表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どーなっつハート!【プロトタイプ】  作者: 空伏空人
元親友と再会の日。
16/23

『空間短縮』

「この白衣に特に理由や思い入れはないけれども。

「あげるとしたら、好きだから。

「別に俺が科学者でも理科の先生でも物理学者でも研究者でも医者でも薬剤師でも爆弾魔でもないし、特に職業柄というわけでもなく、ただ単に好きなだけ。

「白、いいよね。白白白、清廉潔白というか、よごれのないけがれのないまっさらな色。腐っていない証拠。

「この髪もわざわざ染めたんだよ。

「正義を語るのに、白は必要不可欠だと思うね俺は。」


「そっか、僕は黒が好きだな。

「真っ黒。どす黒い。全ての色を塗りつぶせる黒。

「そんな暴君みたいなとこが好きだし、汚れてもあまり目立たない。っていうのは中々利点だと思うね。

「その服だと、カレーうどん食いづらいだろ。」

「カレーうどんは好きじゃないから。別にいいよ。」

「あっそ。」


 ドーナツ型のテーブルの端と端。

 向き合うというには少し離れた場所で雨夜と貴堂と名乗った白衣は座っていた。

 僕がエレベーター側で、貴堂が曇りガラス側だ。

 相手側には誰もいない。僕側には委員長と九条先輩が後ろに並び(九条先輩は見つけられないから分からないけど)隣に小坂井が座っている。


 更に言えば、この後ろに療養中の『無敵』鑑大将が、物量は圧倒的にこちらが有利だ。だれかの言葉を借りれば、戦争は数だ。この状態で戦えばまず負けることはないだろう。

 なのにだ。


「フフフ……」

 白衣、貴堂は余裕そうに笑っている。あちらも負けることはないと……いや、あちらは勝つと自負しているようだった。


 どれだけ数を集めようと、ちりが積もっても結局塵ごみ。と言いたげな顔だった。


「紅茶ですが」

「あ、これは失礼」

 いつのまにか反対側に移動していた九条先輩が差し出した紅茶を投げ捨てた。

 敵の入れた飲み物は飲まない、ということか。

 僕はドーナッツ型のテーブルの淵に靴の裏を当てて。

「それでなんのようだ。ふざけた事を言うとテーブルごとそこの曇りガラスから、紐なしバンジーさせるぞ」

「できるものなら、どうぞ?」

「……」

 僕はテーブルから足を下ろした。テーブルを蹴飛ばしても当たりそうもない。


「きどうさん。でしたっけ?」

 話が途切れないよう、委員長が切り出す。


「はい。貴族の貴にお堂の堂で貴堂悠樹、よろしく」

「どうも。それで案件は? 用もなくここに侵入するような人は《箱庭》の中にはいないと思うけど」

「うん? ああ、そうかそうか。そうなるよな。まず、その誤解から解く事にするか」

 貴堂はわざとらしく、仰々しく足を組む。


「俺は、この《箱庭》の住人じゃあ、ない」


 大袈裟に、小説で言えば一行ずつ空けるような、そのセリフを聞いての、僕の口から出てきた一言は。

「あっそ」

 という、軽い一言だった。


「ん? ここは驚くべき場面だと思うが?」

「どーーーでもいいよ」

 心底どーでもいい。

 しかしそうか、それなら時宮の所在が分からない理由もよく分かった。ここの住人じゃないなら、分かるはずもないか。


「誰だろうとなんだろうと、関係ない。味方かそうじゃないのか分かればそれでいい」

「そうか、じゃあこの情報なら驚くかな?」

 依然として余裕そうな態度を、見下す態度を崩さないで貴堂は言う。


「俺らは超能力者。お前等とは違う能力者さ」

「……」

 驚いた。

 そんな戯言を恥ずかしげもなくいえるその厚顔さに驚いた。


「嘘だと思ってるだろう雨夜維月。しかしこれは事実だ、欠陥能力の忌むべき能力者感染者とは違う天性の讃えるべき能力者。それが超能力者さ」


「……そりゃ重畳」

 誇らしげに貴堂は言う。心拍音に変化は無いし、嘘はついてないらしい。

 後ろにいるお人好しですぐ人を信じる委員長は最初の時点から驚きっぱなしで、愕然としている。

 隣にいる小坂井はどうでもよさそうだった。

 どこかにいる九条先輩は、分からない。


「それで、その超能力者様が一体全体ここになんのよーですかい?」


「うん?

 まさかまだ分かってないとか言うつもりじゃないよな。いやいやいやいや、さすがにどれだけ忌むべき存在の、塵芥ちりあくただとしてもさすがに家を焼かれれば分かるだろ」


「……問蓑といみのも仲間なのか」

「時宮だ。時宮心々実。どうやったら問蓑なんて名前になるんだよ、間違えないでやってくれ、彼女も中々プライドは高い方だから」


「……あいつも仲間なのな」

「そ、彼女も超能力者だ。君とその隣にいる彼女を始末する仕事で来たんだ」

 嘘はついてない。驚かせよう的なサプライズではないようだ。


 その事実を聞いた瞬間、小坂井が椅子を倒す勢いで立ち上がり、貴堂目掛けて走り出そうとしたから、首根っこを掴んで止める。

 ぐえっ、っと、あんまりカワイくない声をあげた。

「落ち着け。話は終わってない」

「……分かった」

 しぶしぶと、倒した椅子を戻してそこに座る。


 座ったのを確認して、僕は貴堂の目を見据えて、指を一本たてる。

「一つ、質問いいか?」

「どうぞどうぞ、一つと言わずに何個でも質問してくるといい。俺たちがきみらを知っているのに、そちらが無知なのは不平等だ。この世は平等でないといけないからな」

「…………」

 どうやらこいつは、平等を重んじるタイプらしい。

 平等主義者。

 平和を祈る、非戦争論者。

 自然な流れで「お前の方が格下だよ」と見下してくるから、嫌いだ。


 今なら小坂井が「かわいそうとか、思われたくない」と思っているのが理解できるな。

 無自覚の見下しほど、殺意の湧くものはない。


「分かった、何個でも良いと言うのなら、好きなだけ質問させてもらう。ただ、嘘はいけないぜ? 僕ほど嘘に通用している人間はいないからな」

「ああ、知ってる知ってる。雨夜維月、お前のその剥き出しの感情が嘘だということも。大変だな、嘘だとどうしても、少しやりすぎ感が否めない」

「……」

 自然な笑みのまま、そんな事を言ってくる貴堂。

 ホントに僕のことを調べてきているらしい。

「……一つ目だ。お前は僕らのことをどれだけ知っている?」

「どこまで……ねぇ」

 貴堂はちらりと、小坂井の顔を見た。

「じゃあまず彼女から。身長百五十六センチ。体重は嘘を記入してなければ、五十キロ。

 八月二十八日生まれの乙女座。家族構成は不明。ここに移り住むまではストリートチルドレンとして、路上で過ごす。

 髪を切らない理由は『自分の体の一部に刃物を向けて切るというその意味が分からないから』」

 貴堂の目をみるまでもなく、隣の小坂井の動揺具合からみて、こいつが言っている事はホントとみていいか。


「それじゃあ次に雨夜維月、きみの番だね」

「いいよ、お前が情報を持っているのは分かったから」

 手をぷらぷら振りながらそう言うと、貴堂はそうかい、と返してきた。

 僕は指を二本たてる。端から見ればピースサインだ。


「二つ目。そのなんだっけ、天性の讃えるべき超能力者様? その割には知名度低いな、ニュースでも見たことないけど」

「そりゃあ、まだ日の目を浴びてないからさ。これから宣伝していくのさ」

 飄々と、貴堂は言う。


「これから?」

「そう、これから。雨夜維月、英雄になるのに最も手っ取り早くて、確実な方法がなにか知ってるか?」

「……大多数の味方となる」

「それもあるけれど、もっと簡単なことだ」

「……」

 黙り込む僕に、貴堂はやれやれと言いたげな顔で。


「君達みたいな嫌われ者の化け物を倒すことさ」

 と、言った。


「それで超能力者様がこんな穢れた仕事してるってわけか」

「穢れてなんかないさ、これは崇高な仕事さ。雨夜維月、お前は悪を倒す正義の味方を穢れ仕事と罵るのか?」

「もうちょっと速く来いよとは思う」

 しかしなるほど。こいつはつまり正義の味方の、ヒーローの、英雄の立場を得るためにここまで来たということか。

 こいつが英雄ヒーローだとすると、詰まるところ自分は化け物か悪の手先ってわけか。

 いや、待て。

 僕は指を三つたてる。

「三つ目の質問。どうして僕と小坂井を狙う。確かに僕らは“欠陥能力者”だし、僕は上位七名だ。けどあくまで一介の高校生に過ぎないはずだ。最初の敵にしてはややみみっちいんじゃーないか?」

「なに言ってるんだ、雨夜維月」

 それこそ。

 貴堂は虚を突かれたように、キョトンとした表情で、言った。

「きみは“欠陥能力者”だろう?」

「……悪かったな、“欠陥能力者”で」

「ああ、悪いね」

 知らない間に、世間での“欠陥能力者”の立場がどんどんヤバくなってた。

 外にまだ残ってる“欠陥能力者”が悪さでもしてるのか?


「それでもまあ、他に理由がいるんだとしたら……雨夜維月、きみ最近暴行事件を起こしただろう」

「え、そうなのっ!?」

「委員長が反応すんなよ……」

 事実なので頷くと、後で説教だね。と、言われてしまった。

 委員長と一対一で、しかも一方的に罵られるのか……特に興奮しないな。

 やっぱり僕にMの素質はないらしい。一安心。

「それで依頼されたんだよ。だからきみたちが選ばれた。理由はそれだけだ」


「しまった……ノドまでしっかり千切っとけばよかった」

「……雨夜、反省の意がみえないんだけど反省してるの?」

「してないしてない。僕は悪くなーい」

「この子は本当に……!」

 委員長の堪忍袋の緒がきれそうだった。

 僕は急いで委員長から顔を逸らして、貴堂と再び向かい合う。

 指を四つ、たてる。


「よ、四つ目。どうしてお前は僕らの前に姿を見せたんだ? 狙撃主みたいに、不意を撃って倒せば楽だろ」

「それは英雄ヒーローのすることじゃあ、ない。真正面から正々堂々。名乗りを挙げてこそ英雄なのさ」

「なるほど、じゃあ僕は英雄ヒーローにはなれそうにないな」

 僕は肩をすくめる。


「それじゃあ、今日来たのは名乗りを挙げるためか?」

「それもあるけどもう一つ。本題はむしろこっちさ」

 うふふ、と貴堂は笑う。


「決闘を申し込みに来た」

「決闘?」

「そう、決闘。真正面から正々堂々するならこれが一番だろ」

「……そんな場所を整えるようなことをしなくても、明日からサバイバル対戦すればいいだろ」

「余り騒ぎを起こしたくない。依頼主の意向でね」

 やれやれ、と貴堂は肩をすくめた。貴堂自身も出来れば派手派手しくやりたかったのだろうか?


「……なら闇討ちなり奇襲なりで暗殺すれば良かったんじゃ──」

「暗殺!」

 大声で、いきなり貴堂は僕のセリフをオウム返しした。僕は耳の穴を指で塞ぐ。


「暗殺とは、そんな姑息な手は思いつかなかったね、さすが下劣な能力者たちだ。考える事が卑怯卑屈卑賤」


「卑屈なのは雨夜だけだよ。私達を巻き込まないでくれるかな?」

「いやフォローしてくれよ……」

 後ろで尤もな事を言っている委員長に突っ込む。隣の小坂井を見てみると、小坂井も頷いて──船を漕いでいた。こんな時に寝るなよ。


「闇討ちなんて名前からして白くないから問題外」

 貴堂はせせら笑う。


「それを言うなら、決闘も白ってイメージないけどな。どっちかっつーと、紅。血の色だ」

「そうかな? 一対一の真剣勝負。不意も闇も奇もない、名乗った二人と正攻法のみが存在するフィールド。それを白と言わずになんというんだ?」

 それに。と貴堂は続ける。

「手も名前も汚す必要もない。勝てば文句の言いようもなく、白星が手に入るしな」

「……」


 勝つ気でいる。いや、勝つしかないのか。

 英雄に負けることは許されない。正義の味方は勝たなければならない。勝ち続けなければならない。

 しかも今回はその初戦、超能力者の行く先を占う一戦。


 その重圧プレッシャーがあってなお、こいつはこうも勝気でいる。一体全体どこから出てきているのか全く分からないその余裕と自信がこいつを突き動かしている。

 負ける要素ばかり考えてる僕と違って、中々ポジティブな奴だな。

 ポジティバーだ。


「俺としても、勝負は白く白々しく、クリーンでフェアなものでしたいんでね。条件は合わせないと」

「明らかに性能スペック差があるんだけどな」

「それは個体差だから仕方ないよ。それとも、君はこちらに手を抜けって言ってるのか?」

「それは嬉しい話なんだが」

「さすがにそれはフェアじゃない。互いに全力を出すことがフェアなのさ」

 両手を広げ、貴堂は軽く肩をすくめる。

 ゴマカされたような気がしたけど、ここでいちゃもんぶつけても意味はなさそうだ。


「りょーかい」

「分かってくれたところで、対戦カードを決めようか。こちらからは炎と熱気を操る『戦塵の知恵アハト・アハト』時宮心々実」

「最初はオメーじゃないのか?」

「彼女、仕留められなかったのがよほど悔しかったみたいで。先鋒は誰にも譲らないと駄々こねられちゃったのさ」

 やれやれ、と貴堂は笑った。自分が手を汚す必要がなくて、喜んでいるのだろうか。


「そっちからは誰が出るのかな」

「もちろん、僕だ」

 それ以外に選択肢はない。


「《箱庭》全人口四百万人の頂点、上位七名が一人、第七位『最弱』『ラビット』雨夜維月。二つ名の方は『ラビット』の方が気に入ってるから、呼ぶならそっちの方を頼む。能力は『鬼力』。効果はどーせ知ってるんだろ?」


「珍しい身体強化系能力だったね。そういえば言ってなかったから言っておくけれど、その身体強化能力。俺たち超能力者は基本搭載しているから、注意しておくといいよ」

「……そりゃありがと」

 どうしよ、僕のあいでんててー丸崩れだ。


「日時は……そうだね、明日の深夜ゼロ時にでもしようか、この時計塔の前にある大広場で。十全に用意してくれ。負けたときに言い訳を聞くのはうんざりなんだ」

「あっそ。その言葉、自分に跳ね返ってこないように気をつけるんだな」

「気をつける必要があると思うか?」

「あるよ。それとも超能力者様は、石で転けたことはないのかな? 矮小な物だからって舐めてかかるとヒドい目にあうぞ?」

「なるほど確かに。気をつけておこう」

 双方共に、不敵な笑みを浮かべながら、立ち上がる。

 そのタイミング。一瞬の隙と油断が生じるその刹那。

 僕は立ち上がりながら靴を脱いで、靴底の裏に隠していた──忍ばせていた鋭利なナイフを足の指でつまんで、水切りよろしくアンダースローのように、脚をしならせて投げた。

 立ち上がりつつの、机の下という死角からの一投。挙動も少なく、貴堂に気づいている様子はない。

 そのまま、ナイフは、一直線に、進んで、貴堂の、アキレス腱が、消えた。


「あら?」

 外れたナイフは軌道を少し上に修正しながら、曇りガラスに突き刺さった。反対側で回転していた秒針とぶつかって、秒針の先端が落下していった。

「ふう全く危なっかしい、たった今不意打ちのくだらなさを教えたばかりだというのに」


 人が消えた空間を呆然と見つめていると、背後からそんな声が。

 振り向くと、貴堂がエレベーターの中で大げさに礼をしていた。

「俺の能力は皆さんご存知テレポーテーション、名前は『空間短縮セレクトカット』それでは」


 貴堂は顔をあげる。ずいぶんと余裕そうな、勝気な顔で。

「正々堂々と互いに名乗りあい、真っ向から手合いましょう」

「……白昼堂々と手段を選ばず背後から不意討ってやんよ」


「それは十全」と貴堂は笑い。

「そりゃ重畳」は僕はほざいた。

 エレベーターの扉が閉まった。

 話し合いの時間は、これで、終わりを告げた。


「外の世界で迫害なく暮らすために地位と名誉と利用価値が欲しいから、お前ら犠牲になって」


VS


「友達を傷つけるのなら──僕の世界を汚すのなら、お前ら全員ぶっ壊す!」


噛み合ってるようで、噛み合ってない、ただの意見のぶつけ合いスタート!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気に入った方は 『評価』や『お気に入り』 『感想』 をいただけると嬉しいです。      小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ