「……せつな達は関係ない」
連れ去られちゃったヒロイン、小坂井さん視点でお送りします。
今は一体、何時頃なんだろう。
維月が威風堂々と格好良く広場に向かったのが、十一時半で、下からなんだか、トラックで人を轢いて撥ねたような音がしたのが丁度十二時。
その後少し経って、穂村なんちゃらがやってきたから……十二時半ぐらい?
よい子は寝る時間ですね。夜更かしは美容の大敵と言いますし、さっさと維月と一緒に布団の中に這入って、すーすー寝息をたてたいところですが、今日はできそうにもありません。
なぜかと聞かれれば、せつなは今現在、さらわれてるからです。
マ○オで言うとピ○チ姫ですね。
「……!!」
「大人しくしてろ。騒ぐな、折るぞ」
言うなればク○パ的ポジションの穂村は、せつなの腕を強く握ったまま、そう言います。
必死にもがいて、逃げようとしているのですが、ビクともしません。
さすが超能力者といいますか、身体能力強化は伊達じゃありません。
現在、せつなと穂村は、人通りの多い大通りを歩いています。
色とりどりのネオンが暗い夜を照らし、まるで真昼のような明るさです。よい子は寝る時間ですが、悪い子はまだ起きているらしく、周りを見渡せば子供の姿もちらほらと見受けられます。
逃げようとする女の子を連れ回す。
それだけを切り取ってみてみると、中々どうして犯罪の臭いがしなくもないと思うのですが、しかし、連れ回しているのが、童顔の少年であるせいか、そこまで犯罪臭はしません。
しかし、お仕事で徘徊しているおまわりさんは目を反らすことなく、せつな達に職質をかけた。
「きみたち、未成年だろ。こんな時間になにしてんの?」
大した威圧感もない、若年のひ弱そうな人です。
でも、優しそうな人です。きっと困ってる人を助けたくて、このお仕事を選んだのでしょう。
そんな青年を前に穂村は、せつなには見せたことのない、人の良さそうな笑みを浮かべてこう返しました。
「すいません。妹が家から飛び出して、それを追いかけていた所だったんですよ」
妹って……。全然似てないじゃないですか。
髪の色なんて、青と茶色(一部赤)ですよ?
というか、顔つきからして、背丈からしてあなたの方が弟でしょう。
「妹? へえ、兄妹揃ってるなんて珍しいね」
……信じちゃうんですか。人が良すぎるでしょう。
「はい、兄妹揃って巻き込まれちゃって、両親は暴走に巻き込まれて、死んでしまいました。だから、こいつが俺の唯一の家族なんです」
「そうか……。俺が言うのもなんだか変だが、若いのに大変だな。お嬢ちゃん、お兄ちゃんを困らせちゃダメだぞ?」
青年は、せつなの目線に合わせるように、少ししゃがんで言いました。
「…………」
せつなは、顔を背けます。
「ありゃ?」
「すいません。妹はちょっと人見知りで」
「ああ、そりゃ悪いことをした。危ないから早く帰るんだよ」
「分かりました、ほらいくよ」
小坂井の腕を引っ張って、穂村は警察の青年の目が届かない場所まで移動すると、にこやかな表情を崩して、真剣な眼差しで小坂井を見下ろします。
「警察に助けを求めなかったな」
「あの人は……キライ……」
「変な奴」
言いたかったことはそれだけなのか、穂村は前を向いて歩を進めます。
さっきのロスタイムを取り戻したいのか、少し早足で歩く彼に引っ張られる形で、せつなは歩きます。
無言の時間が、少しだけ続きました。
「……どうして、せつなをさらった……の?」
別に。
無言に耐えきれなくなった……という訳ではなく、退治が目的なら、どうしてあの場で退治をしなかったのかと、ちょっと疑問に思ったから聞いてみました。
それに対し、穂村は。
「どっちの意味で?」
と、返しました。
はて、と、せつなは首を傾げます。
どちらと言われても、意味は一つしかないと思うのですが。
「つまり、あの場でなぜ始末しなかったのか? という意味か、どうして自分がこんな目に……。という意味か」
「……どっちも」
少し悩んで、そう返します。
あの英雄ごっこは、“欠陥能力者”だから。と一言で片づけて、維月はあっさりと受け入れていたけれど、せつなはそんな理由では納得できません。
穂村は、うーん、とアゴに手を添えて、少し悩む素振りを見せてから。
「なぜあの場で始末しなかったのか、だけど……今回の仕事の内容は『雨夜維月の退治、小坂井せつなの生け捕り』。どうしてお前だけは生け捕りなのかは知らない。が。依頼主がそういうのであれば、生け捕りにする。それがお前が始末されなかった理由。
どうして自分がこんな目に……。は、やっぱりお前が欠陥能力者だからとしか、言いようがないな。《箱庭》にも“獄島”にも入っていない“欠陥能力者”は、存在するし、そいつらが犯罪を犯しているのも、確かだ」
と長々と、生真面目に、用意されたテキストを読み上げるように、穂村は答えます。
「……せつな達は関係ない」
「あるさ、同じ“欠陥能力者”。同じ異質なものだ。大変だな、少数で異質なものは。一人が盗みを働けば、皆盗むと思われる。一人が殺せば、皆殺すと思われる。一人が何かをすれば、皆何かをすると思われる」
「だったら、あなた達も……」
「そうだ、超能力者も少数で異質なもの。だから全員で牽制しあっている。俺達は運が良かった。この世にすでに、前例があって、しかもそれが惡役なのだから。知ってるか? 《箱庭》は外では、鬼ヶ島って呼ばれてる。化け物が、暮らしている島だと」
穂村は、普笑いました。
「しっかし、遅いな……」
歩を休めることなく進ませながら、穂村は携帯を見ながら少し焦っているように、そう言いました。
仲間からの連絡を待っているのでしょうか。
「──まあ。彼女は徹底的に嬲っているからなんだろうけど」
さっき空に立ち上っていた火柱を見る限り。と、穂村はそう言いました。
火柱──といえば、さっき空を切り裂く勢いで、舞い上がっていたあの炎のことでしょうか。
あんなものを出せる相手と維月は……。大丈夫かな、心配です。
人の心配をしている立場でないのは分かっているのですが、やはり心配なのは心配です。
「……気になるのか?」
穂村が、そう尋ねてきました。
さっきから結構話しかけてきますねこの人。沈黙が苦手なの?
「────」
穂村がなにかを言いました。
いえ、別に聞く気がなくて、無視していたー。とか、維月以外の男の話なんて、語る必要はない! とか、そんな理由ではありません。
いやまあ、確かに維月以外の人の話なんて、殆ど──全く興味はありませんけど、語り部を任されている以上、そんな私情は挟みません。
聞く気はなくとも、興味がなくとも、ちゃんと語り部の仕事はします。
なにかを言ったというのは、単にほかの音に紛れて聞こえなかったからです。
ブオオオオオン! という、エンジン音のような──というか、エンジン音が穂村の声を遮ったのです。
そのエンジン音の正体は果たして──チェーンソーでした。
***
それは、不思議な光景でした。
人の波をぬうようにして飛んできたチェーンソーは、狙い澄ましたように、吸い込まれるように、穂村を捉えました──が。
「……ふう」
と、穂村は安堵感から来る息を漏らします。
チェーンソーにぶつかったまま、息を漏らします。
彼を捉えていたチェーンソーは、確かに、彼を攻撃しようとしていました。
しかし、薄皮一枚も、その回転する刃は切り裂くことも出来ず──しようともせず、むしろ、自分を攻撃しはじめました。
まるで己から彼を守っているように、自分を自分で、修復不可能なまでに破壊し尽くしました。
「どこの誰かは知らないけど、俺には武器は利かない。武器に愛されているからな──」
ガシャン! と音をたてて、スクラップのように丸まったチェーンソーが地面に落ちて──その音に合わせたかのように、今度は靴底が、穂村の顔にクリーンヒットしました。
両足を揃えての、ドロップキック。
武器に攻撃されない、武器に愛されている超能力者らしい、彼の能力も、さすがに靴を武器として認識することなく、今度は顔面に深くめり込み、強く蹴飛ばされました。
大きく仰け反るように吹き飛んだ穂村は、ぐるんぐるんと、何回転も縦に回転しながら、地面に脚や頭を掠らせながら飛んでいき、近くにあった大きなビルの壁に大きなクレーターをつくる勢いで激突して、ようやく止まりました。
「ふん……『武器が利かない。武器に愛されている』がなんだって?」
取り残されたせつなの前に、誰かが立ちます。
ドロップキックを放った本人。
かなりの助走をつけて、穂村の顔面に蹴りをいれた張本人。
「だったら、蹴飛ばせばいい話じゃねーか」
尤もなことを言いながら、その人は立っています。
「……」
その人からは、力というものが感じ取れませんでした。
フードを深く被った人です。
服はボロボロで、千切れに千切れて、破れに破れていて、これなら雑巾で身を包んでる方がまだ見栄えが良さそうです。
そんな服の隙間から見える体も、服と引けを取らないぐらいズタボロで、傷だらけで、流血だらけ。
地に着いている足は、今にも崩れ落ちてしまいそうなぐらい震えていて、痛々しい、それこそ本当に気を抜けば死んでしまいそうな、そんな人です。
「……ぇ、ぁ……ぅ……」
「ひひひ」
「ひっ……!?」
突然登場した、その誰かに驚いて、なんだかよく分からない言葉を発していると、その誰かが首だけを動かして、こっちを見てきました。
直立不動のまま、首だけをぐりん! となにやら挑発的に見下ろすような形で首を曲げて、こっちを見てきたので、せつなは変に甲高い声を上げてしまいました。
フードの中には、ウサギがいました。
カワイくデフォルメされているウサギの仮面を被っています。
しかしなんですか、ひひひって、笑い方卑屈すぎるでしょっ……て、ひひひ? うさぎ?
「無事だったんだな。心配してたんだぞー?」
この声。妙に間延びしたしゃべり方。
もしかして……。
「い、維月……?」
「そ、助けにきたぞ」
やけにあっけらかんと、しかしなぜか頼りになりそうな、そんな雰囲気を醸し出しながら、維月は、せつなの世界で一番大好きな人は、仮面の下で、笑いました。
***
「ホ、ホントに維月……?」
「ホントに維月。仮面なら気にするな。今から暴力沙汰をするんだから、身元を隠すために、被ってるだけだ。これがまあ、上位七名『ラビット』っていう名前の理由だな」
「……」
維月だとバレてませんか、それ……。
ま、まあ本人が隠しきれてると思っているのならいいんですけど……いいのかな?
「ど、どうしてここだと分かったの……?」
せつなの予想としてはなんとなくが次点、好きな人の場所ぐらいすぐ分かる。が大本命だったのですが、維月はというと。
「匂い」
と、鼻を指差しながら答えました。
超大穴でした。なかなか変態チックな答えですね……。
「あんなに長く一緒に住んでりゃぁ、そりゃあ匂いぐらい覚える。特にお前はな。また風呂に這入ってないだろ」
「……」
せつなは目を反らしました。維月は嘆息一つして、体のコリをほぐすようにグーっと、腕を天にのばします。
「っく~……さて、小坂井。そっから一歩も動くなよ。そこだけは安全地帯にするように、闘うから」
そういうと。
維月は壁に寄りかかるように倒れている穂村の元に跳んでいって、その頭の真横を強く蹴りつけました。壁の四方に広がっていたヒビが更に、広がります。
「よう、超能力者。惡役がきてやったぞ」
「本当だ、まるで愉快犯みたいな風貌だな」
多分仮面の下で嬉々として笑ってるであろう、維月に、穂村は血をぺっと吐き捨てて、返します。
「ラビットだあああああああ!!」「最弱のバカがまた出たぞおぉぉぉ!!」「距離とれ距離ィ!! まずは逃げろおぉぉ!!」「なんで今日に限ってっ!!」「バーカバーカ、バカラビットー!!」
維月に気づいた雑踏は、口々にそんな事を言いながら──叫びながら維月と穂村がいる場所から離れて、せつなの後ろ辺りまで移動すると、遠巻きに、二人を見ています。
「嫌われてるな、お前」
「そりゃあ『一番弱くて、一番厄介な上位七名』なんて呼ばれてるしな。僕なんかに負けたら、笑い物にされるぞ?」
「……どうして、お前がここにいる?」
「そりゃもちろん、負けてないからだ。超能力者様も殺人鬼には敵わないらしいな」
「殺人鬼?」
「あ、これは内緒にしといた方がいいのか。ゴメン、今話したこと忘れてくれんか?」
「……」
「それでお前、一つ聞いておきたいんだけど」
「……なにを?」
「僕の愛すべき友達を傷つけたと聞いたんだけど、この情報はホントか?」
「そうだが?」
「なるほど、死ね」
「お前がなっ!!」
大声を張り上げながら、穂村は座り込んだまま、両足を持ち上げて維月の腹を蹴りました。
維月は咄嗟に後ろに跳ぶ──なんて技術、彼にあるはずもなく、普通に蹴りの威力に押されて、吹き飛びました。
「ぬっ……ふっ!!」
数メートル空を舞った維月は、地面にうつ伏せに、這うような体勢で着地して、立ち上がると、眼前に既に穂村がナイフを持って、立ってました。
「そんなので僕に勝とうって言うのか?」
「俺の能力なら日本刀とかよりも、これとかの方が便利なんだよ」
「へえ、舐めたこと言ってくれるな」
「やってみたら、わかる!」
言い切る前に。
穂村はナイフを振るいます。
一心不乱に、縦横無尽に、ナイフを振るう。
一太刀、二太刀、三太刀と連続して浴びせられる太刀筋──ナイフ筋。それを維月は紙一重でかわしていきます。いえ、紙一重でしかかわせないのでしょう。
維月の視力は強化すれば、あんなナイフの太刀筋ぐらい、余裕で捉えれるでしょうが、服の下のボロボロの体はそれに反応する事ができていません。
その微かな遅れがでるから。紙一重でしかかわせない。
恐らく、既に立つことさえままならない体で、動ける時点で維月も中々化け物なのですが、それでも、体は辛いようで、時々よろめいています。
それでも維月は、動くのをやめません。
右へ左へ、時折かすりながら、周りにいる野次馬を盾にしながら維月は避け続けます。
「そのマスク外せよ。見てて不快だ」
「ヤダよ。顔バレしたくないし」
「多分、正体バレてるぞ」
「そんな訳ない。完璧な変装だからな」
そんなムダ口を叩きながら。
迫り来るナイフの側面を、さっき盾にした奴が持っていた携帯でなぞって、受け流し、一気に穂村に近づいて頭突き。穂村は後ずさります。
「次々ぃ!!」
「ちっ!」
距離を引き離そうと振るわれたナイフを維月は、首だけ後ろに動かしてかわし──。
すぱっ。と維月が被っていたフードが切り裂かれました。
「……維月ッ!!」
せつなは叫びます。
切り裂かれたフードは、そのままひらひらと、地面に落下しました。
「あっぶね?!」
どうやら維月は、ギリギリでそれに気づいて、上着を脱ぎ捨てていたようです。
半袖のポロシャツとチノパンだけになって、ズタズタでボロボロな体を更にさらけだした維月は、ナイフの鋒を向けている穂村を睨みます。
「俺の能力は『武器人間』。武器に愛される能力」
「知ってるよ、だから武器に攻撃されないんだろ?」
「ほかにも、俺が望めば武器は俺の手元に現れる。俺が使いやすいように調整された状態でな」
「へえ、でも今のはおかしくないか? 僕は確実にナイフを避けたはずだぜ?」
「ああ、そうだ。実際の刀身は避けたさ」
が。
と、区切ってから穂村はナイフを振るいました。
右上から左下へ。
なにもない空を切り裂いて──。
「しゃがめッ!!」
「ッ!?」
維月に頭を乱雑に鷲掴みされて、地面に押しつけられました。
直後。勢いで舞い上がった髪が、一束、切り裂かれました。
それは丁度、穂村が切り裂いた軌道と、ほぼ同じ場所で──。
「それに、本来ならあり得ないことだって、俺に好かれる為にやってくれる。例えば、斬撃だってとばせる」
ナイフを弄びながら、穂村は自慢げに能力をペラペラと話してきます。
「こんの、危ないだろうがッ!!」
維月は斬撃を避けるためにしゃがんでいたその状態から跳躍。
穂村の胸辺りに、頭から、さながらロケットのように突っ込みました。ひびが入っていた壁も、限界が来たのか、砕けて穂村と維月は土煙に撒かれながら、ビルの中に突っ込んでいきました。
「……見えない」
ビルの中からはなにやら、打撃音や銃声、物が壊れる音が飛びだしてきて、時折、派手派手しい爆音で地面が震えるのですが、いかんせん土煙が激しくて見えません。
維月は大丈夫なのでしょうか。
さっき、少ししかみていませんが、維月はもう既に、立っているのがやっとのようなケガを負っていました。
それこそ、トラックに轢かれた後、電車に撥ねられてガソリンをかけられて燃やされた。と言われたら信じてしまいそうな大ケガ。もう、ケガと言っていいのかも迷いかねないぐらいの状態でした。
そんな状態であんなに動き回って、果たして大丈夫なのでしょうか。
心配です。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!」
そんなせつなの心配をよそに、ビルの中からはそんな雄たけびが聞こえて──直後、もう一度地面が大きく揺れました。ビルも大きく震えて、窓が下の階から上の階へ、順番に割れていきます。最後に、屋上で大きな爆発が起き、維月と穂村が飛び出しているのが見えました。
維月が上で、穂村が下。
飛び出した直後、維月が両手を重ねてハンマーのように振り下ろし、穂村を屋上に叩きつけます。もう一度、派手な音が鳴り響き、維月も屋上に着地しました。
「……っ!」
それを確認して、せつなは、ビルに向かって走りだしました。壁に大きく開いた穴からビルの中に入って、エレベーターはさっきの衝撃で壊れているようだったので、階段を探して駆け上がります。
維月にはそこで待っているように、と言われましたがそれを無視して、せつなは駆け上がります。
どうしてかと尋ねられば、なんだか嫌な予感がする。
確かに見たところ、維月が優位に立っているようにも見えましたが、それでも、やっぱり嫌な予感は拭えることはありませんでした。
「……!?」
そんなせつなの思いを加速させるかのように、頭上から銃声──というのは余りにも図太い、砲弾が撃ちだされたかのような、音がせつなの頭上から、何度も何度も響きました。ビル全体が震え、せつなは咄嗟に、頭を庇いながらしゃがみ込んでしまいました。
「なに……?」
「ごォあああああ!!!」
「……!?」
揺れが収まったと思うと、次は怒号です。
しかも、聞き覚えのある声。
維月の声です。
「維月っ……!!」
せつなは咄嗟に叫んで、残る階段を駆け上がり、屋上に繋がるドアを開きました。
そこには。
服はボロボロですが、体には殆どケガのない姿で勝ち誇っている穂村と。
体中ケガだらけで、目を抑えながら、天を見上げて絶叫している維月がいました──いえ、目を抑えて。というのは、少し違うかもしれません。
なんせ、その抑えるべき目がある場所が、抉られて無くなっているのですから。
あと、書き忘れてたんですが、穂村は女子だとしても、小さめな小坂井と、ほぼ身長が変わらないぐらい、小さめの少年です。




