「大丈夫か?」
「はあ? なに言ってんの?」と言いたくなるような、おかしな持論とおかしな自論をぶつけ合う、そんな物語を目指して。
「えと、大丈夫か?」
「……!」
僕がそう訪ねると、彼女は顔を真っ赤にしながらコクコクと、それこそ赤べこみたいに頷いた。
それは、昼休憩のことだった。
四月末に行われた中学範囲の総合復習テストの結果が芳しくなく──というか点数が無いという事実のみを、先生に坦々と告げられて、高校生活一ヶ月目にして進路の心配をされてしまったその日。
どうして身の丈にあってない進学校になんて進学してしまったんだろう、と今更ながらに後悔しながら、妙に人通りの少ない廊下を歩いているとクラスメートの小坂井せつなにでくわした。
クラスメートの名前なんて、正直半分も覚えていない僕だったけど、隣の席の彼女の名前は覚えていた。
彼女はなんというか、有り体に言うとちょっと暗いやつで、あまりコミュニケーションというものをとってなくていつも一人で本を読んでいた。
そんな彼女が、僕の目の前にいて、いじめられていた。
ゴミの浮いた汚水をぶちまけられたせいか、思わず仰け反って回れ右したくなるような腐臭に満ちていて、彼女の制服は肌に張り付き、下着が透けて見える。
腰まで伸びた青い髪には、生ゴミがひっかかっていて、じっとりと油っぽく湿っていた。
目を隠すように伸びた前髪の間から見える目は、傍観している僕を見ていた──いや、見ていなかった。
心底疲れた目で、僕と周りの風景を一緒くたに見ていた。ある意味、何も見ていなかった。
次の瞬間には、なにをしているのかさっぱり分からない、もしかしたらまばたきしたら、舌を噛んで死んでるかもしれないぐらいの危うさ。
『きみは本当に危なっかしいなあ、次の行動がまるで読めない。なにも考えてない──なにも思ってない。他人のことも、自分のことも』
そんな事を委員長に言われたことを思い出した。
それに歯向かってみようと思い、僕は三人のいじめっ子を追い払って腰を抜かしているらしい彼女に手を差し伸べた。
差し伸べられた手におっかなびっくりながらも、掴んで立ち上がった彼女は髪の合間から見ても分かるぐらい、リンゴみたいに顔を真っ赤にして何度もペコペコと頭を下げながら立ち去っていった。
──これは僕と彼女のお話。
「うん、いいことしたな僕」
一人うなずき、僕は食堂にジュースを買いにいった。
──ダメで空っぽで、人類最弱な僕と。恋に恋する、愛に依存する彼女の。弱者とお姫さまの捻くれたラブコメのような話だ。