「くたばれバーーカ」
「私は、正義の味方。あんたを倒すために、ここに来たんだ」
委員長に、仲直りするように命令されたその日。
学校は小坂井がいなくても、クラスメート一人足りなくてもつつがなく進んで、問題なく終了して、僕は隣に誰もいない帰り道を自転車で走り抜けて、部屋に帰っていた。
部屋は小坂井が居なくなってからというもの、汚れに汚れてゴミ屋敷と化していたけれど、帰ってみると綺麗さっぱり片づけられていた。
大方、部屋に勝手に侵入した小坂井が片づけたのだろう。
形だけのシンクには鍋が置いてあった。
夕飯に食べようと温めていると、唐突にインターホンが鳴った。
僕の知り合いには静かにインターホンを鳴らす人は、委員長しかいないから多分委員長かなと思いながら、ドアを開くと知らない人がいた。
彼女は時宮心々実と名乗った。
動きやすそうな服装をしている女性だ。髪の色は茶色。少しウェーブをかけている。
彼女はどうやら僕のことを知っているらしいけど、僕は全く見覚えがない。
首を傾げながら話していたら、彼女は唐突に、そう言ったのだ。
「……は?」
その直後。彼女の髪が、茶色から赤色に変わった。
一瞬、オレンジ色の光が見えたと思えば、視界が真っ赤に染めあがった。
炎だ。
爆発的に広がった炎が、視界を覆っているんだ。
「────ッ!!」
のどの奥から干上がっていくのが分かった。唇が乾く、切れて血がたらりと、流れる。
周りの空気が一気に干上がっているのか。
「っく!!」
つばを飲み込んで、僕はドアを閉めて、踵を返しながら玄関を強く踏みしめた。階下は高木の部屋か。なら、床を貫いてもいいか。
床を踏み貫く勢いで、跳躍。ベランダに向けて跳ぶ。部屋を片付けるって大事なんだなと、本気で思った瞬間だった。
踏みしめて、跳ぶ。その直後、背後の玄関が消えた。
ドアも、辺り一面の壁も一緒くたに吹き飛んだ。いや、燃え尽きた。
炎は、玄関を呑みんで、灰も残さず、塵も残さず、燃え跡も残さず、燃やし尽くす。
ヤバイヤバイヤバイ!!
背筋が凍る。冷や汗が止まらない。それとは対照的に、部屋は一気に暑くなった。
距離にして数歩。十歩にも満たないその距離が異様に長く感じた。
投げ捨てていたバックを蹴飛ばして、走る。背後からもはや爆発と言っても良い炎の壁が迫り来る中、窓を体当たりで割って、ベランダに飛び出し、そのまま、下にある裏庭に飛び降りた。
二階からなら、死にはしないだろう。そうは思ったのだが。
「っっ恐えええぇぇ!!」
後ろの炎と滑空感のせいか、案外恐かった。
べちゃっ、と着地というか落下した僕は口の中に入った砂を吐き出しながら見上げると、丁度蹴飛ばしたベランダから炎が噴きだしてきた所だった。
まるで傍若無人な化け物のように、意思があるようにうねりながらオレンジ色の炎は触れるもの全てを灰に還し、灰を塵に変え、塵を芥に代えて、芥を呑み込む。
通り過ぎた場所には、もう、なにも残っていなかった。
「──うん、やっぱ訳分かんねーな」
簡単に思い返してみたけれど、なんだこの理不尽。いきなりやってきたどこぞの誰かが正義の味方で、僕を倒しにきたってどーいうことだよ。こういう時のテンプレって、隣に引っ越してきた美少女とかじゃないのか?
まあ、顔つきは良かったけど。誰からでも好かれるタイプの美人さんだった。八方美人。目つきは少し悪かったけど、まあ許容範囲内だ。
「だからって許す気は更々ないんだけれども……ホント、どうしたらこうなるんだ?」
見上げる。自分の部屋を襲った惨状を再確認して、僕は少し呆然とする。
もちろん、明日から一体どこで寝ればいいんだとか考えてるからじゃあない。明らかに命を狙ってきている攻撃を受けた後に、そんな事を考えれるほど、僕の神経は図太くない。
どれだけの火力で焼けばこうも綺麗に焼き付くせるのだろうか。というか、これはもう火力がどうこうという、そういう域の話なのか?
「さて、上手くいったかな?」
スタスタと歩く音がする。
こちらに向けて、歩いてくる音がする。
「うーん、やっぱりなんだか不意打ちなような気がしてなんだか後ろめたいな」
今頃後悔の声。
後悔したところで、僕の部屋は帰ってこないというのに。
うーん。見つかったら、また炎が飛んできそうだな。
あんなの喰らったら、一発でお陀仏だ。死んでもないのに火葬されてたまるか、と、僕は彼女が裏庭を覗く前にさっさと逃げるべく、歩を進める。
「けど、情報によると二人とも同じ部屋で住んでるって話だったのに。買い物にでも出かけているのかな」
足音がゆっくりと、近づいてくる。二人……住んでいる?
それって、つまり、狙っているのは自分だけではなく──小坂井も。
逃げようとしていた足が、止まった。
「まあ、ここで待っていればいつか来るよね」
「…………」
なぜ、なんで、どうして。小坂井と僕、二人が命を狙われる羽目になっているのだろう。
しかも相手が、自称正義の味方。正義に狙われるような事をしでかした覚えはないんだけどな。
頭の中がこんがらがる。脳みそが異常にフル回転する。けど、それはすぐに納まった。
気分的には、英語の文章問題を読むのが面倒で選択問題を適当にマーク時と同じ気分。
つまり、考えるのがメンドクサイ。
自分がなぜ、狙われているのかは皆目見当はつかないけれど。やるべき事は、一つだ。
襲われてるなら、逆襲しないと。
「そうと決まれば……」
近くの雑草畑の中に隠してあった鉄骨を引きずり出して、肩の上に置く。後は待つだけ。
絶好のタイミングを、絶対的瞬間を。最高潮の刹那を。
待って、待って、待って待って待って待って…………。
「さて、仕留めれたかな──」
敵が、部屋から顔を出した瞬間。
「『鬼力』!」
僕は己の持つ欠陥能力を、全開で発揮した。
身体への影響が少ないように使ってるいつもと違って、身体中が能力に耐えかねず、軋む音がする。
そんな状態で僕は、跳んだ。
顔を覗かせていた女子の更に上。
頭上に飛び上がり、片手で指を喰い込ませながら持っていた鉄骨を、上から下に、振りぬいた。
突然の事に虚をつかれ、対応できなかった時宮と名乗った誰かは、頭上から迫る鈍器に対応できずにマトモに喰らい、顔面から床に叩きつけられた。
かなり盛大に陰惨な音が撒き散らされたが、床を突き抜けることはなく、時宮の顔は勢いを殺せずバウンド。
「二撃、絶殺!!」
それを狙って、まるでゴルフでもしてるかのように、今度は下から上へのフルスイング。力が感じられない時宮の身体は抵抗することなく、撃ち飛ばされた頭に引っ張れるように、鼻血でアーチをつくりながら、今度は後頭部だけでなく背を強く、床にうちつけた。
「────ッ!?」
「三撃」
体中を襲う衝撃に、物理的にも目を飛び出させながら、口を大きく開いて、痙攣している時宮の頭上に僕は、彼女の体を跨いで立つ。
「滅殺!」
鉄骨を直立に持ち直して、根っこの部分を両手で持ち、そのまま、彼女の顔面めがけて力一杯目一杯、叩きつけた。
鉄骨、鉄塊、つまり鉄の塊。
注意書きなんて無くても、注意勧告なんてしなくても。絶対人を殴るのに使ってはいけない鈍器。
誰だってそんな事理解できる無骨なフォルムに、それに搭載された絶対的比重。
それが、轟ッと風を裂きながら倒れている時宮の顔面を捉えた。
絶望的な音が、ぶちまけられなかった。
「ん?」
手応えはあった。しかし、それは人の頭を砕いたにしては妙に軽いことを、指伝いに僕は感じ取っていた。試しにもう一回ぶつけてみようかと思い立って、鉄骨を持ち直したところで。
「……ってぇなぁ」
鉄骨の下から、声がした。
頭蓋骨が粉々に砕けてもおかしくない、寧ろ粉砕されてないとおかしい一撃を喰らっているのに、どうしてか鉄骨の下にある口は動いている。
「嘘だろ?」
僕は咄嗟に、持っていたままの鉄骨を思いっきり押し込もうとして──。
「ってえぇなあぁぁ!!」
その鉄骨が、ドロリと溶けた。手が溶けた鉄の中に吸い込まれる。
「ッ!!」
溶けた鉄骨をさわったせいで、火傷した手を庇いながら、僕は少し距離をとる。
溶けた鉄骨は時宮の周りの空気をオレンジ色に彩りながら、ドロドロと落下して、地面につくときには消えて無くなっていた。
そんな中、彼女は、むくりと起き上がった。殆ど無傷に近い状態で。
唯一ケガしている、折れて曲がった鼻からは壊れた蛇口のように、とめどなく血が溢れるけれど、時宮はそれを摘んでへし曲げて、ムリヤリ止めた。
「なに勝ち誇ってんだよ。なにまさか勝てるとでも思ってんの?」
さっきまでの人当たりの良い八方美人な笑みは消え、存分に顔を歪めて、眉間に皺をよせている。
どうやら彼女は、感情を隠すのが苦手らしい。
「ホントアマい。アマいアマい。クソアマい。ゲロアマい。あんたら奪われ尽くしの欠陥品がさぁ、神に愛され、満ち満ちに満たされ尽くしの私に勝てるとでも思ってんの!」
そう時宮が叫んだ直後、視界が真っ暗になった。
こんなタイミングで能力がきれてしまったのかと、一瞬不安になってしまったけれど、どうやらそういう事ではなく、ただ少しの間気を失っていただけのようだ。
真っ暗になっていた視界が晴れてくると、僕は青々とした快晴の空を見上げていた。
と、同時に体中を駆け巡るように、痺れが襲う。
「ッッッ~~~!!」
臓物が五臓六腑がグチャグチャに、しっちゃかめっ ちゃかに、引っかき回されたような、いや、引っかき回された圧倒的苦痛が体中を駆けめぐり、僕は腹を抱えながら体を捩らせながら転げ回った。
──どうして僕は今、負けている。
《箱庭》実力序列は、単純なランキングではなく、まず上位、圏内、圏外と三つに分けられた序列で、その三つの間には越えられない壁が存在する。
僕は、その上位と圏内の間の壁。
序列上位七名の一人。『最弱』『ラビット』。
一番弱くて、一番厄介な上位七名。
それが僕の立ち位置。つまり、上位七名ではければ、まず負けることはないと断定されているはず──それなのに、どうして僕は負けている。
「そりゃあ確かに力が強いだけで、耐久性は人並みだけどさ……!」
のどの奥から生温かい液体のようなものが、粘っこいものがせりあがってくる。
口の中に入りきらなくなり、生温かい液体が口元から溢れだす。
赤い赤い血が、溢れだす。
「……ゲホッゲホッ」
ノドに詰まりそうな血を吐いて、僕は辺りを見渡す。
「えっと、ここはどこだ? 裏庭……じゃーないな。入り口か? ってことは反対側まで飛ばされたってことか。なんだ、ぶん殴られた仕返しかなになか?」
とか言ってる合間に回復した僕は、さながらゾンビのようにガバッと起きあがって地面に叩きつけられた。
ゴキッ、と首の辺りからしてはいけない音がして、口からさっきまでと、比べものにならない量の血が噴きだした。
「え、あぁ……!?」
「勝手に立ち上がってんじゃねぇよ」
頭上から時宮の声がする。後頭部に、少し固くて平べったいものの感覚があるから、多分踏みつけられているんだろう。と思う。
「ふん、上位七名とか看板背負ってるからどれだけ強いのかと思ってたけど、やっぱり私の敵じゃあないね」
「おえっぐッえうぁ……」
ぐりぐりと踏みにじられながら、血反吐を吐く。僕の性質がMだったら悦ばしいというか、もっと頂戴!
と叫びかねない場面だけれども、残念ながら僕はMじゃなくて、どうしても苦痛としか感じれない。
今日ほどMになりたいと願った日はないかもしれない。
「さて、さっさとトドメを刺すか。まだ相手にしないといけない相手はいるわけだし」
「ゲ、ゲェェェ……」
足が頭の上から離れた。
吐きながら、横目で時宮を見上げる。右手の調子を確かめるように、グーパーグーパー動かしていた。その手の回りだけ温度が高くなっているのか、後ろの背景が歪んでみえる。
「それで雨夜維月。なんか言い残すことある? 私初めての討伐相手として心の奥底にしまっておきたいんだけど」
「…………」
そんな事を、時宮はほざいた。
最後の言葉、ねぇ。
少し考える。
少し長考する。
そして決断。
口を開く。
「くたばれバーーカ」
「ふーん、じゃあね」
素っ気なく返された。
丁度弓を引き絞るように、構えられていた腕を、拳を振り下ろされた。
僕は目を瞑る。
「……………………?」
来ない。
いつまでたっても拳が落ちてこない。もしかして今頃になって人の生死を扱うのが恐くなったのかとか、やけにあっさりと諦めた僕を不審に思ったのかとか、情けなさ過ぎて倒すのがアホらしくなったのか、とか色々考えたけれど、全部違った。
僕は目を開く。
視界を、長くて、青色の髪が通り過ぎた。
僕はこれに、見覚えが──。
「くさっ……」
若干臭いこれに、見覚えがあった。
「あれ……?」
時宮が素っ頓狂な声をあげる。
見覚えのある病的に白い肌の手は、高温の手に触っているというのに、焼けていなかった。
大方、欠陥能力を使って記憶を戻して熱くなる前に戻したのだろう。
「ダ、ダメッ……!!」
そいつは時宮の体を押した。
技術もなにもない、単に彼女の胸の辺りに両手をつけて押すだけ。
しかしまさか押されるとは思ってなかったらしい時宮は倒れはしなかったけど、バランスを崩して一歩二歩後ずさった。
それで生じた僕と時宮の間に、両手を広げてそいつは立つ。
「ケホッ、ゲエェ、ゲッ……」
血を吐きながら、そいつの後ろ姿を見る。
「すーーー…………」
大きく息を吸っているそいつは、切るのをめんどくさがって、腰まで伸ばした青髪で、下級生と間違えそうなぐらい小柄で、聞き覚えのある声で、いつものおどおどとした喋り方とまるで真逆な声色で。
「維月に触んなぶっ殺すぞ!!」 と叫んだ。
「な、なにすんの!」
「なにしやがんだはこっちのセリフだよ、人様の大切なもんに許可なく触って触れて、あまつさえ殺そうとするっつうのは一体全体なにさまのつもりなんだあぁん
!?」
ドスの利いた声でそいつは彼女を気迫す。
「維月に触っていいのは自分だけだ。分かったかボケナスがッ!!」
「いやいや……」
いつのまに、お前の所有物になってんだよ僕。
「邪魔してんじゃねぇよ! まずはお前から焼き尽くすぞ!!」
と。
女子同士のキャットファイトが始まらんとしたそのタイミングに、良く悪くは分からないけど、とにかく携帯が鳴った。
時宮は忌々しげに舌打ちして携帯を耳に当てた。
戦闘中に携帯を鳴らして、でるというのは些かマナー違反な気もするけど、あそこまで大胆だと緊張感が霧散していく。
目の前のそいつも、さっきまでと全然違う、いつも通りの気弱なオーラを放っている。
頼もしかった背中も、頼れない小さな背中になっていた。
血と一緒にため息を吐く。そして僕は、そいつの名前を呼んだ。
「小坂井 ……さっきのセリフ。中々のお前が言うな、なセリフなんだが?」
「……維月」
そいつ──小坂井せつなは振り返った。顔を隠すよ
うに伸びた前髪から、ちらりと覗く顔はドスの利いた声を出していたとは思えない、幸薄そうな顔で、泣きじゃくってくしゃくしゃになっていた。怖かったのね。
そんな、今にも泣き出しそうな顔のまま、小坂井は僕の首に手を当てた。
そのまま首を絞められるのかと冷や冷やしたけど、そんなことはなく温かな淡い光が、僕の首を包んだ。
「……維月」
「ん?」
首の痛みがじわりじわりと、消えていき、血反吐がでなくなったのを確認していると、彼女は唐突 に言った。
ケンカしたら、いつかはどちらかが言うセリフを。
それを言われたら仲直りしないといけない、最低な言葉を。
自分がどれだけ相手が嫌いでも許さないといけない暴力的なワードを。
許し合うには必須の、言葉を。
小さな口をもごもご動かして 、紡ぐ。
「……ごめんなさい」
「…………」
あえてスルーしてみた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「…………」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
停止ボタンが壊れた機械みたいに、ごめんなさいだけをリピートし続けられた。
謝罪の言葉なのに、これだけ言われるとまるで自分が悪いように聞こえる。
ホントに攻撃性の高いセリフだ。
「……はぁ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな さいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん なさいごめんなさい──」
「もーいいよ。委員長も覚えてないし、仲直りしろってウルサいし、お前が謝ってきたら許す気だったしな」
「……!」
「恩人相手に手のひら返しするような、恩も感じないような薄情な人じゃあないよ。ただ、次やったら許す許さないの話じゃーないからな?」
「……♪」
嬉しそうに、小坂井は何度も頷いた。
丁度、首も治ったようで僕は首をぐるぐる回して体調を確かめる。
「さんきゅ、おかげで助かった」 頭を撫でてやると、やっぱり小坂井は目を細めて頬をゆるめた。
尻尾がついてたらぶんぶん振ってそうなしまりのない顔だ。
「しっかし、まるでタイミングを見計らったような登場だったな」
「きっきき気のせいっ……!」
「そうか?」
「う、うん。偶然とかそんなの……!!」
なんだその、道に迷っていた時宮に道案内してあげてしまったのを隠してるみたいな反応は。
ま、さすがにそんな事はないよな。そこまでバカなわけはない。
「はぁ!? なんでフザケんなよ!」
と、時宮は携帯の先にいる相手めがけて叫んだ。
音漏れはなく、会話の内容はよく分からない。
「人目……ああ、まあ確かに……ああ分かりましたよ!」
携帯を握りつぶした時宮は僕を指さした。
「今回は見逃してあげる! でも次はないからね!!」
言うべき事は言った。と、時宮はさっさとこの場を後にした。
残された僕と小坂井。
「これは……助かったのか?」
ポツリと呟くと、緊張が緩んだのか、小坂井のお腹からキュルルルル、と腹の虫が鳴った。恥ずかしそうに、小坂井はお腹を抑える。
僕はひひひ、と卑屈に笑う。
「そーいや、おまえ負荷がエネルギー消費だったな。部屋は焼けて無くなっちゃったし、しょうがないから外食に行くか?」
「……!」
「もちろん自費な。奢る気は更々ない。というか奢る余裕はない」
「……安いところで」
小坂井は財布の中身を確認しながら肩をがっくり落とした。
安心しろ。僕なんか貯金全部焼け落ちたんだから。
僕の全財産。五百六十円。
給料日まで後、二週間。
やるせねぇ……。
***
雨夜維月対時宮心々実。
感染者対超能力者の第一戦。
兎対戦塵は、舞姫の乱入で引き分け。