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「翔馬、大丈夫だったか!?何かされなかったか!?」
「危なかったけどおじいちゃんが来てくれたから大丈夫!」
将馬は久男が来たことで随分気持ちが楽になった様だ。
だがそんな久男を見てあることに気が付いた。
「おじいちゃん……?なんか透けてない……?」
「ん?」
久男の下半身が足の辺りから透けて、後ろの雑木林が見えていた。これは今の久男が幽体だからなのだが、そんな事翔馬は知らない。
「もしかしておじいちゃん……、死んじゃったの?」
別に死んではいないのだが、説明すると長くなりそうなので、
「まあ似たようなもんじゃ」
とだけ答えた。
翔馬は不思議そうな顔をしていたが、説明は後にしよう。今は目の前のコイツをどうにかしなければならない。
「翔馬、よく聞け。あの化け物はお前に害を与える存在じゃ。ワシはアイツを退治してくる」
背後でアイツの気配がする。まだ倒し切れてないのだ。久男は後ろを指差す。指を指した先の林は青白く光っていて道のように見えた。
「ワシがここに来るときに作った『霊道』がある。あの光っているのがそうじゃ。翔馬はあの道を辿って家まで帰るんじゃ」
「おじいちゃんは大丈夫なの?」
翔馬が不安な顔で訪ねる。
そんな翔馬を見て安心させてやろうとそっと翔馬の頭に手をやり、思い切り笑顔で答えた。
「安心せい、翔馬。じいちゃんは翔馬が立派な大人になるまで何があっても大丈夫じゃ」
「おじいちゃん……」
ぞわっと、背筋の凍る様な気配がした。
アイツが動き出したのだ。
「行くんじゃ!翔馬!」
その言葉を聞いて翔馬は霊道へ走っていく。
「よよよよよよよよよよよよよよ」
不気味な声が山に響いた。
「……来い、もののけ」
翔馬は不安だった。
おじいちゃんは本当にあんな化け物と戦えるのだろうか。
あの化け物は何なのか。
本当におじいちゃんは帰ってきてくれるのだろうか。
色々な事が頭の中で駆け巡る。
ただ、今翔馬に出来ることはこの霊道を信じて走ることだ。
ここから出たら助けを呼ぼう。そしておじいちゃんを助けてもらおう。
そう考え自分を落ち着かせ、ただただ走った。
どれくらい走っただろうか。前から光が差し込めてくる。
「出口だ!」
走りつづけた翔馬の足にはかなりの疲労がたまっていたが、出口を見つけるとその足は速度を上げた。
光の先へと飛び込むと、その先にあったのは知った光景だった。
「翔馬!」
「おじいちゃん!」
そこはいつも遊んでいるおじいちゃんの家の庭だった。
庭に突然現れた翔馬を見てみつをは駆け寄った。
恐らく霊道を通ってここまでたどりついたのだろう。
「翔馬、大丈夫だったか?怪我はないか?」
「うん、おじいちゃんが助けてくれたから……」
そう言って翔馬はうつむく。そして、聞きたかった事をみつをに訪ねた。
「おじいちゃん、あの変なのは何?お化け……?」
みつをはその問いに答えるかどうか迷ったが、話すことにした。
「翔馬は、幽霊や妖怪を信じるか?」
「……?」
「あれはな、この森の神様みたいなもんじゃ、でも、良い神ではない。人々に災いをもたらす悪鬼に近い存在といえるじゃろう」
「悪鬼……?」
翔馬は首を傾げた。
「そう、悪鬼じゃ。今おじいちゃんは悪鬼と戦っておる。なに、心配することはない。おじいちゃん達は昔からああいった者たちを退治してきたのじゃ」
「退治?」
「そう、じゃから今はおじいちゃんを信じて待っておこう。おじいちゃんが負けることは絶対にないよ、翔馬」
みつをは翔馬に優しく微笑んだ。翔馬はそんなみつをを見て少し安心したようだった。
「分かった。僕おじいちゃんが勝つようにお祈りしとく!」
「よし!おじいちゃんもお祈りするぞ」
そう言ってみつをは縁側に座ると精神を研ぎ澄ました。
みつをは後方支援に長けた能力の使い手だった。
今みつをは自分の霊力を久男に送り込んでいる状態にあり、久男の霊力増強に加え、再生能力の向上とあらゆる援助を受けている状態にある。さらに久男は現在幽体なので肉体に関係なく全力を出すことが出来る。
ここまでやれば大概の敵は倒すことが出来るのだが、逆に言えば今戦っている悪鬼はそれぐらいしなければ倒せないという事とも言える。
「必ず帰って来い、久男」