それが、維月の後頭部に銃口をつきつけた状態で、現れました。

 現れて、すぐ、撃った。

 維月に忠告する暇もなく、轟音は部屋の中を震わせて、銃弾は維月の頭を貫いて穂村の顔に当たった──。


「え?」

「ほら、やっぱり違っただろ?」

 ──ように見えました。

  銃弾が届くよりも先に、轟音が部屋を震わすよりも先に、維月は体を屈ませて、その軌道から逃げていました。


「これでお仕舞いだ。超能力者!!」

「ちっっくしょう!!」

 思いっきり振りかぶって、振るわれる拳。

 穂村はそれから逃げるように、咄嗟に拳銃を取り出して──。

 銃声。

 ぱん。ぱん。

  と、乾いた音。

 お腹と胸がなんだか、熱い。燃えるように、熱い。

 痛い。激痛いたい。苦痛いたい。心痛いたい……。


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