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どーなっつハート!【プロトタイプ】  作者: 空伏空人
元親友と再会の日。
19/23

『武器人間』

 暫くは汐崎しおざき美咲みさき。つまり、委員長の話だ。

 と言っても、僕が委員長の話を聞いての場面回想だから、事実とは多少の……いや、一寸のブレもないか。

 委員長は、僕とは比べものにならないぐらい頭は良いし、正しい人だ。

 だから、間違えるなんてことありえるわけないし、記憶違いなんて事も無いはずだ。

 それこそ、記憶を遡らせて無かったことにされない限り。

 とにかく。

 ともかく。

 語り部の視点がブレた訳じゃない。

 この僕、雨夜維月視点のままこの話は続く。


 《雨夜が出て行った後、私と小坂井さんと九条先輩は、きみが今、仮住まいにしている秘密基地の大広間に残ってたんだ。

 どこかに、わざわざ移動すると、相手の奇襲に反応できない可能性があったからね。

 え、酔いどれの所に避難しておけば良かったじゃんって?

 ああ、そう言えば高木さんの能力、『安心安全の個人室ロイヤルスイートホーム』は彼女の部屋を核シェルターのように、防御する能力だったよね。

 確かに、彼女の所に逃げるのが一番の安全策だとは思ったんだけど……なんだろうね、彼女に貸しをつくりたくないんだよね……分かるでしょ?

 だったら話を続けるね。》


 《それでも。

 それでも相手は英雄ヒーローごっこの彼だったから、きみと違って約束を違うような奴じゃなさそうだし、そこまで緊張することはなかったんだ。

 女子三人で和気藹々と……より詳しく言ったら小坂井さんとコミュニケーションを取るために、私と先輩が小坂井さんに話しかけている。と言った感じなんだけどね。

 結局、彼女は最後まで会話のボールを受け取ってくれなかったんだけど。

 そんな事はどうでもいい。いや、どうでもよくはないんだけどね。今長々と話すべき所じゃなかいね。

 話しかけても目を反らされる。っていうのを何回も続けてたら、唐突にエレベーターが上ってきたんだ。

「……ようこそ、でいいのかな? まさか来るとは思ってなかったけどね」

 そこから出てきたのは英雄ごっこの彼じゃなかった。

 茶髪で、耳の横の髪だけ赤く染めた男の子。少し童顔だったけど歳は同い年ぐらいだと思うよ。


「名前を聞いてもいいかな」

穂村ほむらまい

 と、穂村くんは簡潔に返してきた。

「穂村舞……ね。私は汐崎美咲。漢字の説明はいる?」

「特に必要ではないし、聞く気もないから大丈夫」

「そう、分かった」


 自己紹介を手軽に済ませる。小坂井さんは、私の後ろの方にいて、先輩は見えなくなってた。

「それで何のようかな? 清廉潔白な決闘中だよ。場外乱闘なんて、それこそ英雄ヒーローらしくないじゃないか」

「別にいい。貴堂あいつは正義の味方になりたいらしいし、時宮も一応は目指しているけど、俺は、どうでもいい。どうだっていい。ただ仕事をまっとうする」

「…………」

 統率が取れていない。

 どうやら相手は一枚板の群集チームではなく、今回の為にかき集められた個人集団みたいだね。


「なるほどなるほど、きみは仕事に忠実なんだね──」

 私は話ついでに、小坂井をもう少し後ろに下げた。

 穂村くんは、いつの間にか日本刀を握っていて、そのまま私と小坂井さんめがけて走ってきたんだ。


「──ついでに言うとね、私も役割には忠実なんだよ」

 その直後。穂村くんの足下の床だけが抜け落ちた。

 咄嗟のことで、反応できなかったみたいで、穂村くんも一緒に、下の階──というか、一番下まで落ちていったんだ。

 この時計塔には部屋と呼べる物は、ここしか無いわけだし。


「……!?」

「ああ、これは私の能力だよ。名前は『幸運グット・ラック』不幸を追い払ってくれる能力だよ。まあ、かと言って、幸運だったー、って必ずしも言えるとは限らないんだけどね」

「……?」

「この能力はあくまでも、不幸を払うことに集中してるんだ。私を不幸な目に合わせないことに──籤で大吉は当たらないけど、凶は絶対でない。みたいな感じ。しかも、守る対象はあくまで私だけだから、周りを不幸にしちゃうことも──」

 あるんだよ。

 と、言おうとしたら小坂井さんが突然倒れたんだ。かなり不自然に、こう、バターンって大きな音をたててね。


 彼女が倒れた軌道にあわせて、血が、アーチ状に流れているのと、ターンって、乾いた音が、鳴ったのはほぼ同時だったね。

 その音の正体が銃声だと分かったときには、床には沢山の穴が空いていた。

 多分下まで落ちた穂村くんが、どこかに隠し持っていたマシンガンかなにかを乱射したんだと思う。

 まあ、私には一発も当たらなかったけど。幸運にもね。

 その代わり、最初の一発目だけは、小坂井さんを盾にしてしまったんだけど。


「ッ小坂井さん、大丈夫!?」

「……!!」

 撃たれた肩を抑えて蹲る小坂井さんに、私は手を差し伸べたんだけど、彼女、にっくき敵を見るような目で私を睨んで、差し伸べた手を払いのけたんだ。


「あっ、あなたの手助けはいらない……! か、可哀想とか思うな、あなたの事が嫌い……っ!!」

 とまで言われちゃったんだ。

 いや、確かに仲は良くはなかったけど、今回の話で少しは距離が近づけたかなーって思ってた分、ちょっとショックだったかな。まあ、まだ仲良くなれる余地があると考えればいいかな……ん?


 なに、後でぶん殴るって雨夜、それはダメだよ。

 別に彼女は、悪い事をしていないじゃない。むしろ、私の能力の被害者なんだから、私が土下座して謝らないと。

 だから彼女を叱ったりしない事。きみの数少ない友達なんだから、仲良くね? 分かった? よし、いい子いい子。

 それじゃあ、脱線しちゃった話を元に戻すね。》


 《小坂井さんが、自分の能力で傷を戻しているのを尻目に、周りを警戒していると、銃の乱射でぽっかりと空いた穴から穂村くんが飛び出してきたんだ。

 一番下から、ここまで跳んできたと思うと、超能力者は身体強化能力は基本装備というのは、嘘じゃないみたいだね。

 スゴいね、きみのお株があっさりと奪われちゃった。

 体についた埃を手で払いながら穂村くんは、少し怪訝な顔で。


「一発も当たってないのか、普通──というか、俺の能力なら当たるはずなんだがな」

「運が良かっただけだよ」

「ふうん……」

 返答はそれだけだったね。

 特にお前には興味ない、と言わんばかり。

 お前に銃弾が当たってようが、当たってなかろうが、どっちでも良かった。みたいな口振り。

 多分彼は、仕事を全うする彼にとっては、小坂井さん以外はどうでも良かったんだろうね。

 それだから、後ろから堂々と迫ってくる九条先輩に気づけないんだよ──まあ、本気で能力を使っている先輩に気づける人の方がおかしいんだけどね。


「はああっ!」

 先輩が、奮起のかけ声をあげても穂村くんは気づかない。

 きみが一応貸しておいた愛用のバールを、剣道でいう竹刀みたいに構えて──流石にきみみたいに、曲がっている方じゃなかったけど、思いっきり、振り下ろしたんだ。


 結果──折れ曲がった、なんてものじゃない。

 砕けた。もう再起不能なまでに、修復不可能なまでに、壊されちゃった。》

 《ごめん、今度弁償するよ》

「別にいいよ。今度買いなおそうと思ってたところだったからさ。むしろ壊れたおかげで区切りがついた」

 謝る委員長に、僕はそう返した。


「なあ、まだかぁ? 腕がプルプルしてきたんだが」

「頑張れ殺人鬼」

 心底めんどくさそうな、半目で睨んでくる松場にそう言い返す。ついでにいえば、段々近づいてくる温い血溜まりから離してほしいんだけど。


 《彼……穂村君曰く『自分は武器に愛されてる。だから武器は俺を傷つけない』だそうだよ》

「傷つけないようにするために、自壊したって言いたいのか?」

《そういう事だろうね。超能力者って中々面白い能力を持ってるんだね》

 ふふふ、と笑う声。いや、どうして楽しんでるの委員長?


「で。虚をついてるところをぶつかったことで、居場所が割られた九条先輩は反撃にあって、委員長は鳩尾を殴られて気絶……起きたら小坂井が消えていたと」

《そう。彼、仕事を全うするだけって言ってたけど、本当に仕事だけを全うしちゃうから恐れ入るよ。依頼主の要望どおりに、無駄な被害を出さずに、必要最低限の目撃者に留めて、目標だけ連れ去ったんだから》

「……なるほど。つまり穂村とかいう奴は委員長を殴り、九条先輩を斬り、小坂井を攫ったと」

 つまり、僕の大事を殴り、斬り、奪ったと。

 なるほど。

 なるほど。

 なるほど。


「……おい最弱。歩かないほうが良いんじゃないか。というか歩けるのか?」

「歩けるぞ。かなりムチャをすればな。ああ、頼む殺人鬼、委員長の相手をしていてくれないか?」

「いや、別にいいけど……ムチャするなよ、俺の唯一の話し相手がいなくなると寂しくなる」

「家に沢山人形があるじゃねーか。あれと話してろよ」

「独り言ほど、寂しいものはないんだぜ? それに、俺の正体を知ったら、普通逃げるぜ?」

「そんなもんか」

「そんなもんだ」

「じゃあ逃げよう」

「それはないだろ」

「ないか」

「なしだよ、だから胸中をさらけだして、隠すことなく素面で話せるお前みたいのに会えて、俺は泣きたくなるぐらい嬉しいんだぜ?」

「……嬉しいと泣くのか?」

「そうだな、嬉しいと人は泣くんだ」

「覚えておく」

「覚えておけ」

 そんな会話をしながら、段々冷めてきている血の池の上に僕は立つ。

 ズタズタでボロボロでズタボロのまま、立つ。


 何かが切れる音が体の中を反響する。

 それは、筋繊維が千切れた音かもしれないし、血管が破れた音かもしれない。

 少なくとも、既に僕の体は立つことは出来ないほど、ダメージを負っている。

 そりゃあ、ビルを何個も巻き込みながらぶっ飛んだり、トラックで人を轢いたり撥ねたり、顔を焼かれたり……。更に昨日のダメージも体に残ってるし。自分の能力の負荷リスクもあるわけで。

 正直言うと、立っているのも奇跡のようなものだ。


『鬼力』という素晴らしく下らない能力を持ってるからと言って、ここまで酷使したのは久しぶりだ。

 明日とか明後日とか、ずっと寝続けるんじゃないかな。

 そしてそのまま永遠に寝続ける羽目になるんじゃないかな。


「……明日の心配するって、中々余裕綽々じゃないか僕」

 これなら案外、いけるかもしれないな。

 自然と笑みがこぼれる。涙があふれる。


「おい最弱。そこで泣いたら、体が痛くて泣いてるみたいだぞ?」

「あながち間違ってない」

「だっさいヒーローだな」

「だから僕はヒーローには向いてないんだって」

 僕は振り向く。ウサギの仮面を被って、振り向く。

 振り向いて、委員長の言いつけを破る一言を、言う。


「私利私欲、目先の欲にかられた惡役の方が、向いてるよ」

どうでもいいけど、会話の内容まできっちり覚えてる委員長の記憶力の高さに、愕然。

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