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どーなっつハート!【プロトタイプ】  作者: 空伏空人
元親友と再会の日。
13/23

「ぁ、ぁの……」

 嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた!!

『友達の友達は他人だけど、友達の敵は僕の敵だ』

『もう二度と僕と委員長の前に現れんな』

 頭の中で、立体音響みたいにぐるぐる響く声と記憶。

 それはつまり、委員長の敵となってしまったせつなは、維月の敵となってしまったということです。


 どうしてでしょう。なぜでしょう。

 決まってます、せつなのせいです。せつなが身勝手に好き勝手に自分勝手に彼女を怨んで嫉妬したせつなが悪いのです。


「……!」

 あー消したい消したい、失くしたい戻したい。能力──

深想記憶メモリー』を使えば、この記憶は戻って無くなってくれるでしょうが、そうすればきっと、せつなはもう一度彼女を襲ってしまうでしょう。嫉妬にかられて襲ってしまうでしょう。

 そんなことをすればきっと維月は、いや絶対せつなの首を折るでしょう。


 維月にとって友達というのは、せつなでいう維月のようなもので、精神安定剤というか、近くにいることで安らぐ相手ということなのでしょう。いえ、それ以上の存在なのかもしれません。

 それがなければ自分がいなくなってしまうぐらい、大事な存在なのかもしれません。それを傷つけてしまったのだから、そりゃあ嫌われて当然です。むしろ、嫌われた程度で助かったと言えますね。


 というか。

 ここまで色々考えましたけど、これが正解なのかどうかは分かるはずも無く、彼の気持ちを理解できるのは彼だけなのです。

 この気持ちはこの気持ちにしか分からないから、あの気持ちもあの気持ちにしか分からないのです。


 ですから、こうして頭を抱えて必死こいて考えたところで全部ムダなんですよね。

 ですから、せつなに今できることは、暗中模索の数打ちゃ当たる戦法といいますか、色んなアプローチをして、許してもらえるように頑張る。という事なのですが……。


 電話はでてくれるけど、すぐ切られるし、謝罪文はこの前アパートの裏庭で、焼き芋を作る燃料にされていました。

 時々、維月の部屋に遊びに行ってる高木さん曰く、最近維月はインスタント商品ばっかり食べているそうなので、さっそく温かな手料理として、温めるだけでいいお鍋を作って、部屋に置いていきました。

 ふふふ、合い鍵は既に持っているのです。


 部屋に這入ると、部屋が想像以上に散らかってました──積み重なっていました。

 わかりやすく言うと、横に対してだけではなく、縦に対しても散らかっていた。縦横無尽に、好き放題に適当にゴミが積み重なっていたのです。

 絶妙なバランスを保って、そんな部屋の光景は保たれていて、ついウッカリ転けてしまえば、その衝撃でなだれがおきそうなぐらい、散らかっていました。


 仰天すべき天井も見えない有様です。一週間でどうやったらこんなに汚せるのー!?

 と大声を張り上げたかったですけど、そんなことしたら、ゴミの雪崩が起きそうなので、口にチャックして片づけました。

 そもそも大声を張り上げるようなキャラじゃないですし。

 使用したポリ袋。四十三個。たくさん部屋に置いといて正解。

 長い髪は鬱陶しかったので、後ろで縛ってポニーテールに、前髪は維月に貰った髪留めで留めて、視界を確保しました。

 そういえば、その掃除の時にえっちな本はありませんでしたね。良かった良かった。


「……♪」

 そして今、若干気分が明るくなったせつなは、キャスケット帽を頭の上に深く被って、夕飯の買い出しに向かっています。

 現在宿無しのせつなは、維月の部屋の階下の住人である高木さんの部屋に居候しています。

 そのお礼に、夕飯はせつなが作っています。高木さんは『困ったときはお互い様というし、別にくつろいでていいよー』なんて言ってくれるのですが、正直言うとあなたに貸しというものを作っておきたくないと言いますか、後でそれを悪用されても困りますので、夕飯ぐらいは作っています。

 今日はなにを作ろうかな。維月と同じ鍋でいいかな。そういえば、冷蔵庫の中身殆ど腐ってたな、勿体ない。新しい食材を入れておけば、インスタント商品ばっかり食べる食生活を改善してくれるかな、いやいやそれなら、手料理を毎日作って置いといた方が好感度高いんじゃないかな。そうだそうしよう。胃を掴んでしまえば維月もきっと──。


 なんて。

 もはや謝るということを考えてない、気も更々ない、自分が犯した罪を、なあなあでもみ消すという、最低なことを考えている時でした。

「あ、そこの女の子。ちょっといい?」

 と、声をかけられたのは。


 ***


 振り向くと、一人の女性が立っていました。二、三歳ほど年上でしょうか。茶色の髪に少しウェーブをかけた人で、手を振る度にその髪が靡きます。

 なんというか、人当たりの良い笑顔を浮かべてます。クラスではさぞ、人気者だったでしょうね。

 はて、そこの女の子?

 左を見ます。誰もいません。右を見ます。禿げたサラリーマンがへこへこ電話相手に頭を下げています。見えないのに。

 ん? ということは、もしかして彼女が呼んでいるのは。試しに首を傾げて、自分の顔を指さしてみます。


「そう、そこの女の子」

 せつなで合ってたようです。

「いやあ、良かった良かった。気づいてないかと思ったよ。冷や汗ものだね全く」

 ふー、とわざとらしく汗を拭う素振りをしながら彼女ははにかみました。

 不審者を恐れるあまり、疑心暗鬼になりすぎて、見ず知らずの他人を基本悪人だと思う昨今、しかし、この滲みでる人の良さにはいちゃもんをつけることは出来ません。

 まあ、絶賛人見知り中のせつなには毛頭関係ないことですけど。今も若干目が泳いでいます。赤の他人と一対一で話すとは、滲みでる人の良さがなければ、今すぐ回れ右して猛ダッシュで逃げだしたいぐらいです。


時宮ときみや心々ここみ

「……え?」

「自己紹介だよ。名前が分からないと話しづらいのかなと思って。時間の時に、宮殿の宮、心に佐々木の々、実る、で時宮心々実」

「……」

 胸に手を当てて、彼女──時宮さんは言います。

 いやいやいや。

 別にそういう訳ではないんですけど。

 名前が分かったところで、せつなは人とはあんまり話せないだけなので、動物とかなら話せますけど。


 しかし自己紹介されたのなら、返さないといけないのでしょうか。苦手なんですよね、自己紹介。自分の一体なにを誇って紹介すればいいんでしょう。

「それでちょっとお願いがあるんだけどね」


 自己紹介すべきか迷っていると、時宮さんは持っていた紙をせつなに渡してきました。

 なんですかそれ。押し売りですか。判を押せばいいんですか。と思いながら見てみると、それは地図でした。

 市販の細かいところまで書いてある地図ではなく手書きの、まるで、子供が初めてのお使いで迷子にならないようにと渡されるような、ものすっごく簡略化された地図です。

 横断歩道の所に『手を挙げて渡ろうね』とか書いてあったら面白かったのですが、残念ながら書いてありませんでした。

 何重にも赤色で丸されているところが目的地でしょうか?


「道に迷っちゃって、ここがどこか分かる? 私方向音痴でさ、わざわざ地図まで書いて貰ったのに分かんなくなっちゃったんだ」

 恥ずかしそうに、たははーと、時宮さんは屈託なく笑います。

 なんでしょう。こんな風に、自分の空間を持っているテンションの高い人をせつなは一人知っているのですが、その人と違ってこの人は中々親しみやすいです。

 しかし困りました。うっかり話を聞いてしまいましたが、せつなもここらを、そこまで網羅してはいません。通学路なら、目隠しでも案内できるんですが。

「ああ、そこまで詳しくなくていいんだ。今どこら辺にいるかが分かればいいんだ」


 ふむふむなるほど。せつなは地図に書いてある道をなぞりながら、現在地を探します。

 比較的分かりやすく書かれているおかげか、現在地はすぐに分かりました。これで迷うって、時宮さんは中々の迷子っぷりです。

「……?」

 あれ、この目的地ってボロアパート? あんな所に一体全体何のようでしょう。

 まさか新規入居者な訳はありませんよね、あんな所、好き好んで住む場所じゃありませんよ。

 いや。それよりも。

 それよりも、どうして維月とせつなの写真が、地図に添えられてるのでしょう。


「あの、どうかした?」

 意識をそこに集中しすぎたのか、直立不動になっていたせつなの肩を、時宮さんは優しく揺すってくれました。

「……!」

 急いで両手を胸の前で振って、何でもないことをアピールします。

「そう、なら良かった」

 時宮さんは胸をなで下ろしました。怪訝な顔をしない辺りが、やはり良い人です。

 せつなは今の位置を、だいたいで指さしました。時宮さんは「ありがとう!」と、両の手の指を合わせて、喜びの声を上げました。

「なるほどね、逆方向に進んでたんだ。そりゃあ、道にも迷うよねー。ありがとう助かったよ、えーっと……」

「ぁ、ぁの……」

「うん?」

 一人納得しながら、地図を見ている時宮さんに、せつなは勇気を出して聞きます。おどおどとした、それこそ不審者のような挙動で聞きます。

「ど、どうして……い、維月の写真……もも、持って、るの……?」

「……知りたい?」


 ゾッと。


 悪寒が、背筋を、まるで、芋虫のように、這いずりまわった。


「……!?」

 咄嗟にせつなは、時宮さんから距離をとりました。時宮さんは、人当たり良く笑いながら口に人差し指を当てて。


「なーいしょっ」


 と、言って教えた方向に向けて歩き始めました。


「……」

 せつなは暫くそこに立ち尽くしていましたが、時宮さんが視界から消えたところで。

「うん……」

 決意を固めて、維月がいるボロアパートに向かいました。

 理由とすればただ一つ。なんだかイヤな予感がしたから。

 女の感は鋭いですよ?


 ***


 彼女が方向音痴というのは、嘘でも出任せでもないらしく、徒歩で数分の距離にあるボロアパートに着くのに、約一時間かかりました。途中何度「もう先に行って待ってようかな」と思ったことでしょう。


 時宮さんは、ボロアパートの入り口前に立つと、地図と何度も見比べて、維月の部屋がある二階に跳んで移動しました。

 ぴょんと、一っ跳びで二階の廊下に立ちました。

 驚くべきなのでしょうが、残念ながらそんな風景はよく見かけるので、そんなに驚くことはありませんでした。しかし、周りに変化が余りないということは、肉体強化系の能力なのでしょうか。


 それは珍しいです。


 せつなが知ってる限りだと、維月とあと《箱庭》実力序列上位七名の一人、『無敵』のかがみさんぐらいしか知りません。

 案外珍しいんですよね、肉体強化。

 歩けば絶対軋む、音の鳴る廊下に着地した時宮さんは、その音を余り気にせずに、維月の部屋の前につかつかと歩くと、インターホンを押しました。一回、ピンポーン、と音が鳴ります。暫く待つと、維月が片手にお玉を持って、出て来ました。お鍋を温めなおしてたのかな、良かった捨てられてなかったんだ。


「──────」

「──────」

「──────」

「──────」

「むぅ……」

 二人がなにやら話しているのは分かりますが、なにを話しているかは分かりません。なにやら雨夜はジェスチャーを交えてますが、それでもやっぱりなにを話してるかは分かりません。


 近づけばもう少し聞こえるでしょうが、そしたら雨夜の視界に入ってしまう可能性があります。

 なのでせつなは、ボロアパートの周りを囲う石製の囲いに隠れながらチラチラ盗み見したりするしかできません……フフフ、昔のストーカー技術が役立つときです。


「──────?」

「──────」

「──────!?」

「──────」


 二人の玄関前の会話は中々終わりをみせません。どうやら維月がのらりくらりゴマカしながら逃げているようです。維月は、一度相手を不審に思うと──味方でないと疑うと、当たり前のように、それがまるで事実であるかのように──自分自身も騙しながら嘘をつく。


 維月の悪い癖です。一体誰が刷り込んだのでしょう。委員長さん……じゃあ、ないよね。あの人が嘘を強要するとは思えないし。

 じゃあ一体誰なのでしょう。維月の行動理念は周りとの約束ですから、自発的ではないと思うのですが……。

 ともかく。

 とにかく。

 そんな嘘つきな彼に、時宮さんが困惑しているのが後ろからみても、わかります。


「──────」

「──────」

 しかし。維月の部屋の中がここからの角度だと丸見えなのですが、今さっき片付けたばかりだというのに、既にゴミの山が何個も出来上がってます。散らかすの上手すぎるでしょう。

 なんですか、街中のゴミを引き連れて行進しながら帰ってきたのですか?

 全く、また片付けないといけないじゃないですか、全く。とプリプリ怒ってみたりしたのですが、それはムダなことでした。

 え? どうしてかって?

 そりゃあ、維月の部屋が燃え尽きた、から?


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